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「──HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!! 人にもの言える立場かだって? ああ下らねえなまったく!!」
先ほどまでの間延びしたものとは一変、怒気とも歓喜ともとれる感情めいたものを孕んだ大音量の声が真夜中の喧騒をぶち抜く。
「おいおいおいおいそうじゃねえだろ? そういう事じゃあねぇえんだよ!」
ギリ、ギリと見開かれる金髪男の双眸。
白目の部分は無数に血走り、赤に染まっていた。
牧原は男の唐突な変貌ぶりを目の当たりにし、背筋がどんどん冷えていくのが分かった。
「ああそうかなるほどなるほど脳みそワいてんのかHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAそうだそうに決まってる! 殴りてえ殴ります殴らせろとりあえず何かむかつくムカツクMUKATHUKU! 兎に角だ……お金は大事だよーって話DEATH! なので、」
加速していく男の言葉は支離滅裂で理解不能。もはや、羅列される言葉の上っ面を読み取る事すら不可能である。
ただ、金髪男の軽薄で軽快で軽蔑的な発言は止まらない。腹の奥底からこみ上げる意味不明な感覚が、男の挙動にますますターボを掛けている。実際問題その正体がなんなのか、男自身、知る由もないのだが、湧き上がってくる不思議な不思議な感覚にその身を任せながら、
「TEN☆CHUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!」
まるで映画の悪役のように口角を最大限に釣り上げながら、金髪男は奇声をあげた。
そしてこの街は──新東京市は知っていた。
この男がこの感覚を認識した後は、決まって轟音が鳴り響くと。
しかし、何のことはない。だってそれすら街の風景なのだから。




