陸上×連行
「てなわけで、お前陸上部決定な」
「は?」
部活見学1日目の我心に押し寄せる理不尽な現実。
「ここの中学入ったんなら必然的に陸上だろー」
「だから入らないって……」
「とりあえずもう合宿登録メンバーに入れといたからな。ここの学校はスゲーぞー。なんたって県レベルしか来れないような合宿で、全員来れるんだからなー。ま、流石に地域ベスト16はないといけねーが。お前はクリアしてるんだしな?」 そしてニヤニヤと笑う陸上顧問。我心の話には聞く耳を持たずというところだろう。
「その合宿行かなかったら?」
「そん時は、キャンセル料と俺への説明料金、俺への謝罪料金、俺の思考料……」
「それ、自分の都合代じゃん」
「見学だけでも行けばいいんじゃね?」そこに柘榴が通りかかってそう言った。
やれやれとでも言うようにため息をついた我心はようやくその首を縦にふった。
「柘榴までそう言う?」
「じゃ、これ入部届けなー」顧問から差し出された入部届けを見てまたため息をつく。
「いえ、合宿の見学ってだけで入部はしませんから」そう言ったにも関わらず、顧問は
「考えとけよー」と去って行った。どうやらこの顧問の耳には“入部しない”が“考えとく”に変換されるらしい。もともと入らないという選択肢は無いのだ。
「おい桐生ー。お前よくやったなー。宮城に合宿行かせるってだけでも相当な手柄だぞ」
「いや先生、我心はお前より頑固だから合宿行かせたところで入部しねーだろ。っていうか先生に助け船出すために、我心に行くように勧めたわけじゃないんで。これで終わらせればって思いで言っただけだから、あまり自惚れんなよ」と、心で言ってみるものの、声に出しては言わなかった。その代わりに、
「そんなつもりないっす。見学させるだけなんで」と、 ついて出た言葉は無難な回答でしかなかった。