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彼女は七回戦った  作者: 徳田雨窓
第四章 見えない戦い
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「預かり屋がそんなことになっているとは……知りませんでした」

 フォスター二等兵は、興味深げに俺の話にうなずいた。

「なかなかおもしろい話だろ?」

「ええ、本当に。商人たちが預かり屋を頻繁に利用していることは聞き知っていましたが、商品の運び手も兼ねているとは驚きです。しかし……」

 二等兵はうつむき加減に視線を床に落とすと、じっと何かを考えているような、そんな眼差しになった。

「しかしですよ。私は、ウォーレン曹長の話に納得が行きません」

「そうなのか?」

「ええ。まず、計算が合いません」

 計算?

「そもそも帝国パルジャノの家畜の価格と、新型の小型野砲を製造するために必要な鉄の価格がつり合いません。ざっと二倍くらい足りないはずです」

「それは必要な鉄を買うのに、家畜があと二倍は必要、ってことか?」

「そうです。しかも、それは原料としての鉄の代金に限っての話です。野砲を製造するには、それに加えて鍛冶屋たちへの支払いも必要でしょう。手間賃の相場を考慮すると、家畜はもっと必要になるはずです」

 それは……そのとおりだ。

「まだありますよ。ニクソン一等兵の話だと、砲弾は鉛で作るんですよね? だとするとその分も考えなければいけません。あと、火薬も確保する必要があります。それにつり合うだけの家畜となると、一千頭を超えてしまうでしょう」

「……ぜんぜん足りないな」

「ええ。ですから、私はこの件について、一度調べてみる必要があると感じています」

 二等兵はうつむき加減の姿勢のままだ。

「調べるといっても……どうするんだ?」

「わかりません。わかりませんが……」

 二等兵の目にどことなく鋭い光が浮かんでいるような気がした。

「私は一度、王都に行ってみようと思っています」

「王都? 王都でなにか分かるのか?」

「これは推測なのですが……黒巫女セイラムは重商派なのではないかと、私は睨んでいます」

「王都とそれと、何か関係があるのか?」

「王都には帝国パルジャノと外交交渉している方々がおられます。その方々なら、今回の帝国パルジャノの内情について知っていることも多いでしょう。黒巫女セイラムがどういった人物なのかも、はっきりすると思います」

「だが黒巫女セイラムが君の言うように重商派だと分かったとして、どうなるんだ?」

「重商派には重商派ならではの戦い方があることをご存じないですか?」

 重商派の戦い方?

帝国パルジャノで主流の強硬派の戦い方は明確です。騎馬を走らせ、国々を襲う。迅速な行軍力と鍛え抜かれた戦士たちは多くの人々を震え上がらせています。それに対し重商派の戦いは一見すると分かりにくい。兵糧攻め、謀略、買収。もちろん彼らも最終的には騎馬の力に頼りますが、戦い以前の下準備により時間を掛けます」

黒巫女セイラムの言う『見えない戦い』も、重商派の下準備ってわけか」

「まだ可能性でしかありませんが、そう考えておく方が良いと思っています。確か今回の戦いのそもそものきっかけになったウルバンという人物は、強硬派に召し抱えられていたんですよね?」

「ああ。クルーズたちの話では、そういうことだった」

「バーレンの防衛戦では我が軍にも多くの犠牲者が出ましたが、彼らも少なからず被害を出しました。このことで強硬派は帝国パルジャノ内での主導権を失ったのではないかと私は考えています。少なくとも、この戦いにおいては」

「それで重商派の黒巫女セイラムが出てきたと?」

「ええ。黒巫女セイラムが重商派なら、様々な手段で我が軍の弱体化を狙うのではないでしょうか」

「弱体化か。そういえば俺たちもバーレン防衛戦のとき、まず帝国パルジャノの兵站部隊を狙ったな」

「そうでしたね。戦いでは常套手段ですし」

「重商派は、そういうのを戦う前から仕掛けてくるってことか」

 そして、軍の兵站は預かり屋に依存している……。

「なるほど。曹長が預かり屋を使ってどんなことをしているのか、確かめておく必要がありそうだ」

「王都に行けば、他にも調べられることがあります。例えば過去の軍の支出とか」

 支出?

「前々から不思議に思っていたのですが、この北部方面大隊は色々な面で恵まれています。いえ、恵まれ過ぎています」

「そうなのか? そうは思えないが……」

「本来、軍はそれほど裕福なものではありません。平時には掛けられる予算も限られていますから、食料や装備などは、必要最小限しか支給されないはずです。また、このところの王都は近衛騎士団の増強に力を入れていました。その分、各方面の大隊への支給は年々削られています」

 確かに、それは士官学校でも習う話だ。

「それが北部方面大隊ではどうでしょう? バーレンに司令部があるからかもしれませんが、大砲などの火器が充実している上、食料も不足していません。他の大隊では傭兵をめったに見かけませんが、ここでは数百人規模の部隊を雇っています。しかも相場の倍の給金で。いったい、そういったお金はどこから得ているのでしょうね?」

「それは……曹長がやりくりしてくれているんじゃないか? 預かり屋をうまく使って」

「その可能性もありますね。ですが、もう一つの可能性も考えておくべきと思います」

 二等兵は小さく息を吸ったあと、続けた。

「曹長は何らかの手段で資金を得ているのではないでしょうか。例えば……帝国パルジャノの重商派から」


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