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「もしそうだとしたら、たぶんだけど見つかった時点でソッコー無理矢理ログアウトするよ」
的を射た答えに、マ王は舌打ちをする。
事が起きてから時間が経過している。この人通りの少ない区画を抜ければ大通りはすぐそこだ。それに加え、夜の新東京市はこれからまだまだ人が増える。
人を隠すには人の中。まさに、打って付けという訳だ。
今現在、その盗人がGUILDの手の者だという確証はない。もしかするとその辺りにいるゴロツキが気まぐれにやったのかもしれないし、窃盗を生業とする輩が盗っていったのかもしれない。
全て可能性の話である。
ただ、それでもテンチョーが危険だという事に変わりはない。
そう。
例え盗んだのがただのゴロツキであろうと、窃盗を生業とする人間であろうと、そこからメモリが金銭交換的なやり取りで流出しては、GUILDが手中に収めた事と大差はない。
GUILDはこのゲームを取り仕切る大本締め。
要領が膨大すぎるため、各プレイヤー及び住人の把握は常時できず、エージェントでその機能を代替しているという内輪事情があり、例えば電子薬物など、違法性があるものを抑制できない理由はここにある。
しかし物品金銭のやり取りは、最終的にはGUILDに還元されるから、結果、流通のシステムで全てがあばかれる。だから、盗んだのがGUILDの手の者であろうとなかろうと関係ないのだ。
――…………俺は、あの人に……何も返せてねえ。
マ王にとってテンチョーは、恩人だった。
四年前、電脳世界に幽閉される事となったマ王を助けた、ただ一人の人間だった。
それは、助けた側からすれば普通の事だったのかもしれない。事実、世話好きな一面を持つテンチョーは、そういう慈悲を無償で振りまく人間だ。
テンチョーの優しさは、助けられた側のマ王にとって何よりも重みのある事だったのだ。
その恩人が今まさに、自分に関わってしまった事で命を狙われるかもしれないという状況に陥っている。




