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LOWDIT ONLINE  作者: 芳右
14/28

1-14 変異

 VRMMORPG『LOWDIT』を開始して八日目。

 ログイン時間は午前10時。ゲーム内時間は午前9時……ん?あれ?


 おかしい、計算では今は午前6時のはずだ。俺は時間が無駄にならないよう、その辺りの確認はしっかりやっている。にも関わらず予定よりもゲーム内時間が3時間も進んでいる。……仕様変更でもあったのか?


 まぁ過ぎてしまっているものは仕方がない。ログアウトした後にでも公式ホームページで確認してみれば済むことだ。


 それよりも今日の目標だ。まずは森に入って狩りを行い最低限資金を確保しなければならない。できればもう一本短剣を打てる程度の資金は稼いでおきたい。

 次に今の俺の適正狩場に関する情報収集。レベルを上げるためにも必須項目である。気分的には少々の背伸び狩りも可。というかそっち推奨だな、気分的に楽しいし。


 というわけでさっそく行動を開始した。

 最後の資金で買えるだけ回復ポーションを購入し、森へと向かう。道すがら森以外の狩場についても聞いてみたが、いまいちコレと言った情報は集まらなかった。


 森へ到着すると、さっそく単独で徘徊しているサリテリドッグを発見した。幸いこちらにはまだ気付いていないようだ。それならば奇襲を狙うしかないだろう。


 この場合、風下に移動しないと察知されてしまうのは経験済みだ。なので大きな音をたてないように風下へと移動し、両手に短剣を構える。

 一本は初期装備の短剣だが、もう一本は先日自作したものだ。性能的には少しだけ市販品に劣っているが、十分実用に足る物になっている。

 それでなくとも自作と言うだけで愛着がわくものだ。あれだけ苦労を重ねたのだから尚更大事にしようと思う。記念としていつまでも置いておきたい。


 なにはともあれ夢の二刀流、初の実戦である。


 感触を確かめるように何度も手の中で弄び、呼吸が整ったところですかさず茂みから飛び出す。

 物音に気付いたサリテリドッグが、こちらを視認するよりも早く、一気に距離を詰めて短剣を横薙ぎにした。

 力の乗った攻撃は、サリテリドッグの後ろ足を深く傷つけ、機動力を奪った。その傷に怯んでいる内に、逆手の短剣を背中に突き刺した。


 サリテリドッグの背中に突き刺さった短剣は、そのまま内臓を傷つけるほどの深手を負わせ、力任せにそれを引き抜けば、そこからおびただしい量の血が傷口から溢れた。


 ……え?


「ぅわっ?!」


 思わず後ずさったにも関わらず、サリテリドッグの傷口から跳ねた血が、服や顔に飛び散ってきた。そして、改めてサリテリドッグの状態を確認して、呆然としてしまった。


 俺が切り付けた後ろ足や背中の生々しい傷跡。そこから溢れ出る血液。少しずつ力を失って倒れ伏し、痙攣するサリテリドッグ。


 ……なんだこれは?これじゃまるで……本当に生き物を殺したみたいじゃないか。


 死んだはずなのに、いつもの軽いシステム音とドロップアイテムが出ない。いや、それよりもこんなグロテスクな表現は欲しくなかった。これも仕様変更か?自分で解体までしろと?


 いや、もしかしたらまだ死んでいないのかもしれない。うん、その方が納得できる。


 そう思って、腕輪の機能でサリテリドッグのHPを確認しようとしたのだが……


「え?」


 HPバーが見えなかった。表示されるのは名前とレベルのみで、ほかの情報は一切見えなくなっている。


 昨日までは見えていたのに、今日になってなぜ?そんな大幅な変更があるなど、告知で見た覚えもない。事前連絡も無くここまで大幅な変更をするなど仕様云々の話ではない、これでは本当にただのクソゲーではないか。


