冬×合宿
季節はめっきり寒い冬。今年の冬は例年より寒いらしいが、この土地は雪に縁がないらしい。
「ざっくん!!朝練行くでぇ」そう声をかけてきたのは同じみ小東隼都。関西弁で人に勝手にあだ名をつけるのが特徴。俺の本名は桐生柘榴なのだが。俺も隼都も陸上部で主に短距離を専門にしてる。陸上は楽しい。ただ単純に走るだけのスポーツのはずなのにタイムが伸びたときのスカッとした気持ちはなんなんだろう。
「まだ準備終えてねーんだけど?」そう言いながらシューズを出して我先にグラウンドに走り出す。
「ちょ……待てぇ。ざっくん!!」慌てて隼都も追いかけるが到底追いつく筈がない。何故かというと柘榴はショートランナーとして東部大会を優勝するほどの実力者だからだ。もちろん柘榴の方が先に着いたが、そのときにはすでに部員全員が集まっていた。隼都が着くと同時に三十歳中盤のおっさん、ではなく顧問兼担任が話し始める。
「こんな季節であり得ない話なんだがー、合宿することに決まったー」生ぬるいようないちいち気が抜けるような話し方でも今回のビッグニュースには皆、驚きを隠せないでいた。
「せんせー!何でいきなり!?」
「何処に行くんですか?」
「いつっすか!?」予想通りの質問の殺到に、顧問は面倒くさそうに対応する。
「行くところはなー山だ。寒いから気をつけろよー。日程は26から29日。クリスマスとか正月でうかれたい気持ちも分からないでもないが大概にしとけー。三泊四日なんだからみっちりしごかれて来いよー」ざっくりとした説明を他人ごとのように話す。
「私クリスマスのあとは従姉妹のところに泊まる予定だったのに……」
「部員全員で泊まる方が楽しいだろ」
「正月前は忙しくて大変です」
「そうか、お前の兄ちゃんに全て任せられる口実ができたな」
「宿題が……」
「合宿も一つの宿題だ」屁理屈を並べる良い大人に部員の不満な表情は明らかだった。
「何でこんな時期なんや……なぁざっくん?」そう言って柘榴の顔を見たが、柘榴は目を輝かせながら“合宿”という言葉を繰り返していた。
「そういえばざっくんはこーゆーの好きやったね……」一人ため息をつく。
「だって冬に合宿だぜ?」凄いだろうと言わんばかりなものだから適当に隼都もうなずいた。
「ってなわけで用事がある奴は早く俺のとこに報告来いよー」この話だけで朝練の時間は丸々潰れたのだった。
第二巻の御愛読ありがとうございます。とりあえず冬休みに合宿することに決まった柘榴と隼都。
これからどうなるのでしょうか?