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――さて、こちらはこちらで飛び散った肉片を集めなくては。
携帯端末は通話状態を保持したままワイヤレスイヤフォンを接続してポケットにしまい込む。
電波は良好。音声クリア。コネクティングに異常は無し。
サージタリウスはこれまでの案件を思い出しながら、心の中で反復する。
まず、今回のマ王騒動の発端となった一度目のミッションでは、討伐時には何も残らなかった。
二度目のミッションでは飛散した肉片が数秒経たずに蒸発し、次ぐようにして死体も消えていた。
そして今回。三度目は──
ネチャリ、と粘り気のある感触がレザーグローブ越しに指先に走った。
血液特有の鉄臭さが鼻孔に広がる。
僅かに眉を寄せるサージタリウスであったが、仕事柄、こういった事には耐性を持ち合わせているので嘔吐する事はない。ただ、お世辞にも気持ちの良いものではなかった。
サージタリウスは摘んだ肉片を手のひらに乗せ、注射器にも似た器具をそれに押し当てる。
針のない筒状の側面にはデジタル表示の画面が取り付けられており、画面横にある感知センサーの稼働を判別するランプが明滅を繰り返していた。
――なんだこの反応は……。バグ?
寄せていた眉が更にハの字にせり上がる。通常ならば数秒で器具が結果を叩き出すはずなのだが。
――……駄目だ。反応がない。……ジュリアの方は終わった頃だろうか。
とりあえず、このまま続けたとしても自分だけでは判断がつかない。現状をジュリアに伝えようと耳に装着したワイヤレスイヤフォンに手を当て、通話を試みる。
*
風が空を切る。
闇が通り過ぎていく。
夜空に浮かぶ満月に映る影――空を駆る真っ赤な真っ赤なバイクとその操縦者は、徐々に加速していく落下運動にその身を委ねていた。




