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ショートショート12 日々是試作也

 我輩はヅラである。髪はもう無い。

 どこで禿げたかはとんと見当がつかぬ。何でも齢二十歳(はたち)を超えた時には既に薄くなり始めていたと云う。我輩はこの時に初めて育毛剤と云う物を試してみた。李武二十一(リー○21)と云う名前であった。かの女傑、和田○○子が宣伝していたのが今となっては懐かしい話。その記憶を元に、電話で申込をした。商品が届いて直ぐ、早速使ってみたものの毛が生える予兆は現れず。一ヶ月粘ってみても結果は同じだった。

 我輩が育毛剤に失望しかけていた矢先、映像受信機(テレビジョン)に映った或る男が以下のような話をしていた。

「薄毛にお困りの貴方に朗報です。薄くなった頭皮をたった三〇秒で隠すことの出来る商品があるのです。これで手間のかかる育毛剤とはおさらば出来る事でしょう」

 その時、我輩の頭に電流が疾った。これこそが我輩の求めていた物だ。思い立ったが吉日。我輩は李武二十一を捨て、直ぐさまテレビジョンの電話番号をザラ半紙に書き留めた。

 そうして、我輩はヅラと成った。かつらを手にしてからと云うもの、表通りを堂々と闊歩する事が出来るように成った。人と会する際にも、余裕を持って談笑に努められるように成った。それまで灰色だった人生が悉く変容していったのだ────。



「……こういう話を次回作に持ってこようと思ったのですが、如何でしょうか」

「ナンセンスにも程があるわ。ヅラの男が主人公の話なんて誰が読みたがると言うの。大体、ヅラの話に『吾輩は猫である』のパロディを仕掛ける必然性がどこにあると言うのよ。方々から叱責の声を頂く事請け合いでしょう。そんな貧困な発想しか持ち合わせていないから、貴方はいつまで経ってもド三流なのよ。恥を知りなさい」

 この女の毒舌、我が繊細な心を弄ぶが如く嬲りつける。我が体力値、既に空と成りつつある。願わくば、この女の婚期が遅れん事を……。

「莫迦なモノローグを語ってないで、さっさと新しい話を考えてきなさい。そうでないと、貴方の作品だけ没にしますから」

 この世はとんと不条理なり。内なる心で壁に拳を叩きつけて、我は新たな創作に勤しむのだった。

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