ショートショート9 十年後の私へ
前略
十年後の私は元気にしてますか? なんて、つまらないあいさつはヤメにします。私だったら当然元気でいるよね。
あなたはどんな大人になってますか? 大して将来に夢を抱いてない私だけど、ちゃんとした仕事に就いて、ちゃんとした大人になってるでしょうか。そうだと嬉しいな。
今の私、あなたから見たら十年前の私は、華の女子高生生活をめいっぱい満喫してます。友達とダベっては遊んだり、月一でケーキバイキングに通ったり、俳優の○○くんが出てるドラマを毎週チェックしたり、いろいろ楽しくやってます。これでイケメンの彼氏ができてたら、何の文句もないんだけど……。十年後には、ステキな彼氏ができてることを祈ってます。ほんとマジで。
今の私がこれだけ充実しているんだし、きっとあなたも充実したキャリアウーマン生活を送ってるのかな。キャリアって何なのかよく知らないけど。とにかく、あなたも楽しい毎日を過ごしてたらいいな。
◇
「……こんなんだったっけ、私」
懐かしいような、それでいて他人事のような。十年の月日は、こうも人を変わらせるものなのか……などとおセンチな気持ちになりつつ。読んでいた手紙を脇に置いて、缶の中身を探る。
受験合格用の学業お守り、修学旅行で買ったカステラのマスコットキーホルダー、手作り感増し増しのしおり、その他もろもろ……。ガラクタばっかじゃねぇか。呆れ半分で中身を見る。
今の私なんて、キャリアウーマンなんかとはかけ離れたところで生きている。地味な事務職で、上司の顔色を窺いつつ、同僚の噂をお酒のツマミにしている、卑しい生活。三十路まであと一歩といったところなのに、イケメンの彼氏(笑)はいない。
「嫌な女になっちゃったなぁ」
ハハ、と乾いた笑いの後にため息が零れる。同時に、幸せも一呼吸分逃げていった。あぁ、私の華やかなウェディングロードが遠ざかっていく……。
机の上に置いていたビール缶を掴む。そのまま流れる動作で、ビールを呑む。麦の旨味がガサガサの心に染み込んでいくようだ。それでも──
「なんとかやっていかなきゃならんのよねぇ」
なんだか少しだけ前向きになれたような気がする。初心みたいなモノを過去の自分が教えてくれた、感じ。
アルコールが回ってきたからか、ほんのりと体が温かくなって心地いい。座ったまま伸びをし、体をほぐす。さてと、まずは──
「イケメン、探さなきゃな……」
できれば高倉健とか菅原文太みたいな人がいいんだけど、果たしてこの世にいるものだろうか。




