1-12 反省会
フォレストドッグとの戦闘に辛勝した俺たちは、少しだけ体力を回復して早々に森から出た。現状を鑑みてこれ以上の戦闘は無理だと判断したからだ。
幸いフォレストドッグに再遭遇などということは無く、無事に森を出て町に戻ることができた。途中、サリテリドッグにも遭遇したが、完全にフォレストドッグの劣化版であり、単体でしか出てこないサリテリドッグは、俺たちにとって良い的だった。
既に資金が底をついていたため、フォレストドッグとサリテリドッグのドロップ品をギルドで売却して金を作り、その足で近くの飲食店へと向かった。
席に着き代金を先払いして、三人分の軽食を注文した後、最初に口を開いたのはエルトールだった。
「リケット……今回はその……すまんかった」
「気にするな。俺だって、もし仮にひとりであの森に突っ込んでたら、死ぬ可能性だってあるんだからな。パーティだったからこそ生き残れた。俺にとっては僥倖だったよ」
この言葉は真実だ。今回遭遇したフォレストドッグは四匹の群れだった。エルトールとアノダさんが二匹を受け持ってくれたからこそなんとかなったが、俺一人に対して四匹同時に責められていたら完全にアウトだっただろう。
「それを言ったら俺にとっても同じことだ。リケットが居なきゃ確実にやられてた」
「それじゃあ、お互い様ってことでいいんじゃないか?」
「そう……だな。そういうことにしとこう。ならこの話はいいとして……」
「ん?」
「お前ありゃ何だ?お前そんなに武闘派だったっけ?!何あの動き!戦闘慣れしすぎててドン引きしたんですケド!」
途端にまくしたてるエルトールに戸惑う俺。つかドン引きって何だよ。戦闘慣れしているのがそんなにいけないことだろうか?
「それはちゃんと説明しておいただろ?モグラ戦で……」
「聞いてたよ?聞いてたさ!けどなリケット、前やってたゲームでもあそこまでの動きはできなかっただろうが!完全に予想の範疇外だよ!」
「……確かにアレは凄かったですね」
「ね?アノダさんもそう思うよね?」
「それはゲームの仕様とか自由度そのものが違うんだから、同じってわけには……」
「わかってるよ!けど、そういう意味じゃねぇよ!なんで背後からの奇襲とかに平然とカウンター合わせてんだよ!見てる方がビビったわ!」
「エルトール、そんなに褒めるなよ。照れるだろ」
「褒めてねぇよ!」
ふむ。言われてみれば結構な芸当をしていたのかもしれない。
「安心しろエルトール。お前も夜の草原を経験すればできるようになるさ」
「やだよ!なんだその苦行!」
「あの……すみません。その夜の草原と言うのは?」
「ああ、それはね……」
アノダさんにモグラについての話をして、そこから改めて今回の戦闘に関する反省の話に移った。
「で、結局今回の反省点ってのは……はい、リケットくん」
「丸投げすんな。……あー、まぁまずひとつ目、情報不足。今回俺たちはフォレストドッグを無意識のうちに単体で出てくるものだと決めつけてた。だが、実際に遭遇したのは四匹の群れだった。前もってアイツらが群れる敵だとわかっていれば、深入りせずに撤退できたかもしれないな」
「確かにな。俺も掲示板の情報を鵜呑みにしてそれ以上考えてなかったわ。サリテリドッグが単体で出てくるって情報から、勝手にフォレストドッグも単体だと決めつけてたな」
「そうですね」
「もうこればっかりは慎重に行動するしかないな。掲示板の情報だけじゃなく、できるだけほかでも情報を集めたほうがいいかもしれない」
「よし、いい感じでまとまったところで、次いってみよー!リケットくん!」
「また俺か?!はぁ……じゃあふたつ目。これは主に俺が原因だが、敵への対応だな。あの場は戦力を分散するべきじゃなかった。三人で協力していれば、もう少し被害は抑えられたかもしれない」
「あー……言われてみればそうかもしれないけど」
「けど?」
「正直俺、リケットのあの戦闘スタイルに合わせられる気がしない」
「「あー……」」
