07
――のだが、そこが空中であるにも関わらずハンドルを握っていた操縦者が、突然バイクから離脱した。
車体を蹴り出し、バック宙の要領で空を舞うライダー。
一方、制御を失ったバイクは物理法則に従い――
*
「ジュリア。終わったか?」
返答はなかった。
電話の向こうでは、未だ独り言とキーボードのタイピング音が木霊している。
サージタリウスはワイヤレスイヤフォンから手を離しながら片膝をついた状態から立ち上がる。
いや、立ち上がろうとした時だった。
唐突に、轟! とサージタリウスの真横を真っ赤な真っ赤なバイクが風を切り裂いて駆け抜けた。そして追従の炸裂音。通り過ぎた真紅の鉄塊がビルに激突したのだ。
ビルに突き刺さったバイクのエンジン──燃焼を続ける心臓部は鼓動をそのままに、緩んだ接続部からなだれ込む大量の超可燃性の液体に着火。
瞬間、空間を震撼させる程の大爆発が巻き起こった。
「――――!?」
揺れる視界。
甲高い音を撒き散らしながら立て続けに砕け散るガラス片が宙を舞い、爆風でひしゃげた街灯が根から千切れて吹き飛ばされる。
咄嗟に背を向けてやり過ごしたサージタリウスは、背中に刺さったガラス片には一瞥もくれず、クルリと振り返って周囲の様子をうかがう。
朦々と立ち込める爆煙。気化したガソリンのツンとした匂いが鼻を刺す。
それまで微弱ながらも夜道を照らしていた月光は遮られていた。ただ、煙に巻かれているのは爆心地のビル周辺のみ。
約一〇メートルほど離れた距離にいるサージタリウスの視界は極めて良好であり、その表情は極めて冷静だった。
「酷いな。しかし、壊れるならば壊れればいい」
淡々と。冷ややかに。




