第五回:雲の気配
行動力のあるヤツだな〜、と、彰に感心していた。
今は学校の帰り道。
時間的にきわどい夕方。
車の通る気配がまったくない通り。
・・・・・・・・・・・・。
そして、俺は沈黙。
またの名を黙秘。
それはどうでもいい。
いつもより帰る人数が、約一名多い。
俺と彰。
プラス一名。
計三人。
楽な計算だ。
小学生、いや、幼稚園児でもできる計算だ。
ソイツは先程からやかましい。
うるさすぎる。
「・・・ね〜、聞いてんの!?」
そう声を張りあげてきたのはセユトだ。
「聞いてない」
「聞いてんじゃないのよ!」
何故にコイツが此処に居るのか?
それに答えるには、今日の昼休みのことを話さなければならない。
面倒臭いが、まあいいだろう。
昼休み。
社会科準備室。
いつものように、三人(沙希、セユト、彰)で優雅でもない昼食を取っていた。
彰は豪華な笠間さんの手作り弁当。
俺とセユトは、購買で買った質素なパン。
三人は狭苦しい教室に、輪になってたむろっていた。
「彰、それおいしそうね。ちょっとちょうだい」
くれと言いながらすでに食っている。
それは盗っているのと同じだ。
彰は彰で、盗られることを前提に多く持ってきている。
何事もなかったように、平気な顔をしているし。
彰? お前はそれでいいのか・・・?
「ん〜、さすがにおいしいわ。やっぱり違うわね〜」
そのちがいが判るかはさて置き、食いもんが足りない。
金がないといって、さすがにパン一個では足りなさすぎる。
「そういえば、樋澄さん。この前の話の件はどうしますか?」
弁当箱自体がセユトに盗られ、手にはなにも持っていない彰がセユトに訊いた。
「え? この前? ・・・・・・あぁ〜、あれね」
弁当を食っているというより、かき込んでいるといったほうが的確なような食いっぷりだ。
あれって、何だ?
あれじゃ解らんぞ。
そして、口の横にご飯粒をつけたままセユトが言った。
「うん、行くよ。料理がおいしいし」
「そうですか。では、荷物はどうしましょうか?」
「大丈夫。持ってきてあるから」
「はぁ・・・、準備のいいことで・・・」
「・・・・・・」
さっきから勝手に話をしているが、俺にはまったく解らん。
なんか二人だけで解ってるし。
話だけ聞いていると、何かヤバ気な気配がする。
それは俺に関係あることなのか?
そうなのか?
関係なければべつにいいが・・・。
つーか、関係ないほうがいいような・・・。
「はー、ごちそうさま!」
セユトはそう言って、彰の弁当をたいらげてしまった。
満腹感に浸っているその顔は、とても幸せそうだ。
まだ、ご飯粒が口の横についている。
俺の見ている限りでは、彰は一口しか食べてないが・・・。
コイツに全部食われてよかったのか?
絶対に俺より食っている量が少ない。
そう思い、彰に言ってやった。
「彰、俺の見ているかぎりでは一口しか食ってないが、それでもつのか?」
彰は沙希と数秒間目をあわせると、横に置いてあったバッグをあさり始めた。
すると、何やら四角柱みたいな物体が出てきたが、俺の目がおかしくなければ、それはまがいもない笠間さんの手作り弁当ではないか。
その弁当の包みをほどき、俺に見せて微笑した。
「大丈夫ですよ。もう一つありますから」
心配した俺がバカだった。
あるじゃないか。
もう一つ。
笠間さんは苦労してるんだろうな。
二つも弁当作って・・・。
・・・二つ・・・・・・?
「沙希さん、先程樋澄さんが食べていたのが沙希さんのお弁当ですよ。朝渡しそびれてしまいまして」
「ふぅ〜ん・・・」
そうか・・・。
渡しそびれたのか・・・。
俺、お前と同じ時間に一緒に登校したよな?
あれは、何?
渡す時間いっぱいあったじゃん。
・・・ブチッ!