「パーティ組んだのも初日だし、連携なんてあって無いようなものだ。ソロでの戦闘技術を磨いてたリケットと、前もってパーティ組んでた俺とアノダさんコンビで分けたのは、あの場ではそこまで問題にならないと思うぞ?」
「そうですね。あの場で危なくなってしまったのは、単純に複数に対する戦闘に慣れていなかった私たちの問題ですし」
「そうそう。と、いうわけで、今後は互いに連携を意識して戦闘するってことで!」
「え?このパーティってまだ続けるのか?」
「「え?」」
何言ってるのコイツ?みたいな顔で二人に見られた。
「いや、そもそもこのパーティって俺にとってお試しって事だっただろ?今回十分得るものもあったし、あのフォレストドッグもソロで対応できるように特訓したいし……」
「いやいやいやいや、お前何言っちゃってるの?まだ何も始まってねぇし、これからだろ?ってかあのフォレストドッグの群れ相手にソロで挑むとか馬鹿だろ」
「遠慮の欠片もないな!けど、正直な話、回復手段さえあればソロでもなんとかなると思うぞ?ノーダメージってわけにはいかないだろうが、ある程度避けられるようになったし」
「順応が早すぎる?!」
「よく考えてもみろよ?ここはゲームの世界だ。戦闘中に負傷したとしても痛みは感じないし、死んでも生き返る。デスペナルティはかなり重いが、リスクと言えばそれだけだ。つまり本来はできないような戦闘訓練が、ここではやりたい放題なんだ!」
「「…………」」
「痛みを感じないから、その分冷静に戦闘の考察ができるし、集中を乱されることも無い。敵も多いから実戦経験も積み放題。な?これだけ環境が揃ってれば、あのくらいできるようになるのは当たり前だろ?」
「そんなわけあるか?!」
「あるよ!」
「自信満々に即答してんじゃねぇよ?!なんだその脳筋理論!お前はどこの軍人さんだ?」
「ごく普通の一般市民ですけど……」
「ごく普通の一般市民が、そんなストイックに戦闘経験積むとか無いわ!前から思ってたけどリケット、お前やっぱ変人だわ」
エルトールにとても失礼な事を言われた。さっきから脳筋だの変人だの言いたい放題だ。当たり前の事しか言っていないはずなのに……なぜだ。
「あー……なんかスゲェ疲れたわ」
「おう、エルトールご苦労さん」
「元凶のお前に明るく返されると、余計に腹立たしいんだが?」
「エルトールも体調悪そうだし、今日のところは解散にしようか!」
「さらっと流すな!あとちょっとウキウキしながら解散宣言してんじゃねぇよ!」
「あの、すみません。私もちょっと疲れてしまったので、今日は落ちますね」
「え?あれ?そうなの?……それじゃ仕方ないね。解散にしようか」
「はい、すみません」
「気にしなくていいよ。良かったら次もよろしくね」
「はい、その時はよろしくお願いします。それでは失礼します」
「おつかれさまー」
アノダさんは挨拶を済ませると、店を出て行った。おそらく宿屋でログアウトするのだろう。
「それで?リケットは本当にまた森に行くのか?」
「当然だろ?」
「ないわー」
「回数を重ねたら絶対いけると思うんだよ」
「超ないわー」
「そうは言うけど、エルトールはどうするつもりなんだよ?」
「んー……、それは特に決めてないけど」
「なんなら一緒に来るか?」
「それは断固拒否」
「そこまで拒絶しなくても……。まぁいいや、それより夜の森についての情報って何かある?」
「え?まさかリケット、夜も行くつもりなのか?」
「さすがにやらないよ。ただ情報として無いよりはマシだろうってだけだ」
「あー……まぁそうだよな。つってもまだ夜の森に関しては情報は出回って無かったよ」
「そうか。わかった、ありがとう。それじゃ俺もそろそろ行くわ」
「おう、ほどほどにな」
「任せろ。きっちりひとりで森犬仕留められるようにしとくよ」
「俺はほどほどにって言ったんだ!」
そんなツッコミをしてくるエルトールを後目に、俺は飲食店を後にした。
きっちり準備をしたら、森へ再突入だ。




