幽霊の彼女
ピーッと音が鳴り響く。
泣きわめく声と、駆け込む医師達の足音とが交ざり
静かだった病室が一気に騒がしくなっていった。
数日前ここで、一人の少女が命をたった。
……のだが、一体何故彼女が隣にいるのだろうか――
*
午前6時、幼い頃から聞いていた声で目が覚める。
その声の主は幼馴染みであり、彼女でもあった後藤怜だ。
「おはよう、優」
さっき、こいつが言った『優』というのが俺の名前。
二人とも高校二年の17才。
怜は、何食わぬ顔で俺のベッドの上に座って挨拶をしてくるのだが、ひとつ言いたい。
「……お前さ、なんでここに居んの?」
「え?」
「帰れ、空に」
そう、こいつは幽霊なのだ。
数日前、確かにこいつはこの世を去った。
にもかかわらず俺の部屋に居候している。
怜が亡くなった時は、堪えきれなくなって泣いた。
それからも思い出す度に涙が溢れてきてしばらくの間笑えなかった。
そんな時、怜は突然現れた。
幽霊だから触れることも出来ないのだが、また会えたことにたいして俺は喜んでいた。
笑顔も戻ったのだが……
「優ー暇だから、何か話そー」
「優の着替えぐふふふふ」
「ねえねえっ、お風呂除いてもいい!?」
忙しい時にもお構いなしに話しかけられ、
そして発言の6割は変態的な発言と言っても過言ではないだろう。
生前は、純粋で大人しくて空気が読めて
いかにも俺の理想なタイプだったのに、化けの皮を剥がせばこの様だ。
もしかすると幽霊になって性格が変わってしまったのかもしれないが、この際どうでも良い。
とにかく、一刻も早く成仏してもらいたい。
そうした方が怜のためにもなるし、俺のためにもなる。
(こいつと住んでるとおれの身が危ない気がするんだよなぁ……)
これは、勿論幽霊に襲われるとかじゃなくて怜にある意味襲われるという意味で。
「怜、いつあっちに帰んの?」
「あっち? 」
「お前のいるべき場所だよ、空の方」
そう言えば、怜は顔を曇らせた。
どういう意味でなのかはわからない。
「私、帰る方法知らないからここに住ませてもらってるんだよ?」
「……住ませてる覚えは無いのだが。じゃあ、どうやってここに来たんだよ」
「はて?」
さすがに、幽霊だからといってこいつを追い出して外に放っておいたりはしないが一緒に住むのもなんだか気が引ける。
(でもまあ、成仏するまで一緒に居てやるか)
そうして、俺と幽霊の彼女の同居生活といっていいかはわからない謎の生活が幕をあけた。
ちなみに俺は、両親と一緒に一軒家に住んでいる。
(一人で喋ってるように見えないよう怜との会話には気を付けよう)
そう、一人で誓った。