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特徴らしい特徴といえばその格好なのだが、性格、思想、振る舞い等々、そのとある人物というのは存在自体がすでに特徴的であるため、バイクの大破についてどう弁解しようともまともなやり取りは期待できそうにない。
「はぁぁあ……………………」
更に深々とため息を吐く、が、数秒も経たずに青年の意識は切り替わる。
――まあ、壊れたモンは仕方ねえとして、まさか本当にエージェントに鉢合う事になるとはなぁ…………あの書き込みも、俺のダミーも、案外役に立つもんだな。
そう。
実はこの青年、今し方エージェントと呼ばれるゲームの監視官を撃破したばかりなのだった。
と、一口に撃破したと言っても、それは通常絶対に有り得ない事である。
有り得ないし、有り得てはならない。
エージェントとは前述した通り、監視官の事を指しており、ゲーム内での異常を排除する役割を担っているため、それに対応した特殊機能を有している。
例えば人物の位置を全て把握していたり、例えば痛みの概念が意図的に排除されていたり。言うなれば無敵の存在なのだが……。
――うん。なんつうか……意外と呆気なかった。
この黒の青年は、いとも簡単にエージェントの一人を撃破してしまっている。
青年は自分の手のひらに視線を落とす。脳から命令が下れば自由自在に『黒』を操る事ができる手のひらに。
何故、こんな力が行使出来るのか。何故、無敵とされるエージェントと渡り合う事ができるのか。その理由は正直なところ、当の本人ですら分かっていない。
ただ、これだけは理解している。
この意味不明な力は、四年前──電脳世界に幽閉された時より発現したものだと。
青年もかつては、電脳世界と現実世界を行き来する極々普通の青年だった。




