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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

恋したあの子の秘密

作者: 寛 忠
掲載日:2014/11/01

この話は性同一性障害を取り上げていますが、当事者や周辺の関係者を侮蔑する意図は一切ございません。

 私には、気になっている人がいます。それは私が通う高校で出会う同級生です。

「おはよう。中島さん」

「お、おはよう…」

 私が気になっているのは、同じクラスの真琴ちゃん。女の子です。出会いは初登校の日。教室が分からず校内を右往左往していた時に助けてくれたのが、真琴ちゃんでした。真琴ちゃんも教室が分からなかったのですが、なぜだか心強く感じてしまいました。それが縁で、友達とまでは言えないけど、よく私に声を掛けてくれます。

 真琴ちゃんは私より身長は高いけど、すらっとした顔立ちと独特のルックスや、たまに現れる男勝りなところが、私の心を惹きつけました。

「中島さんて、けっこう可愛いところあるよね」

「えっ…?」

 真琴ちゃんに声を掛けられると、私の心の奥がキュンと締め付けられるのです。そう、私は真琴ちゃんに恋心を抱いてしまいました……もしかしたら、私はレズなのかも知れません。


 私は真琴ちゃんが他の男のものになってしまうことに不安がありました。そうなれば、もう私とは話もしてくれないと思ったからです。このままずっと真琴ちゃんと一緒にいたい。真琴ちゃんを誰にも渡したくない。真琴ちゃんを私のものにしたい。そう思うようになっていきました。でも、女の子が女の子を好きになるなんて、おかしなことだし、そんなことを真琴ちゃんに告白したら、絶対に嫌われると思うと、自分から声を掛けられません。いつもモヤモヤした気分を引きずって家に帰る。毎日、この繰り返しでした。

(私、何考えてるんだろう……)

 そんなある日のこと。私は学校のトイレで生理用品を付け替えました。挿入して使うタイプなので、割れ目の奥に押し込みました。

「あっ……」

 この瞬間、私は良かぬことを考えてしまいました。

“これが真琴ちゃんだったらなぁ……”

 私の頭の中は、真琴ちゃんに襲われたいと思うようになっていました。


 それからどのくらい時間が経ったのでしょう。気が付けば私はトイレとは違う場所にいました。

「はっ!あ、あれっ?」

「あら、気が付いた?」

 私はいつの間にか保健室のベッドで寝ていたようです。でも、自分で移動したとは思えません。保健の先生は呆れていました。

「私…どうしてここに?」

「あなた、トイレで気を失っていたらしいじゃない。こんな暑い時に、トイレに籠って何やってたの?」

「はっ!」

 なんと、私はトイレで妄想し、気絶してしまったのです。それもトイレのドアをロックし忘れてたのだから、恥ずかしさでいっぱいになりました。もちろんそんなこと言えません。

「でも、ここまで誰が運んだんですか?」

「同じクラスの安原さんよ。戻ったら礼を言うのよ。分かった?」

 ここでも私は真琴ちゃんに助けられたのでした。気分が回復し、教室に戻りました。真琴ちゃんは私の様子を見て微笑んでいました。私は妄想しているところをを見られたかと思うと、授業に集中できませんでした。


 ある日、真琴ちゃんが教室にいない時に、クラスの男子生徒がこんな話しをしていました。

「なぁ、安原って本当は男じゃないかって言われてんだよ」

「えっ?あのデカい女が?」

 私はこの一言に耳を疑いました。

「あくまで噂だけどよ、なぜか男子トイレに駆け込んで、小便器使ってたんだと」

「マジかそれ。誰が見たんだよ?」

「知らねえよ。聞いた話なんだからよ。でも本当だったら気持ち悪いよな」

「今度、聞いてみるか?」

「やめとけ、俺達が責められるぞ」

 私はこの話しに愕然としました。確かに真琴ちゃんは身長も高いし、たまに男勝りなところがあるから、疑われてもおかしくはありません。でも、本当に男だなんて、信じたくもありません。

(真琴ちゃんに限って、そんなことないよね……)

 その日の帰り、私は真琴ちゃんの後ろ姿を見つけました。

(あっ!)

 私の頭の中で、男子生徒の話が蘇ります。

“安原って、本当は男なんじゃないか…?”

 私はそんなことはないと頭を振りました。でも、真琴ちゃんがどこに住んでいるのか確かめたくなってしまいました。その間に、真琴ちゃんがどんどん離れていきます。

(あ、待って!)

