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LOWDIT ONLINE  作者: 芳右
7/28

1-07 復活

「…………あー」


 なんともやる気のない声が聞こえる。まぁ俺の声なのだが……。

 今俺がいるのはプレイヤーたちのスタート地点。王都アグリーアの中心部だ。

 未だ夜は明けておらず、昼間の光景が嘘のように町は静まり返っている。


 どうして俺がこんな無気力状態に陥っているかと言えば、死に戻った事で受けたペナルティを確認したからだ。


 デスペナルティ。多くのゲームで使われているこのシステムは、プレイヤーキャラが死んだ場合、それまでに取得していた経験値や所持金、所持アイテムなどが減少する事を指している。


 この「ロウジット」も例にもれず、デスペナルティが存在するゲームだ。

 だが、「ロウジット」では、ひとつだけほかのゲームのデスペナルティとは違う部分があった。


 通常、ゲーム内で死亡した場合は、ペナルティによって経験値が減少したとしてもレベルが下がることはほとんど無い。同じように所持金も、半分になったりすることはあっても全損することは少ない。アイテムに関しても似たようなものだ。


 しかし、こと「ロウジット」ではそうはいかない。

 このゲームで一度死ねば、完全に初期化されるのだ。経験値、所持金、アイテムも全て、ゲーム開始時となんら変わらない状態にまで戻される。


 いくら高レベルであろうと、どれだけ貴重なアイテムを入手していようと、たった一度でも死ねばそのすべてを失ってしまう。


 それが数多のゲーマーたちからプレイし続ける気力を奪った「ハイ・デスペナルティ」と呼ばれる「ロウジット」独特の仕様だ。



 ここまで言えばもうわかっただろう。つまり俺もその「ハイ・デスペナルティ」を今まさに実感しているのだ。

 あれだけ苦労して集めたウサギのドロップ品も、経験値も、その全てが初期化によって喪失してしまったのだから……。


 さらに自分の死因が未だにわからない。正直今は何もする気になれなかった。


 そこで一度現実時間を確認すると、すでに12時をまわっていた。


「あー、もう昼すぎてんのか。よし、一回ログアウトして飯でも食うか」


 ……ん?飯?


 そういえば、ゲーム内でも町の中で食事ができるようになっていた気がする。それはつまり、食事の必要があるって事なんじゃないか?


 そう思って、改めてステータス画面を確認してみるが、それらしいものは見当たらない。だが、実際HPが残っているにも関わらず死んだ事を考えれば、「満腹度」もしくは「空腹度」といったものが存在すると考えたほうがいい。


 もしかすると、戦闘中に体の動きが鈍くなったのにも関係があるかもしれない。最初は体力減少による鈍化かと思っていたが、それにしては不自然なタイミングだったはずだ。

 おそらくあれが空腹状態を示す自覚症状だったのだろう。


 あぁ、なんかすっきりした。損失は痛いが、まだ初期の初期だ。得られるものも多かったし、今回の事はいい勉強になったと考えればいいだろう。


 どちらにせよ、一度ログアウトして、飯を食ったら再スタートだな。





 時刻は13時。昼飯を食べ終わった俺は、再びロウジットへログインしていた。

 ログアウトした時は夜だった町も、夜が明けて活気のある風景が戻っている。ゲーム内時間では午前8時ちょっと過ぎだ。


 戦闘を繰り返して上がっていたはずのレベルも、一度死んでしまったことでリセットされている。唯一の救いはキャラの状態がゲーム開始時と全く変わっていない事だ。

 装備も所持金も、サポートとして選んでいたブーストシステムも、そのどれもがゲーム開始時と変わらず手元にあったことに安堵した。


 さすがに装備も金も、サポートシステムによる恩恵すらなくなっていたら、しばらく立ち直れなかったかもしれない。


 なにはともあれ、今後の予定の確認だ。

 まずやるべきは、空腹度(仮)の存在証明だろう。町で食料と回復アイテムを購入し、そのまま金稼ぎとレベル上げも兼ねてウサギを狩る。そういえば野宿用の道具などもあるのだろうか?この辺も要確認だ。


 どうせならあのモグラどもにもリベンジがしたい。今回はしっかりと準備をして、今度こそ最後まで狩りまくってやる。せいぜい俺の戦闘技術向上に付き合ってもらうとしよう。


 街での買い物は思いのほか短い時間で済んだ。なにせメインストリートを歩いていれば準備に必要なものを売っている店が並んでいるのだから当然と言えば当然だ。なぜ最初に気付かなかったのかと、少々悔やんだ。


 購入したのは、食料として干し肉と水。回復用ポーションを二つ。これだけで500Eの出費になった。野営道具もあったのだが、こちらは所持金が足りなかったので断念した。念のため松明たいまつだけは買っておいた。



 準備を整えた俺は、再び草原に来ていた。通算三度目となる草原だが、何度見てもその広大さには圧倒される。


 空いている場所を探すべく移動していると、ふとある場所で視線が止まった。


 昨夜、俺が死んだ場所だ。死体もドロップアイテムも、何も残っていない。それなのになぜか、この場所がそうだと直感的にわかった。


 死んだ瞬間の事を思い出して、思わず奥歯を噛みしめる。今から夜が楽しみだ。



 それから周囲に人がいない場所を見つけて前日と同じくスロウラビットを狩る。昨日の実戦経験の事もあり、圧倒的に狩りのスピードが上がっている。


 やはりVRゲームは良い。自身の技能がここまで大きく影響するゲームなど他に無い。さらに動きが良くなるように工夫するのが楽しい。


 効率が上がったおかげで日が暮れる前には300近い数を狩れた。だが本番はここからだ。



 草原を照らしていた太陽が沈み、辺りを夜闇が包み込む。

 夜間の出現モンスターの情報が出回ったせいか、既にプレイヤーの姿はほとんど見当たらない。今いるのが俺と同じリベンジ組なのか、それとも情報収集を怠った無知組なのかはわからないが、俺がやることは変わらない。


 今度こそあのモグラどもを本当の意味で糧にしてやる。

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