2-11 王都からの旅立ち
パトリックじいさんからトラディの話を聞いて以降、俺は少しでも足りないものを補おうと奮闘した。
現状、例の棍棒の加工は無理だとエルトールたちに伝えて、分配可能なマッサークルの毛皮、肉、骨のみに留めた。
俺がトラディを目指すことも伝えており、呪いの武器に興味を示していたタロットには、加工の目途が付き次第、連絡すると伝えている。
他の奴らはどうか知らないが、俺はマッサークルの素材を防具にすると決めている。パトリックじいさんに確認したら、知人の防具職人を紹介してくれた。加工費はまさかの三十六万である。すぐに金策に走ることになった。
肉と骨はどこで使えるかわからないため、今はアイテムインベントリで待機中だ。
棍棒はどうしたかと言えば、現在もパトリックじいさんの工房で、不気味なオブジェとして置きっぱなしになっている。
じいさんからは、呪われそうだから持って帰れと言われたが、置き場所が無いため無理を言って保管してもらっている。もう少しレベルが上がれば、運べる重量も上がるはずだ。
そうすればアイテムインベントリに入れて運ぶことも可能だろう。
……待てよ?そうすると、移動中ずっとあの棍棒にインベントリを圧迫され続けるという事か?
ダメだ。それだと途中で戦った敵の素材を放置しなければいけなくなる。金になるものもあるかもしれない。何らかの移動手段を考えなければならないだろう。
思いつくのは、馬車か?……考えれば考えるほど金が足りない。
マッサークル戦である程度自信がついた俺は、ソロで森の深部へと潜るようになった。襲ってくる巨大な虫型モンスターや動物型モンスターを、ブーストの訓練も兼ねて昼夜問わず蹴散らし続け、レベルはあっという間に22まで上がった。
ブーストを使った場合、森の深部に居る敵ならほぼ一撃で狩れる。発動の成否があるので確実とは言えないが、効率はかなりいい。
ただ、欠点として武器の劣化が激しかった。おそらく無理やり攻撃力を上げているせいで、武器への負担も相応に大きくなっているのだろう。スタミナの消費量も増加するらしく、気づけば動きが鈍くなっていたりするので、そちらにも注意が必要だった。
気付けば致命的なほど武器がボロボロになっているので、予備を作るために俺の短剣作りの腕はメキメキと上昇している。それに比例して金の減り方も相当なものだが、短剣を購入しなおすよりは、自分で作る方が幾分かマシなため許容できる。
ついでに鉄製武器の納品依頼を片っ端から受けて、無事完遂したため職人ランクは七級に上がった。冒険者ランクも順調に六級まで上がり、戦闘技術だけならばトラディを目指しても大丈夫な程度には上がったようだった。
ギルドで思い出したが、例の討伐戦以降『踏破する者』がどうなったか。九弦あたりなら何か知っているだろうと連絡を取ってみれば、案の定、調べていたらしい。
九弦が調べた限りでは、討伐隊55名中生き残ったのは俺たちを含めてたったの19名。記憶喪失はそのまま死に戻ったやつらの数になる36名。記憶喪失の具合はバラバラだそうだ。
生き残った19名も無事とはいかなかったらしい。それというのも、半数を超える10名がPTSDの症状を抱えてしまったらしいのだ。
PTSD《心的外傷後ストレス障害》。精神病の中でもよく聞く病名だ。今回のように命の危険にさらされる事で、心理的なトラウマが生じ、心身に異常をきたしてしまう症状だ。
ある意味、死に戻って記憶喪失になった奴らも同じなのかもしれない。
あの討伐隊で、本当の意味で生き残ったのは9名だけだったのだろう。
ちなみにその9名の中に『踏破する者』のメンバーは居ない。『踏破する者』のメンバーは団長を名乗ったエルドを含め13名。その内、死に戻って記憶喪失になったのが12名。残るひとりはPTSDだ。
これで事実上『踏破する者』は解散状態になったらしい。唯一生きて真っ先に街に戻ったのが、恐怖に怯える団長のエルドだと言うのだから救えない話だ。
記憶を失った討伐隊の連中も、いつかきっと記憶を取り戻す。そのときエルドは今後も苦労するだろう。もしかしたら恨まれて大変なことになるかもしれない。けれど、それは自業自得だ。俺たちはこれ以上関わるつもりは無かった。
幸いと言うべきか、俺たちがマッサークルの素材を手に入れていることは、誰にも知られていなかった。あの場で生きていたのは俺たちだけだったと言うのもあり、今のところトラブルは起きていない。
そのかわり、というのも難だが、無用なトラブルを避けるためにも、マッサークルの素材を売る事はできなくなってしまった。まぁこちらは最初から防具にするつもりだったし、あまり気にしてない。
そしてマッサークルの討伐戦から二ヶ月。レベルも25まで上がり、装備も充実した。胴体を覆うのはマッサークルの毛皮で作った鎧だ。こういう毛皮を利用した鎧はハイドアーマーと言うらしい。
〇マッサークルハイドアーマー
耐久値250
防御力76
敏捷度5
特殊効果:『硬化』『怪力』
製作者:ブレオス
これが鎧のステータスだ。ちなみにアグリーアにある鎧で一番良いものでも、せいぜい防御力30ちょっとだ。さらに敏捷が上がる鎧なんてなかなか無い。他の奴らにバレたらチートだ何だと絶対に言われるに決まっている。
この鎧を作ったブレオスと言う皮製品専門の職人だが、もう少し素材に余裕があれば、防御力100を超えることもできたかもしれないなどと言っていた。いつかぜひお願いしたいものだ。
特に目を惹くのが「特殊効果」という部分だろう。これは上位のモンスター素材を使った装備に稀に表れるものらしい。
特殊効果にはおおまかに三種類が存在し、任意発動型と常時発動型、そして一定条件下での自動発動型というのがある。
今回ハイドアーマーに付いていた『硬化』と『怪力』はどちらも任意発動型らしいのだが……どう考えてもスキルじゃねぇか!!
確かにプレイヤー自身がスキルを覚えるわけじゃないけど、もう少し書き方考えようぜ!!
ついでに俺が作った短剣の出来はと言えば
〇鋭い鉄の短剣(リケット専用)
耐久値12
攻撃力32
製作者リケット
と、こんな感じになっている。攻撃に特化させてしまったため耐久値は市販品より低めだが、十分実用に足るものとなった。自分の使いやすいようにイジりまくったせいか、俺専用の文字が付くようになってしまったのはご愛嬌だろう。
あとは棍棒の輸送に関してだが、こちらは結局パトリックじいさんに預けたままにすることになった。馬車を購入しようかとも思ったのだが、予想以上に金食い虫だったのだ。まず一番安い馬の購入でも三十万、馬車本体が安い物で十万 (すごくボロい)、御者も必要、馬のエサも必要ともう必要な物が多すぎて、とても手が出なかったのだ。
青いネコ型ロボットに縋り付く丸眼鏡の少年のごとく、パトリックじいさんに泣きついたら、トラディに到着後、連絡があれば郵送の手配をしてやると言ってくれたのだ。(もちろん郵送代金は俺持ち)
王都アグリーア付近のモンスターも粗方狩りつくし、基本的な鍛冶技能も習得できた。資金の方はいろいろと使ってしまったのであまり余裕はないが、正直これ以上王都に居ても楽しみが無いのだ。
敵も決して弱くは無いが、大して苦戦する事も無い。戦闘訓練程度にはなるが、どうにも物足りない。だからこそ俺はトラディへ向かうための準備を急いだのだ。
そして今日、すべての準備が整った。トラディまでの道のりは長く、小さな町や村を経由していく必要がある。モンスターも強いものや、厄介なものが増えるらしく、十分に気を付けて行けとパトリックじいさんに助言をもらった。
未だ記憶は戻っていないが、精神的にはかなり安定してきたらしいエルトールたちにも王都を出ることを伝え、俺はついに王都を出発したのだった。
書き溜めていた分はこれで終了です。
またしばらく書き溜めに入りますので次回更新は未定です。




