1-02 キャラクタークリエイト
黒いフルフェイスヘルメット型のVR導入装置を頭にかぶり、ベッドの上に仰向けに寝転がった俺は、静かに時間が来るのを待っていた。
新作VRMMORPG「ロウジット」正式サービス開始と同時に、事前にダウンロードしておいたゲームを起動し、登録しておいたIDでログインする。
一瞬の視界暗転後、すぐさま意識が覚醒した。
肉体的な感覚はぼんやりとしているのに、視界や意識はハッキリしているというVR機器特有の奇妙な感覚。
目の前に広がるのは、一面スカイブルーで覆い尽くされた無機質な世界。間もなく空中に半透明の仮想ウィンドウが出現し、そこに「キャラクター作成を行ってください」と表示された。
それと同時に男性キャラクターのデフォルトモデルが現れる。平々凡々とした、特徴に乏しい容姿はまさにモブ。これは張り切ってイケメンに仕立て上げなければ……。性別も選べるようになっているが、ネカマをやるつもりは無い。
とはいえ、目鼻立ちを整えるだけで二十項目はイジらないといけない。バランスよくしようと思えば、それこそ相当な時間をかけて微調整を行う必要があるだろう。
そんな俺の目に「ランダム」の文字が映った。ランダムでキャラクター作成ができるって事だよな?
迷わず「ランダム」ボタンを押して実行、何度目かの変更で、ある程度思い描いていた容姿に近いものができたので、残りは手動で調整して完成させた。
男にしては長めの暗いオレンジ色の髪。それをポニーテールのように頭の後ろでまとめている。瞳の色も髪と同じくオレンジだ。目じりは吊り上がり気味で、鋭い印象を相手に与える。
身長は百七十二センチと控えめだが、だらしない贅肉が一切無い引き締まった肉体は、男であれば一度は目指すだろうものとなっている。筋肉もゴツゴツとしたボディービルダーのようなものではなく、全体的に細い印象を与えながらも決してひ弱そうには見えない細マッチョ系だ。
服装が村人Aなどと呼ばれそうな貧相なもので無ければ、もっと見栄えしたのだろうが、それは今後に期待するとしよう。
仮想世界での自分の肉体を作り終えれば、次に選ぶのは武器だ。
初期武器として選べるのはオーソドックスな片手両刃の剣、扱いが楽そうな短剣、両手で扱う事前提の大剣といったものから、弓や鞭など遠・中距離用の武器。さらには農耕用の鍬なんてものまである。
前もってプレイスタイルを考えていた俺は、その中から短剣を選び、次の項目へと進む。
生年月日の設定や何に使うのかよくわからない心理テストを経て、最後にサポートシステムを選択する画面が現れた。
サポートシステムには二種類があるようで、ひとつはアシストシステム、もうひとつはブーストシステムと言うらしい。
これは正式サービス開始の特典で、本来は課金アイテム扱いとなる物らしい。課金アイテムと言うだけあって、その種類は多岐にわたる。
アシストもブーストも、戦闘用と生産用にそれぞれ分かれており、そこからさらに細かいジャンルに分けられている。
例えとして戦闘用のサポートシステムを取るならば、俺は初期武器に合わせた短剣用のアシストシステム、またはブーストシステムを選ばないと意味がない。
生産用のサポートシステムを取る場合も同じだ。鍛冶なら鍛冶のサポートシステム、調合なら調合のサポートシステムを、とそれぞれ必要になってしまうワケだ。
新規プレイヤーがスタートダッシュ特典としてもらえるゲーム内マネーは、円換算で千円相当。それに対してアシストシステムはひとつにつき最低でも五百円。ブーストシステムに至ってはひとつ千円と、値段設定もなかなかにイイ性格をしている。
なにはともあれ、結局俺がどちらを選ぶか、だが……アシストシステムはプレイヤーが不慣れな戦闘、または生産の動作を補助してくれるものだ。これを選んでおけばどれだけ運動音痴だろうが、手先が不器用であろうが一定レベルの動作が可能になるという優れもの……なのだそうだ。
プレイヤー全員がゲームを楽しむための救済措置なのだろうが、俺の好みでは無いな……。
もうひとつのブーストシステムだが、こちらは完全に玄人向けのシステムのようだ。単純な身体強化ならば大して問題にはならなかっただろう。しかし、説明を読む限りではそんな生易しいものでもなさそうだ。
ブーストシステムに関しては、事と次第によってはマイナスにも成り得る。どちらか一方しか選べないのであれば、あまり『不確定要素』は入れるべきではない……が。
『不確定要素』と言う言葉にどうしようもなく惹かれている。不確定であるがゆえに毒にも薬にもなる可能性があるのではないだろうか。
結局俺は短剣用ブーストシステムを選んだ。あとは名前か……「リケット」にしよう。
意味とか無いよ?パッと思い浮かんだだけだからな。
『それでは確認いたします。以下の条件でキャラクターを作成してよろしいですか?(作成後変更はできません)』
NAME:リケット
AGE:18
WEAPON:SHORT SWORD
SUPPORT:BOOST(SHORT SWORD)
画面上に作成したキャラクターアバターと情報が表示され、[YES/NO]の選択肢も現れる。俺はもう一度見逃しがないか確認し、[YES]を押した。
『お疲れ様でした。それではロウジットの世界を存分にお楽しみください』
やたら渋い男性の声でそのアナウンスが聞こえたのと同時に再び意識が遠のく。こういうのって普通綺麗な女性の癒し系ボイスとかじゃねぇの?!意識がまどろみに飲まれる直前にそんなくだらない事を考えながら、ゆっくりと意識がフェードアウトしていった。