 これはダメだ。一度街に戻ってログアウトしよう。文句はいろいろあるが、まずは俺が見落としていなかったかを確認してからにするべきだろう。もしも俺が見逃していただけならば、性質が悪いだけのクレーマーだ。それは俺の本意ではない。


 そうして、ひとまずサリテリドッグの死体?を放置してその場を去ろうとした瞬間、ゾクリと背筋を悪寒が襲った。

 その嫌な予感のまま後ろを振り返ってみれば、見覚えのある緑色の草がゆらゆらとゆれていた。


「っ!?くそっ!」


 それは紛れも無くフォレストドッグが擬態用に用いる背中の草だ。茂みの向こうに少なくとも四匹以上いるはずだ。周囲を注意深く見てみれば、案の定、似たような植物がゆらゆらと風に揺られているのが視認できた。確認できただけでも全部で五匹。この数のフォレストドッグから逃げられるとは思えない。仕方がない、やるか。


 両手に握った短剣を、しっかりと持ち直して身構える。経験上、こうすればフォレストドッグもこちらが自分たちの存在に気付いたことを悟る。すると、向こうも覚悟を決めたように姿を現すのだ。そして、当然のように


――ギャインッ


「やっぱり居やがったな、六匹目!」


 背後に向かって思い切り短剣を振れば、重い衝撃。チラリと視線を向けてみれば、顔面を傷つけられたフォレストドッグが地面を転がっている。

 それを合図に四方の茂みから他のフォレストドッグが襲い掛かってきた。向かってくる一匹に向かって敢えて突っ込み、全体の攻撃タイミングをずらす。これで無事に一匹目を回避。距離を詰めた方のフォレストドッグは、勢いのまま短剣の柄で殴りつけたあと、返す刃で手近な別のフォレストドッグを切りつける。

 それに少し遅れて、俺に噛みつこうとしたフォレストドッグの噛みつきを、もう一方の短剣で受け止め、受け流す。

 だが、予想以上にガッチリと噛みついていたようで、うまく引きはがせずバランスが崩された。

 しかし、このまま無様に引き倒されるのも癪なので、倒れ込むと同時に空いていたもう一方の短剣で、フォレストドッグの顔面を突き刺してやった。


 短剣は深々とフォレストドッグの鼻梁から顎までを貫き、頭を地面に縫い付けるような形になった。もちろん地面は硬いので、深くめり込むようなことも無い。

 すぐさま短剣を引き抜き、新たに襲ってきていた二匹を力任せに薙ぎ払った。ついでとばかりに足元で痛みにもがいている森犬の頭蓋を踏み抜いてとどめを刺す。


 先ほどから、敵を攻撃するたびに生々しい感触が伝わってくる。切り付けた際の肉を裂く感触、耳障りな悲鳴。頭を踏み抜いたときなど、一瞬だけ柔らかい感触のあとに硬い物を無理やり押しつぶす嫌な感覚がダイレクトに伝わってきた。


 返り血も嫌になるほど浴びて、鉄っぽい臭いが鼻に着く。五感の全てが生き物を殺す感触を伝えてくるのだ。なんだコレは?いくらリアリティがどうこう言ってもこれはやりすぎだろう?こんなものただのトラウマ製造機だ。


 心の中で悪態をつきながらも、体は必死にフォレストドッグの攻撃を凌いで迎撃し、時にこちらから攻めて傷を負わせていく。戦いなれていたのもあって、未だ俺は無傷だ。


 六匹もいたフォレストドッグもどんどん数を減らしていき、残り二匹となった。いちいち生死を確認する余裕も無いため、全部頭を踏み抜いてとどめを刺している。我ながら随分と非道なことをしているという自覚はある。


 セオリー通り俺の気を引こうと正面から襲ってくるフォレストドッグをカウンター気味にキッチリ仕留めて、背後から迫るもう一匹にも逆手で短剣を付き込み戦闘終了……と、力を抜いた瞬間だった。


