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彼女は七回戦った  作者: 徳田雨窓
第一章 ホーク砦撤退戦
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「我がホーク砦は国家防衛の最前線であり、我が国の要衝であります。帝国パルジャノの暴挙は断じて許されざるものであり、徹底抗戦こそ正義。そして必勝に至る唯一の道。友軍の戦力温存は来たる正義の呼び水となるでしょう。敵軍の足止め任務は、後世に語り継がれるべき勝利の鍵。誇り高きこの任務の栄誉に浴することに、自分は感激しております!」

 作戦会議の前の簡単な自己紹介……のはずが、いきなりやる気満々の青年――フォスター二等兵にとうへいの演説になっていた。愛国心あふれるというのは、こういう感じなのだろうか。

「彼は、私の兵站部隊に本日着任したばかりの新兵です。少し頭でっかちなところはありますが、頭数としては問題ありません」

 熱く持論を語るフォスター二等兵とは対照的に、ウォーレン曹長は淡々としていた。

「次は、レダ二等兵です。彼女はガトー軍曹の歩兵部隊所属の傭兵ですが、砲術にも詳しいと聞いています」

「こ、こ、こんばんわっ。レダ、ですっ」

 なんだかレダ二等兵は緊張気味だ。

「うふふ。こんなカワイイ傭兵さんもいるのね」

 レダ二等兵の頭を、彼女が笑顔でなでなでしはじめた。レダ二等兵の背丈は彼女の肩口ぐらいまでしかないので、ちょうどなでなでしやすいのかも知れない。

「代行殿。レダ二等兵はこう見えて戦闘経験はなかなかのものと聞いております」

「あら。ごめんなさい。柔らかそうな髪の毛だったから、つい」

「い、いえっ。自分は、お金、お金もらえればなんでも、するのでっ」

「お支払いすれば、なでなでしてもいいの?」

「はいぃっ。お金、欲しいのでっ」

「レダ二等兵には、足止め組に加わってもらうにあたり、給金を増額いたしました」

「じゃあ、好きなだけなでなでしていいってこと?」

 ……いや、そうじゃないだろう。

 足止め組の集合場所となった兵舎の食堂に、コホンという小さな咳払いが鳴る。マックス准尉だ。

「代行殿。ご相談があります。司令部の牢に山賊を拘留していますが……」

「山賊さん、ですか?」

「はい。周辺の村々で強盗を働いた容疑で、一週間ほど前に捕縛したものです。近々バーレンに移送し、裁判にかける予定でしたが、この状況です。撤退組に同行させる余裕はありませんでしたので、牢に放置されているようです。どうしますか?」

「山賊さんなら、この辺りの土地には詳しい?」

「おそらくは」

「私たちに協力してもらうことはできないかしら?」

「分かりました。解放と引き換えに、協力させてみます」

「お願いします」

 定刻よりは少し遅れて、ガトー軍曹が食堂に入ってきた。

「探すのに手間どったが、足止め組にもう一人追加だ」

 軍曹の後から、見慣れない老人がついてくる。ボロボロの服にボロボロのマント、頭からつま先まで、土埃かなにかで薄汚れている。

「見たところ、民間人のようだが……」

「ああ。たぶん、今はな」

 老人を不審そうに見るウォーレン曹長に、ガトー軍曹はそっけない。

「俺の知り合いのエル爺さんだ。傭兵として雇ってくれればいい。即金でどれくらいまでなら払える?」

「即金? 二等兵の三ヶ月分が限度だ。バーレンに戻れば別だが」

「とりあえず三ヶ月分でいい。後で爺さんに渡しておいてくれ」

 ガトー軍曹が食堂を見回す。

「だいたいはそろったが……ニクソン一等兵いっとうへいはまだ寝ているのか?」

「は、はいぃっ! 起こして、きますっ」

 レダ二等兵が食堂から出て行こうとするのを、軍曹が右手を振って止めた。

「放っておけ。飲み過ぎてるだけだ。そのうち起きてくる」

 そのやり取りを見ながら「ニクソン一等兵は砲兵部隊の熟練兵です」と、マックス准尉が彼女に耳打ちしているのが聞こえた。


     ◆


 急ごしらえの足止め組七名――マックス准尉、ウォーレン曹長、ガトー軍曹、フォスター二等兵、レダ二等兵、エル爺さん、そして俺――を前に、彼女はもったいをつけた咳払いをした。

「おっほん。えー」

 彼女は俺たちの顔を見回した。

「私たちの任務は、明日の日没までこの砦で帝国パルジャノを足止めすることです」

「代行殿!」

「はい、フォスターさん」

「なぜ日没までなのでしょうか?」

「良い質問です。お馬さんをたくさん、夜に走らせるのは危ないですよね? なので明日の日没を過ぎると、帝国パルジャノの騎兵は明後日の明け方まで私たちを追撃できなくなります」

「民間人の安全を確保できると?」

「はい。民間の方と撤退組は、明後日にはバーレンに着く予定です」

 ウォーレン曹長が手を上げた。

「しかし帝国パルジャノ軍は約一千。この戦力差で、明日一日をしのげるとは思いにくいのですが」

「まともに戦えば無理、かな。ですから工夫しましょう」

「工夫? 先ほど用意した小麦粉や水が、ですか?」

「小麦粉は、袋に入れたまま、城門を外側からふさぐのに使おうと思っています」

 ガトー軍曹が笑った。

「ははは。なるほど、砲弾避けか。普通は砂袋を使うんだがな。まあ、砦で手に入るものは限られているからな」

「しかし」

 マックス准尉の表情は固い。

帝国パルジャノは例の新大砲を使わないでしょう。城門をふさいでも意味がないのでは?」

「いえ」

 彼女はニッコリ微笑んだ。

帝国パルジャノには、できるだけ新大砲を使ってもらおうと思っています」


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