 私は急いで真琴ちゃんを見失わないように後を追いました。真琴ちゃんは意外と早足なので、私の歩幅では追い付きません。見つかりそうになると、電信柱の影に隠れます。私の心臓は今にも張り裂けそうです。

 それからも真琴ちゃんの後を追うと、道を外れ、人気のない森の中に入っていきました。

(何でこんなとこに入ってくの?)

 もちろん、私も後を追います。真琴ちゃんは枝を手際よくかき分け、どんどん奥に進みますが、私は気付かれたくないのでゆっくりと進むしかありません。

 やっと森を抜け出ると、目の前には使われなくなった工場が見えました。真琴ちゃんがその工場の中に入っていく姿が見えたので、私も後を追いました。

(見つけたっ!)

 真琴ちゃんは工場に置かれたソファーに腰を下ろしました。でも、なんでこんな使われていない工場に来たのか分かりません。すると、真琴ちゃんは大胆な行動に出たのです。

(え?嘘…)

 真琴ちゃんは突然、ブラウスのボタンを一つ一つ外し始めました。

(ま、真琴ちゃん、何やってるの?)

 ブラウスのボタンを外すと、今度はスカートを脱ぎ、ショーツに手を掛け、下げたのです。すると、私の視線に、女の子には絶対ないものが見えてしまいました。

(え、ええっ!なんであんなのが……)

 私は思わず声が出そうになりました。真琴ちゃんのお股に、男のシンボルが付いていたのです。男子生徒が噂していた通り、真琴ちゃんは、“男子”だったのです。

 それから真琴ちゃんがし始めたことは……ううっ、ここでは語りたくありません。

“ガンッ!”

(あっ!)

 私の足は近くに転がっていたドラム缶に当たり、音を発しました。一瞬、真琴ちゃんと目が合った気がしましたが、私は一目散に工場から退散しました。


 家に帰った私は、部屋のベッドでうつぶせになりました。私はどことなく裏切られた気分でいっぱいになりました。

「はぁ…何かショック……」

 けれど、私は気になることがありました。なぜ、真琴ちゃんは男子なのに女子として通っているのか。何かしら理由はあるはずです。そう思うと、夜も寝られないほど気になってしまいました。


 翌日、いつものように高校へ行くと、教室に真琴ちゃんの姿がありませんでした。

(真琴ちゃん、どうしたのかなぁ……)

 私は、真琴ちゃんのことが心配になってしまいました。もしかしたら、私に体の秘密を見られてショックを受けているかも知れないのです。このまま退学してしまう可能性も考えられます。それだけは絶対避けたい。でも、真琴ちゃんの連絡先は聞いていません。

「中島さん。ちょっといいかな」

「えっ?あ、はい」

 私は担任の先生に呼ばれました。

「実は、帰る時にこれを安原さんに渡してほしいんだ。期日が迫っているから、遅くなると困るんだよ」

 先生はプリントを私に手渡しました。

「で、でも、何で私が…」

「実は、俺が直接渡してもいいんだけど、これから忙しくなるから夜遅くなっちまうんだ。それに、君と安原さんが仲良くしているのを知ってたから、お願いしてるんだよ。

「そんな…」

「いや、本当は君じゃなくても良かったんだけど、いろんな人にお願いしたら、みんな嫌がっちまって…君が最後のお願いになっちまったんだ。ごめんな」

 結局、私は先生からもらった住所を元に、真琴ちゃんの家に行くことになってしまいました。体の秘密を見てしまった森の横を抜け、さらに歩きます。

「ここか……」

 私は真琴ちゃんが住む家を見付けました。二階建てのごく普通の一軒家です。表札が安原であることを確認して、呼び鈴を押します。

“ピンポーン”

