05
電脳世界で地震なんて、大陸プレートの概念もへったくれもないであろうに。仮想現実はそんな災害の脅威まで忠実に再現しているとでもいうのか。
そうだとしてもゲームの中でくらい自然災害の恐怖から解放してほしいものだが、しかし既に身をもって体験している天候や季節のシステムを鑑みれば、
――つまるところ、何でもありっつう事ね。
そうやって簡単に自己完結させるマ王。
ただこの地震が、実は知人――金髪緑ジャケットの男が巻き起こしたものだとは、マ王自身、知る由もない。
さて置き、マ王が不幸通りにいるのには、理由があった。
それは今から一〇分ほど前。友人の一人から呼び出しの電話があったのだ。
マ王は電話で済ませろと申し出たのだが、友人側がそれだと用事が終わらないと言うことで、わざわざ不幸通りまで出向き、今に至る。
のだが、友人が何時まで経っても姿を現さない。呼び出しておいて待たせるなんてどんな神経をしているのやら。
しかし、さきほどから声だけは聞こえている。
マ王の正面にある、NICE☆GUYというピンクネオンの少々危なそうな店から、友人が吐き出しているであろう大声だけは聞こえるのだ。
「――――ワタシが少し目を離すとすぐこれか!! あんたら一体何処に目ぇ付けてるんだその腕の筋肉は飾りか! 飾り物なのか!? キャアじゃないよまったくこのボンクラ共まだ金玉付いてんだろぉおおが!!」
「ごめんなさいママぁあ!」「許してお願いよ!」「日本刀ぉおおおおおお!? ちょ、誰か、誰か止めなさいよ!!」「お、落ち着いてママ落ち着いて!!」
分厚い鋼鉄製の扉で店内と外界は寸断されているというのに、一言一句違えず耳に飛び込んでくる友人の声。後から聞こえてくる野太い声とは違い、女性特有の高さが感じられる。
――……相変わらず、だな。
マ王は頬をポリポリ掻きながら扉を見つめる。
店内が一体どんな状況なのか、外側からは一切分からないが、呼び出しておいて待たせるほどの事が起こっているのは確かだ。




