タイム×成功?
「位置についてー」この緊張感とスリル、誰にも譲れない。隣の奴の息づかいとか、応援とか、全てひっくるめてこの雰囲気が好きだ。
「用意ドン」
「ざっくん、どうやった?」夕食時、久しぶりに会ったような感じで隼都が柘榴に話しかけた。
「まずまずかな」最高タイムとまではいかなくても、このレーンではもちろんダントツだし、タイムも良かった。口に出して喜ぶとはせずとも、嬉しさが漏れ出ている。
「まぁ柘榴は心配せずともAグループだろうけどね」心ここにあらずといったように目が虚ろになりながらぼそっと呟く我心。そうとう顧問の奴隷……いや手伝いが大変だったらしい。
「明日にならねーと分かんねーよ。それより我心大丈夫か?」
「喋る気力もない」これは重症だとでもいうように、柘榴と隼都は顔を見合わせた。
「普通に参加すればえかったんやないの?」
「やだ。そしたら確実に陸上部入んないといけないじゃん」
「そんな野球したいんか?」
「別に。野球って青春っぽいじゃん?」
「そんな理由!?そんな青春取り戻そう思わんでも陸上入ったって気持ち次第で青春できるやろ。まず最初に髪型それでええのか?前の学校ではそれでえかったかもしれへんけど、この学校では坊主にせんとあかんやろ」肩につくかつかないかの綺麗なストレートを指でいじる我心を見る。
「陸上部もやりたいっていえばやりたいけどね」
「は?どういう意味なん?」
「馬鹿。気づけよ隼都。青春があるかないかくらいで部活決めるような奴じゃねーよ我心は。我心も我心で本当の理由言っちまえよ。異力によるブランク…いくらなんでも陸上界の奴らは不思議がるぜ」そうか!と隼都が納得する。隼都は我心と柘榴が異力持っていたことを知っている。柘榴が隼都を傷つけたあと正直に話したのだった。
「そんなこと…」
「図星だろ。本当は陸上も野球もやりたいって顔に書いてあるぜ」
「ホンマや。気づかんてアホやな俺も」隼都が自分の頭を小突く。それを見ながら、柘榴は苦笑いのような困ったような曖昧な表情を浮かべて我心の肩に手を置いた。
「……別にそんな心配しなくてもいいんじゃね?お前最近我慢ばっかじゃん。今までの経験上、失敗とかしたことないからこそ普通の人より心配とかするだろうけど」
「そういうあんたが俺の心配してるじゃん」差し出された水を飲む。
「ざっくんは昔から心配しすぎな実はびびりやもんな~」らしくない柘榴の調子を取り戻したいのか、隼都は持ち前のおどけを披露。
「うるせーよ」柘榴が隼都の脇腹を小突く。それから3人で他愛ない話に爆笑しながら1日目の合宿の夜は更けていった。