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亡者逃走中 in 現世  作者: 安達夷三郎
第二章、入学早々目立っちゃってます
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五話

「キャー、楓くん頑張って〜!」


「きゃあぁぁ!今のシュート見た!?ヤバくない!?」


体育の時間。黄色い歓声が響き渡るグラウンド。


今、目の前では男子のサッカーが行われているんだけど、変成くんはどのチームよりも目立って輝いていた。


さっきから一人だけ次元の違うスピードで見事なパス回しを披露し、面白いようにシュートを決めていた。それを見た女子達は文字通り大興奮。


なんでも噂によると、入学してまだ数週間しか経っていないのに、既に非公式のファンクラブまで設立されているんだとか。


現世の女子中学生の行動力、恐るべし。


「あらまぁ、すごい人気だと。真宵の幼馴染くん」


コートの隅で一緒に見学していた菅原(すがわら)美穂(みほ)ちゃんが、感心したように呟く。


彼女は、入学して初めてできた友達なんだ。席が前後というだけあって、すぐに仲良くなったんだ。


美穂ちゃんは一房だけ赤いリボンを付けているボブがよく似合う可愛い女の子。


裏表のない性格の美穂ちゃんは私にとって頼れる姉のような存在であり、お互いに悩みを相談し合える唯一の友達。


「真宵ってさ、楓くんと幼馴染なんでしょ?」


美穂ちゃんが、グラウンドを軽快に駆け抜けていく変成くんを目で追いながら、小声で内緒話をするように聞いてきた。


「う、うん。小さい頃からずっと一緒で……」


「へぇ〜良いなぁ。あんなイケメンで運動神経も良くて、優しい幼馴染とか少女漫画じゃん」


「そ、そんなことないよ!?楓くん、優しいどころか怖い時もあるし……腹黒サイコパスだよ」


「あははっ、仲良しなんだね!」


美穂ちゃんは、私の必死の告発をただの『幼馴染の照れ隠し』と受け取ったらしく、楽しそうに笑って私の肩をポンと軽く叩いた。


「楓くんはやっぱり真宵の可愛さにやられたか」


「まさか!」


「いや〜有り得るかもよ?だって、中学生って小さい時みたいに好きな子のいじわるしちゃう年頃じゃん?それに、真宵って女の私から見ても可愛いし」


「え、ありがとう」


不意打ちで褒められて、顔がカッと熱くなる。


美穂ちