表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOWDIT ONLINE  作者: 芳右
23/28

2-09 素材の分配

 中央広場からパトリックじいさんの工房へと移動した俺たちは、じいさんの好意で一室を貸してもらっていた。木製の簡素な机に、同じ材質の椅子が六脚。会合にでも使っているのか、話し合うには丁度いい感じの部屋だった。


 俺たち五人に加え、パトリックじいさんも話し合いに参加してもらっている。

 なぜかと言えば、鑑定の結果を全員の前で教えてもらうためだ。誰も俺が金額を誤魔化すとは思っていないと言ったが、こういうのはキッチリしておいた方がいい。


「それじゃ、話し合いをはじめましょうか」

「それはいいが、リケット、お前はさっきまでの喋り方で構わんぞ。俺の呼び方も呼び捨てで構わん」

「そうですね。そっちの方がいいと思いますよ。私も呼び捨てで大丈夫ですよ」

「まぁアバター名なんてある種のあだ名みたいなものだし、私も呼び捨てでいい」


 九弦、アノダ、タロットの順でそう言った。さっきまで、というと記憶喪失に関して話していた時の事だよな?そういえば、あの時は敬語を使わず素で話していた気がする。


「わかった。それならお言葉に甘えるよ。代わりと言っては難だが、みんなも俺に敬語を使う必要はないからな」

「俺はそもそも、敬語なんぞ使った覚えはないがな」

「九弦はそうだな。まぁ全員話しやすいように話してくれればいい。それじゃ今度こそ分配についてだ。まずはパトリックじいさん、鑑定の結果を教えてくれ」

「……やっとか。まあいい、じゃあ言わせてもらうが、ありゃとんでもない素材だ。まず腕だが、こりゃ何の腕だ?こんなサイズの魔物なんぞこの辺じゃ見た事が無い。皮膚も毛皮も下手な武器じゃ傷も付かんじゃろうな。どうやって切ったのか知らんが、防具にでも加工すりゃこれだけでひと財産になる。詳しい金額については想像もつかんな。」

「おお、腕だけでそれかよ。じゃあ仮にでいい、もしじいさんがこれを買い取るとしたらいくら出す?」

「難しいところだが……そうだな。素材としてなら百……いや三十万くらいにはなるじゃろう」

「三十万?!マジかよ!」

「ああ、おそらくそれくらいの値はつく。だが、もしこれを加工して鎧にでもできれば、売値は一気に百万を超えると思うぞ」

「「「「百万?!!」」」」


 その金額に驚いて思わず大声を上げてしまう俺たち。エルトールは俺たちの急な反応に驚いて若干身を引いていた。おとなしいエルトールとか、俺の中の違和感がすごい。


 まぁそんな事は今はどうでもいい。それよりも金額だ。三十万と言えば大金だ。俺たちが一日中狩りをやって、稼げる金はせいぜい二、三万。それが腕一本、それも肘から先の部分だけでその金額だと言うのだ。それも加工しただけで価値が三倍以上に膨れ上がるのだ。俺たちが驚くのもわかってもらえると思う。


 でもまぁ……


「けど、確かにあれだけ強かったんだから、ある意味納得もできるかな」

「そうだな。俺の弓矢どころかタロットの槍すらどうしようもなかった化け物だからな」

「今思えば、逃がしたとは言え、よく生き残りましたよね」

「そうね……」


 なんとなくしみじみ、自分たちがどんな化け物と戦ったのかを認識する。なんか思い出したら背筋ゾクッとしたよ。


「呆けてるところ悪いが、こりゃ何の素材だ?長年工房主としてやってるが、王都の近くでこんな化け物みたいな腕した魔物なんぞ見たことも、聞いたこともねぇぞ」

「あー、確かにあれは普通のモブじゃないだろうな。バーサークモード入ってたみたいだし、少なくともフィールドボスクラスか?っと、まずはパトリックじいさんの疑問に答えなきゃな。敵の名前はデビル・オブ・マッサークル。顔に鉄仮面つけてて、ほぼ全身を赤黒い毛が覆ってるモンスターだったな」

「……聞いたことのない名だ。まぁこの腕みりゃどれだけの化け物だったかはわかる。お前らよく生きてたな」

「ホントにな。まぁいいや、とりあえず腕はいいから次に移ってくれよ」

「……そうだな。じゃあ次はあの馬鹿でかい棍棒についてだが、あれもかなりの値打ち物だ。売るとすれば、あれだけで数百万はするかもしれねぇな」

「おお、それはまた……」

「話は最後まで聞け。たしかに値打ち物だが、ありゃ普通に売ろうと思っても、買い手がつかないだろうな」

「ほう、そりゃまた何で?」

「ありゃ呪いの武器だ」

「呪いって……」

「もともとはただの鋼製の棍棒だったはずだが、強度も重さも桁違いだ。それが殺された者たちの怨み辛みで呪われて、赤く染まっちまったんだろう」


 パトリックじいさんは至極真面目な顔をして話しているが、ちょっと待ってくれ。え?呪い?ロウジットってそういうゲームだっけ?

 俺が混乱しているのを無視して、パトリックじいさんは今までにないくらい饒舌に語りだした。キャラ変わってるぞじいさん。あ、どうしようこれ……。


「呪いの武器になっちまった事で『狂化』なんて効果が付いちまってる。重さの方は……まぁ魔法付与師マジックエンチャンターにでも頼んで『軽量化』の魔法を付与してもらえば何とかなるだろうが、かなり使い手を選ぶ武器になるのは間違いない。その使い勝手の悪さから、呪いの武器なんてものを買うやつはほとんどいないだろうな。少なくともコイツを買い取ってくれそうな業者は王都にいねぇよ」


 との事だ。てか何だ魔法って!魔法は無いんじゃなかったのか!


「何言ってんだ?確かにワシら人族は魔法が使えないが、魔法を使える種族なら沢山いるだろうに」

「あれ?口に出してた?」

「大丈夫かお前?」


 眉をひそめて俺を見てくるパトリックじいさんの視線に耐えられなくなった俺は、思わず視線を逸らした。


 どういうことだ?『ロウジット』の世界でも魔法は存在する?説明文をよく思い出せ、そこにヒントはあるはずだ!


『ロウジットの世界で、プレイヤーにスキルや魔法といったものは存在しません。あなた自身の力で道を切り開いていく自由度の高い世界です。』


 ……もしかしなくても、この『プレイヤーに』という文言が答えだろうか。要約するとプレイヤーにはスキルや魔法は使えないけど、他の種族は魔法やスキルをバンバン使うよ?みたいなノリか?おい、ふざけるな。


 呪いの武器とか言うワードが来た時点で「あれ?おかしいな?」とは思ってたんだ。なんだよ魔法付与師マジックエンチャンターって!もしかしなくても他種族じゃ魔導師マジシャンとかも居るのか?!


 だとしたら最悪だ。要は銃火器を持ってるやつに対して剣や弓で立ち向かえって事だろう?なんだこの格差社会!


 いやいや、落ち着け。とりあえず報酬分配の話が先だ。魔法云々はいったん忘れよう。


「あー、みんな、とりあえず聞いた通りだが、この場合分配はどうする?」

「今の話を聞いた限りだと、腕を売っただけでも結構なお金になるわけですよね。だったらそれを売ったお金を分ければいいと思うのですが」

「まぁアノダの言う通りなんだけどな。正直な話、これは売るより防具に加工した方がいいんじゃないかと思うんだ」

「それは……確かにそうですね」

「いつログアウトできるかもわからないし、死ねば記憶喪失になる可能性も高い。それが無くてもあんな痛い思いはしたくないしな。あの頑丈な毛皮からできた防具なら、それなりに安心もできるだろ?ここにいるメンバーは全員動きを阻害しないような装備で固めてるし、実用面ではそっちの方が俺たちの利になりやすいと思ってる」

「なるほど、確かにそれも一理ある。ということは素材を解体して人数分に分割するのか?」

「そうだな。それが一番手っ取り早いと思う」


 九弦の言葉に俺は頷いた。アノダもタロットもそれで納得しているようだし、エルトールは相変わらず借りてきた猫のように大人しいままだ。

 これで決まりかと思って話をまとめようとすると、思わぬところから口出しがきた。


「ちょっと待て!あれを解体ってお前ら正気か?!さっきも言った通り、あの腕はちょっとやそっとの刃じゃてんで役に立たん。解体するのを依頼するだけで足が出るかもしれんぞ!」

「いやいや、じいさんよく考えてくれ。それ持って来たの俺だぞ?そんな状態になるように切り刻んだのも俺だ。なら俺が解体を担当すれば問題ない。そうだろ?」

「えっ……あっ、あぁ……言われてみれば、そうだな。だが、お前よくあんな硬い皮膚を切り裂くような武器を持ってたな。そんなものいつ買った?」

「いや、俺が作った短剣だよ。じいさんも良く知ってるだろ」

「なっ!あんな出来の短剣でこれをやったってぇのか?うそだろ?」

「あんな出来って何だよ。さすがに俺も傷つくぞ。なんだかんだで一番いい出来だったんだからな」


 泣くぞコラ!いや、わかってるんだけどね。正直俺もあの短剣であの化け物をどうにかできるとは思わなかったし。


「まぁそれはいいや、まずじいさんに相談なんだが、例の赤い棍棒、どうにか別の武器に打ち直しできないか?」

「あれをか……難しいだろうな。炉で溶かせればどうにかなるかもしれんが、やってみんとわからん」

「まぁそうだろうな。みんな悪いが、棍棒に関しては加工できるかどうかを試してからでもいいか?」

「俺は構わん。あれは売れないかもしれないんだろ?だったらそちらは専門家に任せるさ」

「もし加工できても、呪い付きのものなんて欲しくないです」

「私は……ちょっと欲しいかも」

「「え?」」

「希望者はタロットだけか。エルトールはどうする?」

「えと、俺は……」


 なんと言って良いのかわからないといった様子で口ごもるエルトール。はぁ……仕方ない事とはいえ、なんとも複雑な気分だ。


「まぁ、記憶がなくなってるせいで判断基準も無いだろうし、順当に金を分配する方向でいいか。たぶん武器の良し悪しもわからないだろうし、そのへんは九弦たちがフォローしてやってくれ」

「わかった、任せてくれ」


 九弦の言葉にうなずいて、俺は話を進めることにした。


「それじゃ、呪いの武器系は俺とタロット以外、分配拒否でいいのか?」

「あぁ、そもそも分配があるとは思ってなかったからな。棍棒の方は好きにしてくれ」

「私も同じく、呪いの武器は遠慮しておきます。リケットさんの好きにしてください」

「俺も大丈夫です」

「私も、加工ができないようならいらないわよ」

「了解、とりあえずやれるだけやってみるわ。結果報告はタロットに直接メッセージか何か知らせるよ」

「わかったわ」


 分配の内容に関してはひとまずこれでいいか。


「さてと、それじゃさっそく解体に取り掛かりますかね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