転入生×陸上
秒速100mの続編のため、一部、それを読まなければ分からない表現が入ってます。
朝のチャイムが鳴り、皆席に着く。ホームルームを始めなければいけない時間なのに担任がいない。5分後にようやく扉が開く。
「遅れて悪いな」と言いながら、急いだ風もなくのんびりと教卓の前に立つ。
「と言っても、訳があってな」そして話すのを止め、皆の顔を見渡す。
「今日からこのクラスに仲間が一人増える。転入生、入ってこーい」そう言われて入ってきた人物にクラスの誰もが息をのんだ。誰もが惹かれる瞳、整った顔立ち、肩につくかつかないかの髪をした……紛れもなく我心、その人だったのである。
「我心!?」思わず声を上げてしまう柘榴。驚きで危うく席から立ち上がるところだった。
「そういえば桐生は試合とかで知ってんだな。ここにいんのは宮城我心だ。まぁ、仲良くしてやってくれや。ほら、突っ立ってないで自己紹介ー」
「宮城我心」その他何も言わない我心を見て、担任が呆れたような目を向ける。
「……それだけ?他にも言うことあるだろー。入りたい部活とか。別に実績言っちゃってもいいしー」ほらほらと我心をつつく。担任は陸上部の顧問をしているが、我心のように陸上界で名が広まっている有望選手が転入してくれたことを喜んでいるようだ。
「はぁ。入りたい部活っていうか、入る部活は……野球部」
「ちょっと待ったー!!」さっきまでにこにこしていた担任が声を裏返してツッコミを入れる。やっぱそうなるよなと、ため息をつく柘榴。
「お前陸上だろ!? 」普段声を上げない担任の様子に皆驚いた。
「中学の時も野球部だったけど。試合だけ出してもらってただけで」相変わらず、教師へのため口は直っていない。
「は?」
「俺のなにを知ってるわけ?」担任に上から目線で話す我心。誰もが嫌な奴だと認識するような態度をとっても我心の美貌はそれをカバーする。
「とりあえずお前陸上見学な。桐生、コイツ連れてこいよ!」美形の我心とクラス全員にだらしないことで有名な自分の立場に苛立っているのか、矛先を向けられた我心と柘榴。は?という目を担任に向けるが相手は目を合わせる気も無いらしい。
「とりあえず窓際座れー」 こうしてホームルームは終了した。
休み時間が終わったと同時に柘榴は我心のもとに駆け寄る。
「俺、お前が転入してくるなんて聞いてねーぞ」
「だってメアド知らないし」そういえばそうだったと柘榴が思い出す。柘榴は我心のメアドを知っているが、メールする理由もなかったため、ずっと教えていなかったのだ。
「ま、そんなことはどうでもいいけど何で転入したんだよ?」
「別に。異力無くしたから、周りを避ける必要もなくなったっしょ?流石に中学生なんだから、友達とかいた方が楽しそうだし。だからと言って、いきなり周りの人に態度変えると変に思われるから転入しただけのこと」この説明で柘榴も納得した。異力というのは人に触れると害を及ぼしてしまうというもの。そのために、我心は人と関わらないで生きてきた。しかし今はその必要もなくなったのだ、柘榴のおかげで。
「宮城っ!!元気だったかぁ?」そう言いながら飛び込んできたのは隼都だった。
「名前なんだっけ……?」
「隼都や!!小東隼都。なんや俺だけ覚えてたみたいでめっちゃ恥ずかしいやん」その言葉に苦笑いで返す二人。
「それより周り見てみいな」隼都が警戒するようなポーズをとる。皆の視線が柘榴たちに向けられていた。特に女子の視線が。
「やっぱカッコイイよ」
「イケメンって表すには勿体ないな。美形すぎて」
「それにしても桐生君と並ぶと絵になるよねぇ」
「いや……目付き怖くない?でも二人とも足速いらしいじゃん。そういう意味では格好いい」そんな会話をしている。もちろん小声で話しているため、柘榴たちには聞こえていない。
「見せ物にされてるみたいで悪い気分しかしねーな」
「こんなもんじゃない?だいたい転入生って噂されやすいし。良い意味か悪い意味か知らないけど」
「良い意味に決まってるやろ。女子皆釘付けやで。お前、友達作りきたんとちゃうの?男子に敵に回されへんように頑張り」意味が分からないという風に首を傾ける我心。
「そういえば我心の学校男子校だったんだよな」
「あの時は別の意味で敵に回されてた」
「違うだろ。回してたんだろ」
そんな他愛ない話をしているうちに一時間目を知らせるチャイムが時をつげたーーー
ついに柘榴の高校に、我心が転入してきました!!我心の通っていた中学校は私立の男子校という設定です。ちなみに一巻でも出た通り、柘榴の中学校は陸上で有名な公立中学校。これからどんな中学生活を歩んでいくのか…
あとがきまでお読みいただき、本当にありがとうございました。