「いぎっ?!」


 左ふくらはぎに激痛が走る。何が何だかわからないまま、痛みの発生源に目を向ければ、フォレストドッグがその鋭い牙と爪を突き立てている光景だった。


 あまりの痛みに冷静な思考ができない。なんで?どうして?そんな疑問が浮かんでは、痛みによってかき消されていく。


 少しでも動かせば、ひどい痛みが襲ってくる。だが、何もしなくても、フォレストドッグが頭を振って、俺の足を引きちぎろうと力を込めてくるのだ。


「ぐぞがっ!!」


 戦い方も何もない、力任せに振るった短剣は、簡単に避けられた。それでも引きはがすことには成功した。

 こちらを威嚇するフォレストドッグから目を離すことなく、先ほどまで噛みつかれていたふくらはぎを確認してみたが、一切傷は見当たらず血も出ていなかった。それなのに一向に痛みは消えない。


 プレイヤーの肉体はグロテスクな表現がされない仕様なのか?……それにしたって、この痛みはやばすぎる。足を動かすのにも支障があるようで、上手く動かすことができない。痛みは先ほどまでよりはマシになったとはいえ、うまく思考がまとまらない。


 そうは言っても敵は待ってはくれない。痛みによって生まれた恐怖心を、気力で振り払い、今までどうやって戦っていたかを思い浮かべる。

 少しずつ集中力を取り戻し、歯を食いしばって無理やり痛みを誤魔化して、なんとか戦闘に意識を戻した。


 そこから頃合いを見計らったように襲ってきたフォレストドッグの攻撃をギリギリで捌き切り、二匹の息の根を止めてから回復ポーションをがぶ飲みした。


 HPが回復すると同時に、あの激痛が治まっていくのを感じる。改めて周囲を警戒してみるが、少なくとも近くには居ないように思えた。


 やっとの思いで一息つくと、新手が現れる前に森から出て、王都を目指す。三十分もかからず街へと戻ってきた俺は、町中が妙な雰囲気に包まれていることに気付いた。


 街のところどころで、妙に挙動不審なプレイヤーを見かけるのだ。これはおそらく、さきほど俺が実体験した大規模な仕様変更の影響だろう。そう結論付けて、俺は王都の中央部にある広場へと向かう。


エルトールから聞いた話なのだが、ログアウトする場合は宿屋、もしくはスタート地点の中央広場で行った方がいいとの事だったのだ。


 なんでも、中央広場や宿屋以外の場所でログアウトした場合、身体データの状態保存がされず、時間経過と共に疲労度も溜まって行ってしまうらしい。疲労度というのは、俺が空腹度と考えていたものと同じようなものだ。もちろん度を越せば死亡する。すでに何名かのプレイヤーがその犠牲になってしまったらしいので、おそらく間違いないのだろう。


 間もなく、俺は中央広場へと到着し、すぐにログアウトを……したはずだった。


「……おいおい、冗談だろ?」


 思わず呟いてしまっても仕方がなかった。いくら押しても反応しないログアウトボタン。改めて周囲を見回してみれば、俺と同じように戸惑ったような表情をするプレイヤーたちが見えた。中には酷く虚ろな目をしたプレイヤーも何名か見て取れた。


 それを見れば、今がどういう状況なのか、ある程度はわかる。


 『ログアウト不能』『デスゲーム』そんな言葉が脳裏に浮かんだ。これが単に大幅な仕様変更によって生じた不具合なのか、それとも何者かによる悪意の産物なのか、それはわからない。今俺にできることと言えば、運営に対して状況説明を求める文を送る事と、待つことだけだ。



 それからいくら待っても運営からの返事は無く、ひとつの事実だけが残される。


 この日、俺を含めた数万人に及ぶプレイヤーたちは、鬼畜ゲームと名高い『ロウジット』の世界に閉じ込められたのだった。


ここで第一章終了です。

とりあえずVRゲームを題材にした小説としてはありきたりな展開ですね。


ここまでご覧になって下さっている皆さん、ありがとうございます。

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