「はい!」

 ドアが開くと、女性が姿を現しました。この人が真琴ちゃんのお母さんのようです。

「あの、私、真琴さんが通っている高校の同級生の、中島と言います」

「あら、いらっしゃい」

 お母さんは深々と頭を下げました。

「実は、このプリントを真琴さんに届けに来ました」

 私は、お母さんにプリントを手渡しました。

「あら、わざわざありがとう。真琴に渡しておくわね」

 お母さんは、玄関に戻り、ドアを閉めようとしましたが、私は声を掛け、止めさせました。

「あ、あの…」

「うん?どうかしたの?」

「真琴さんはどうして、今日休んだんですか?昨日は、元気そうにしてたのに」

 すると、お母さんは浮かない顔をしてしまいました。

「あの子も、いろいろ大変なのよ。何でこうなっちゃったのかしら……とにかく、落ち着くまではそっとしておいた方が良さそうね。ごめんね、不安にさせちゃったかな」

 私はやはり、真琴ちゃんの本当のことが知りたくなってしまいました。そこで、お母さんにこう言ったのです。

「お願いです。真琴さんと話をさせてください。私、学校では仲がいいんです。だから、真琴さんが学校に来ていないことが心配なんです」

「でも、あまり刺激しない方がいいわよ」

 お母さんは私の願いに黙ってしまいました。

「分かった。じゃぁ、とりあえず真琴に聞いてみるわね。そこで待ってて」

 お母さんは階段を駆け上がり、二階の真琴ちゃんの部屋に行きました。

「真琴、お友達が来てるわよ。同じクラスの中島さん。あなたと話がしたいんだって。今、大丈夫?…そう、じゃあ、直接行かせるわよ」

 お母さんは階段を下りて玄関に立つと、笑顔で私を招き入れました。

「いいわよ、上がって。階段上がって、すぐの部屋だからね」

「はい、ありがとうございます。お邪魔します」

 私は階段を上って、真琴ちゃんの部屋のドアの前に立ちました。

“コンコン…”

「真琴ちゃん、入るよ」

 私は、ゆっくりとドアを開けました。するとそこに、ベッドから半身を起こしたパジャマ姿の真琴ちゃんがいました。

「中島さん……」

 真琴ちゃんは、物憂げな顔で私を見つめました。私はベッドの横に座りました。

「き、昨日は、ごめんね。後をつけちゃって…」

「う…」

「ひょっとして、私があなたの秘密を見ちゃったのがショックだったのかな?」

 真琴ちゃんは、ゆっくりと首を縦に振りました。

「私、本当は男なの…」

「それは分かってるわよ。昨日、見ちゃったんだもん。それよりも、何で女子高生の格好をして高校に通ってるの?」

 私は、真琴ちゃんから思わぬ一言を聞いてしまいました。

「私、性同一性障害なの……」

「えっ?それって…」

 真琴ちゃんは小さい時から、心と体が合わないことに違和感を感じていました。両親は中学生までは、あくまで男として育ててきたそうです。

「私が男だった時の写真、見せてあげるね」

 真琴ちゃんは奥からアルバムを持ってきました。開くと、中学校の頃は詰襟の制服を着た真琴ちゃんが写っていました。

「これが真琴ちゃん?カッコいいじゃない」

 アルバムに写る男の真琴ちゃんはすごくイケメンで、クラスの女子にモテていたと話しました。それで女子生徒になったのがもったいないぐらいです。

「でも嫌だったの。これは本当の自分じゃないって。一日も早く、女の子になりたいことだけ考えてたのよ」

 アルバムの中の真琴ちゃんは笑顔で写っていますが、その裏では自分の体と心が合わないことへの葛藤が収まることはありませんでした。両親も真琴ちゃんの個性を尊重し、高校入学の際、校長や教頭などと話し合い、女子生徒として入学したのです。しかし、性同一性障害の生徒を受け入れた前例がなく、一年生だから学校側も真琴ちゃん自身も手探りで進めていくしかありません。真琴ちゃんには、乗り越えていかなければならない課題が山積みなのです。

「私が男だって分かって、ショックでしょ?近寄りたくもないよね」

 この時、私はある決意を堅めました。そして、行動に出たのです。

「真琴ちゃん…」

「んんっ!」

 私は、真琴ちゃんの唇を自分の唇で奪いました。

「んっ、ふうっ、はぁ。な、中島さん…」

「ショック受けてたら、ここから走って逃げてたわ。私、初登校の日に真琴ちゃんに助けてくれた時から、ずっと気にしてた。真琴ちゃん、いつも私に優しくしてくれてたし、トイレで気を失ってた時も、保健室まで運んでくれたし。真琴ちゃんが彼氏だったらいいのになぁって思ってたの。男の子は苦手だけど、真琴ちゃんは特別。だから…」

 私は意を決して、真琴ちゃんに思いを伝えました。

「私、真琴ちゃんのことが、好き…」

 真琴ちゃんは、私の告白に顔を赤くしていました。そして、鼻から息を吐き、目を細めると、私の体をぎゅっと抱き締めたのです。

「私も、あなたに出会ってからずっと気になってたよ。今まで男の子にしか興味なかったけど、中島さんは特別。だから、私からも言うね。中島さん、大好きだよっ!」

 私は、真琴ちゃんからの告白に嬉しくなってしまいました。

「真琴ちゃん、私のこと、恭子って呼んでよ」

「恭子…」

「真琴ちゃん…」

 私達は再びキスをしました。

「真琴ちゃん、明日は学校、来てよね。自分に自信を持って、もう、引き籠もっちゃだめだよっ!」

「うん、ありがとう恭子。元気出たわ」

 私は真琴ちゃんの家を出て、意気揚々と帰って行きました。


 翌朝、私はいつものように高校に通います。

「おはよう、恭子!」

「あ、おはよう、真琴ちゃん!」

 そこに、真琴ちゃんの姿がありました。しかも、笑顔を見せています。

 あの日以来、私達の仲は更に深まり、友達と呼べるようになりました。私は真琴ちゃんを度々デート(でいいのかな?)に誘い、女の子の遊びを体験させたり、服を選んであげています。

「恭子、これ、似合うかなぁ」

「いいよ。真琴ちゃん、完全に女の子だよ!」

 でも、真琴ちゃんがいくら心が女の子でも、男としてのモノをお持ちなので、それを鎮めるという役割を私が担うことになりました……。でも、これはこれでいいんだけどね(笑)。


それから真琴ちゃんは何事もなく学校生活を送っています。けれども、自分の体の秘密を隠さなければならないことに変わりはありません。ある日の放課後、先生が真琴ちゃんを呼びました。

「安原さん、ちょっといいかな?」

「あ、はい」

「実は、大事な話があるんだ。校長室まで行くぞ」

「分かりました…恭子、また後でね」

 真琴ちゃんは先生に呼ばれ、私から離れました。校長室ということは、何か重要な話でもあるのでしょうか。私は心配になってしまいました。

(真琴ちゃん、まさか辞めちゃわないよね……)

 十五分後、真琴ちゃんは暗い顔で出てきました。私は真琴ちゃんに寄り添って帰ります。

「真琴ちゃん、どうだった?」

「私のこと、みんなに話してみないかって言われたの……」

 真琴ちゃんが校長室に呼ばれたのは、人権週間が近くに迫り、全学年を体育館に集めて人権の話をすることになり、性同一性障害の当事者として話をしてほしいと言われたのです。真琴ちゃんはすぐには答えられず、保留にしました。

「この話を聞いた時、裏切られたと思ったわ。秘密は守るって約束したから入学したのに、今になって話せって、おかしいと思わない?」

 真琴ちゃんは眉間にしわを寄せました。

「でも、先生達も、真琴ちゃんのことを考えてくれてるんだよ」

「えっ?」

「先生達は真琴ちゃんの秘密がバレて、学校にいられなくなっちゃうのを心配してるのよ。そうなっちゃうのって、嫌だよね?」

「う…」

「隠していることがバレて大騒ぎになるか、素直に言って楽になるか。どっちがいいと思う?」

 もちろん、真琴ちゃんが秘密を公表して、かえって学校に行きにくくなることだって充分あり得ます。でも私は、真琴ちゃんが楽しく高校生活を送れるようにするには、それが一番だと思うのです。

「これからあと二年もあるのよ。秘密を隠したまま卒業しても、楽しくないよ」

 真琴ちゃんは黙ってしまいました。真琴ちゃんだって、楽しい高校生活を送りたいはずです。

「大丈夫だって。自分が思っていることを言葉にすれば、きっと伝わるわよ」

「うん…考えてみるわ。ありがとう」


 数日後、体育館に全学年が集まり、人権に関する話がありました。特に時間を掛けて取り上げられたのは、性同一性障害について。今、心と体の性が一致しない人の人数がどれくらいいるか。それによる差別が存在するなど、性同一性障害の現状が話されました。

「実はこの学校にも、性同一性障害であることを抱えながら通学している生徒がいます。今回、その生徒が話をしたいそうなので、壇上に上がっていただきたいと思います」

 先生の話が終わると、真琴ちゃんが壇上に上がりました。真琴ちゃんは先生達の提案を受け入れ、公表することに決めたのです。生徒達はざわつき始めました。

「え?嘘だろ」

「おい、あいつって…」

「やっぱりそうだったのか」

 真琴ちゃんはざわつきが収まったのを確認し、自分の思いを手紙にして淡々と話しました。

「…私は、見ての通り、女子生徒としてこの学校に通っていますが、体の作りは男です。ちゃんとオチンチンも付いているんです…」

 真琴ちゃんは性同一性障害の当事者として話を始めました。心と体に違和感を持った時のこと、女の子のおもちゃに憧れ、親に買ってほしいとねだって怒られたこと、周りに女っぽいと言われていじめられた時のこと、学校の先生にも相手されなかったこと等を、緊張しながらも包み隠さず話しました。

「幼い頃は、いつか私も女の子になれると信じていました。でも、寝ても覚めても、何も変わらず、愕然とする日々が続きました」

 それから真琴ちゃんは診断を受け、性同一性障害であることが分かりました。両親の理解も得たことで、高校を女子として通うことに決めたのです。

「先生方には、合格した後で急に女子として通わせてほしいと押し掛け、ご迷惑をお掛けしたことをお詫びすると共に、こんな私を女子として認めてくれた校長、教頭、そして先生方に感謝します」

 真琴ちゃんは涙を流していました。

「実はもう一人、感謝したい人がいます。この学校の女子生徒です。私は彼女に秘密を知られてしまいましたが、今では一番の理解者です。私が壇上で話しをすることに抵抗があった時も、彼女が背中を押してくれたから、こうして、私の思いを皆さんに話すことができたのです。ありがとう、あなたに出会えて良かった!」

 真琴ちゃんは、私の方を向いてこう話したのです。私も思わず涙してしまいました。

(真琴ちゃん……)

「私がお話したことは、ほんの一部にしか過ぎません。それでも、皆さんが性同一性障害について知るきっかけとなってもらえれば幸いです。私は皆さんと仲良くなりたいです。私を見掛けても、怖がらずに声を掛けてください。私の話を最後まで聞いてくださり、ありがとうございました」

 真琴ちゃんは深々と一礼しました。生徒から拍手が巻き起こり、真琴ちゃんは満足そうな顔を見せました。しかし、壇上から降り切ったその時、急に倒れてしまったのです。

「あぁっ!」

 真琴ちゃんは保健室に担ぎ込まれました。緊張から解放され、力が抜けたのかもしれません。


 教室に戻ると、話題は真琴ちゃんのことでいっぱいになりました。

「ほらよ、だから安原は男だったんだって!」

「俺、男だって全然気が付かなかった。危うく告白しそうだったよ」

「安原さんて、男だったんだ。何かショック」

「でも、私達よりけっこう女の子っぽくて可愛いとこあるよね」

 クラスメイトの受け取り方は様々でした。必ずしも良い方向に捉えられるとは限らないことは分かっています。完全に理解を得るのは難しそうです。真琴ちゃんは元気を取り戻し、教室に戻ってきました。

 放課後、私は帰り道を真琴ちゃんと寄り添いながら帰りました。

「真琴ちゃん、今日はすごく頑張ったね」

「うん。私の話、どうだったかなぁ」

「うん、すごく分かりやすかったよ。みんな、ちゃんと聞いてくれてた」

「そう…良かった」

 真琴ちゃんは、自分の秘密を明かし、思いを伝えられたことに満足そうな顔をしました。

「恭子……」

「何?真琴ちゃん」

「私、恭子に出会えて良かった。こうして、自分を思いをさらけ出すことに自信が持てたのも、恭子のおかげよ。ありがとう」

「私も、真琴ちゃんのお役に立てて嬉しいよ」

 

 それから真琴ちゃんは、元気に高校に通っています。自分の秘密や思いを打ち明け、隠すものがなくなったことで気分が楽になり、明るさが増したような感じがしました。今では高校の人気者です。クラスのみんなも真琴ちゃんを見る目が変わり、男子・女子を問わずに気軽に接するようになりました。もちろん、私との関係はこれまでと変わらずに続いています。

 でも、これは真琴ちゃんが抱える課題の一部を消化したに過ぎません。二年経てば、今度は大学受験が控えています。高校では女子として認められても、大学が認めない可能性も十分有り得ます。更に、大学を卒業しても、社会人としてやっていけるかも分からないのです。そうなれば真琴ちゃんはまた、秘密を隠していた時のように辛い思いをしなければならないのかも知れません。真琴ちゃんが乗り越えなければならない課題は、終わりが見えそうにありません。何らかの特性を持つ者の運命でしょうか。

 

 でも私は、今の真琴ちゃんならどんなことでも乗り越えていけると信じています。ファイト真琴ちゃん!私、応援してるよっ!


(終)

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