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少女は「どっこらしょー」と年寄りくさい声を漏らしながら広場の階段に腰を降ろした。そのままぼんやりと街の風景を眺めてみる。
正面。広場から見える方向には車と人が信号で操作されるスクランブル交差点があり、その奥ではファミレスやらカラオケ、コンビニ等々が道を狭めている。
右方。少し傾斜のある上り道には街路樹が点々と存在しており、進むにつれて建物の背が高くなっていくのが分かる。
続く左方にはインド料理店やイタリアン、中華といった食の専門店が道路脇を支配している。
腕を地面に突っ張らせ、仰け反る格好で眺めた後方には、広場を囲うテナントビルが五つ六つ、中心となる噴水に入り口を向ける形で建ち並んでいて、そのどれもが三〇メートル越えのビルだった。
新東京市。
電脳世界。
いわゆる仮想現実。
街並みも、人も、仰け反らせた頭に血が昇ってくる感覚までもが本物と遜色ない。
このアフター*ダークを始めて四年もの歳月が経っているが、少女は、たかがゲームが作り出すリアリティに未だに驚かされている。
アフター*ダークとはいわゆるオンラインゲームで、プレイに必要となる機器――専用ハードとヘッドセットは製作元のGUILDに連絡すれば無料でレンタル可能であるため、比較的簡単に且つ誰でも参加する事ができる。
いや、『できていた』と言った方が正しい。
超爆発的に増加したプレイヤーの人数が想定の上限に達してしまったのだ。それが去年の事。アフター*ダークを運営するGUILDは現在、大幅アップデート作業中。機器の新規レンタルは停止中なのだった。
それにより非純正品の流通やロットナンバーの偽造など、どうしてもプレイしたいという人々が外法に手を染めてしまうケースが最近目立つようになってきているのも事実だ。
オンラインゲームにカテゴライズされているアフター*ダーク。なぜこのゲームが、これほどまでに求められているのか?
その理由は、アフター*ダークのゲーム性にあるのかもしれない。
例えばロールプレイングゲームは、魔法や剣を駆使してモンスターを倒したり、世界を救ったり、現実ではあり得ない空想の物語の中で行動する事ができる。




