バレンタインは実行中
四話目です。
この後にたぶん後日談が入ると思います!
「ごめん、待った?」
俺が待ち合わせ場所に行くと良はすでに来ていた。
横なのだから一緒に行けばいいと言ったのだか、それっぽくしたほうがいいだろうと言う良の心使いで待ち合わせと言うことになった。
「うんうん、今来た所」
良が待ち合わせの時のお決まりの言葉を言う。
「本当は待っただろう?」
「まあね、ちょっとだけ」
いつもきている男用の服ではなく、ちゃんとした女物の服だ。
「遊びに行くのに男同士って言うんじゃ変だろう?」
ある一部の人間には目の保養になるくらいの容姿はあると自負しているんだが。
「じゃあ、行くか」
良がにっこり笑って言うと俺は手をとった。
良は一瞬びっくりした顔をしたけれど、すぐに笑顔になってくれた。
きっと、気を使ってくれているのだ。
良にとってはこれが『最期』のつもりなのだ。
休日の動物園は親子連れが多かった。
動物の好きな良は走ってまずふれあいコーナに行った。
「可愛い……ふかふかしてる!」
「そうですか、それは良かった」
ウサギと触れ合っている良を遠めで見る。
俺は動物があまり好きではないのだ。
それでも動物園を選んだのは、やっぱり好きな人に楽しんでもらいたいからで。
その辺も少し汲んでくれたら本望だ。
「ほら、烙杜も来てみろよ! 可愛いぞ!」
いつもは落ち着いていて、大人っぽく見える良も、動物と触れ合うと無邪気な笑顔を見せる。
それが見たかったと言うのも動物園を選んだ理由の一つだ。
散々動物と触れ合って、次に訪れたのはパンダの森。
なんでも最近新しい赤ちゃんが生まれたそうで、人でにぎわっている。
顔のいい俺達は人にはばかられることなく、先頭まで来た。
「知っているか? パンだの毛って意外とごわごわしているらしいぞ!」
楽しそうで良かった。
それからもサルやらチンパンジーやらキリンやらといろいろな動物を見て回っていたらいつの間にか日が西に傾いていた。
「さて、そろそろ帰るか。何かごめんな、オレばっかり楽しんじゃって」
テレながらほほをかいて、良はゲートに向かう。
俺は、その手をとった。
「え?」
「良は、俺に諦めろって言ったけど、俺はどんなに頑張っても良のこと諦めきれないから。だから、もう一回言う」
大きく息を吸って良を見つめる。
「好きだ、良」
良は手を振り払うなんて事しなかった。
でも、その目には確かに拒絶の色が浮かんでいる。
「何度も行ったはずだ。お前のことはお隣さん、もしくは弟みたいものにしか見れない。だから、無理だ」
想定内の答えだ。
きっと、そう答えると思っていた。
「それはもう十分分かった。でも、これから努力するのは俺の自由だろう?」
「はぁ?」
「これから俺は良に猛アタックする。弟なんていわせないくらいに!」
良はあっけにとられて何も言えないようだ。
「覚悟しとけよ!」
俺が大見得を切ってそう言うと、良は我慢ならないといった感じで笑い出した。
俺もそこで笑った。
動物園の中で、大笑いする俺たちを見た人はさぞ滑稽に思っただろう。
でも、良が笑ってくれたから、俺はそれでいいのだ。
「あっ! 忘れてた。今日のメイン」
良はバックに手を突っ込んで包みを取り出した。
「はい、チョコ。恥ずかしいから、家で開けろよ!」
帰宅した後、その包みを開けた俺は……
「もっと頑張らなきゃな!」
と決心を新たにしていた。
『ずっと元気に過ごすこと!』
まるで、家族に渡すのかと突っ込みに行ってやろうとも思ったが、やめておいた。
そんなことを言ったらきっと、
「お前は弟みたいな奴だから」
って返されるに決まっている。
だから、その突っ込みは、俺が彼氏になるその日まで、
大事に捕っておくのだ。




