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青年は、恐らくこの事態に陥ってしまった原因に繋がる、あるキーワードに辿り着いていた。
――俺は電脳世界に幽閉されただけだ。通常のプレイヤーができるはずのログイン・ログアウトが出来なくなっただけで、別に重い病気になったわけじゃないし、ましてや記憶喪失になったわけでもない。
では、
――自分の固有名称だけが分からないのは何でだ?
そう。青年は元々、普通のプレイヤーだった。四年前まで『マ王』などと言うふざけた名称を冠してはいなかったのだ。
自分の名前以外の記憶は全部ハッキリ覚えている。
育った街も。
通った学校も。
好きだった女性の名前も姉の顔も父も母も。全部、全て。
マ王はこれまでの四年間、ひたすらに自分の名を探し続けてきた。何故、奪われたのが名前でなければいけなかったのかという疑問を抱きながら。
奪われた名を取り戻す事が、現在自分が陥っている状態を打開する答えになるという根拠は、もちろん無い。
――仮に。仮にだ。俺をどうにかするのが目的なら、何で記憶を封じなかった?
莫大な記憶の中で、個々人を識別するためだけの小さな小さな固有名称をわざわざ封じた事に、何かしらの理由を感じずに一体どうしろというのか。
だからそこに何かがあるはず。この状況を打開する何かが。
しかし、とマ王は頭を掻く。
――俺はてっきりエージェントなら名前を知ってるもんだと思ってたんだが、あのスーツの野郎、サーチに映らねえと抜かしやがった。
サーチとは、エージェント・サージタリウスが行使していた『人物自動マーキング機能』の事である。
この機能は、脳内で展開したマップ上に存在する人物全員の位置とその名を瞬時に把握出来るもので、例外は無いはずなのだが、あの時のサージタリウスの反応を振り返るに、どういうわけかマ王の存在だけがマップから除外されていたらしい。