そして、俺の中で何かがキレた。
音を立てて。
音というより、轟音だな。
すさまじいほどの・・・。
すかさず沙希は彰から弁当を奪い取る。
玉子焼きを摑もうとしていた箸がスカッた。
「あっ! 何するんですか!? それ、ボクのお弁当ですよ!」
何を言っても無駄だった。
すでに食っている。
箸を使わず、おかまいなしに手でかき込んでいる。
セユトより豪快な食べ方だ。
「あぁ〜、ボクのお弁当が・・・」
見る間になくなっていく弁当。
・・・・・・・・・・・・。
「ふぅ〜・・・」
完食した。
きっと、早食い選手権に出ていれば最速のタイムをたたき出していたであろう早さだ。
満腹になり、頭にも余裕が出てきた。
沙希はさっきの話のことが気になり、まだ弁当のことを愚痴っている彰ではなく、安堵の表情を浮かべているセユトに訊いた。
「な〜、さっきの話を聞いていると、どこかへ行くみたいだが・・・何処に行くんだ?」
「・・・え、あんた聞いてないの?」
少し驚いたようにして聞き返してきた。
「あ、あぁ・・・」
解るわけがない沙希は、そう答えるしかなかった。
聞いた覚えなんかないぞ。
「彰、あんたちゃんと言っときなさいよね」
溜息混じりに言った。
彰はまだ弁当のことで何か愚痴っている。
「・・・で? 何処に行くんだ?」
「ん〜とね。・・・彰の家」
微笑しながら言った。
・・・・・・・・・・・・。
何・・・?
・・・あ・・・き・・・ら・・・の・・・い・・・え・・・?
ほ〜、変わった地名のとこに行くんだな〜。
そうか・・・あきらのいえか・・・。
どこかの山荘みたいなネーミングだな〜。
あきらの・・・家。
あきら・・・。
彰の・・・・・・家?
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
そっか〜、彰の家か〜。
冷静に考えてみる。
・・・・・・・・・・・・。
コイツ・・・行動力のあるヤツだな〜。と、正直思った。
沙希は彰に近寄り、耳打ちをした。
「おい」
「う〜、ボクのお弁当・・・」
未だ弁当のことでしょげている様子で、沙希の話を聞こうとしない。
こういうときは・・・。
―――ゴンッ!
殴った。
グーで。
後頭部を。
殴ったこっちが痛いくらいに。
「な、何するんですか!?」
涙を目に浮かべ、殴られた後頭部を押さえながら言ってきた。
「まあ、俺の話を聞け」
セユトに聞こえないくらいの声で耳打ちする。
はぁ・・・、と彰はボケ顔だ。
「彰、お前そんな大事なことは早く言え」
と、軽く頭にもう一発。
「・・・・・・っ?」
ほぼ無反応。
「じゃあ、俺はさっさと自分の家に帰ったほうがいいな。おじゃまそうだし・・・」
「え? 何言ってるんですか、沙希さんは・・・? あなたが居ないと意味が・・・・・・」
と、そこで彰の言葉が遮られた。
「ね〜、何話してんの?」
セユトがのぞき込むようにして、会話に無理矢理入り込んできた。
俺と彰に視線を交互に向けている。
答える気のなさそうな彰に代わりに、沙希が適当にごまかしてみせた。
「あぁ、え〜と、その〜・・・」
言い出そうとしたはいいが、急に何の話かごまかせる言葉が出てこない。
まずい・・・。
非常にピンチだ。
危険だ。
・・・・・・。
危険・・・?
それはちょっとちがうかな。
結局何も思いつかず、救いの視線を彰に向ける。
すると・・・・・・、
「え〜と、今度の四連休中に、ボクの別荘に行こうという話しをしていたんですよ」
少し焦り気味に言った。
とりあえず・・・、
ナイス!
ナイスだ!
ナイスごまかし。
いや〜、命拾いしたな〜。
「えっ!? マジッ!? ホントッ!?」
目を眩しいくらいに輝かせ、遊園地に連れていってくれると親に言われた子供みたいにはしゃいでいる。
そんなにうれしいのか?
つーか、それはごまかしのネタだ。
本当に行くわけがない。
それに、いつお前を連れて行ってやると言った?
そこんとこもあとで考えとかんとな。
「はい。もちろん樋澄さんもメンバーに入っていますよ」
俺は自分の耳がいかれているんじゃないかと疑った。
が、正常のようだ。
しっかり聞こえる。
雑音は確認されない。
と、いうことは・・・。
―――ゴンッ!
本日二度目の後頭部の強打をした彰は、先程と同様に涙目で殴られた箇所を押さえながら言った。
「な、何するんですか!?」
録画したものを再生したみたいに、まったく同じリアクションをとった。
芸のないヤツだ。
と、こんな感じだ。
三人で帰っている理由だ。
沙希は騒いでいるセユトをよそに、苦悶の表情浮かべていた。




