05
ある者は携帯片手に通話中。ある者はコンビニ前で仲間とたむろし、ある者は店の前でチラシを配りつつ呼び込み中か。
夜も深まる時間帯だが終息の兆しは、無い。
そんな街中――
「――――あ、あれ!」
突如として響き渡る焦燥に満ちた女の声が、真夜中の喧騒をぶち抜いた。
その隣に居た華やかなドレス姿の女は、虚空に向けて指を差す女につられて空を見上げる。
近くを横切ったサラリーマン風の男は、車輪付きのスーツケースを両手で引きながら顔を上げ、交差点近くで看板持ちをしていた作業服の老人は空を仰ぐ。
二人で談笑しながら交差点を渡っていた制服姿の女子高生たちは、立ち止まって空に視線を向けた。
『空を見る』もしくは『視線を上げる』という挙動が瞬く間に伝染していく――
スクランブル交差点の奔流が停止。
信号は切り替わりの予兆を点滅で知らせる。
夜道を照らすべき星の光は、人工灯で塗り潰されていて視覚できない。しかし、人々の目はハッキリとそれを捉えていた。
天を衝くほど高く聳え、夜空を狭めている高層ビルの輪郭を。
その真後ろで煌々と輝く満月に映った――――夜空を駆るバイクと操縦者の黒いシルエットを。
*
『なるほど。つまりこの私様に、過去ログを漁って欲しいってワケね』
サージタリウスの話を聞いたジュリアは、甘ったるい声でそう言った。
「そうなるな。出来るか?」
『愚問ね。もう始めてる。二分頂戴ねー』
受話口からキーボードをリズミカルに叩く音がする。止まることのない音はジュリアの独り言と重なって加速。
普段はアレだが、こんな時だけはやはり頼りになるなとサージタリウスは音を聞きながら思った。




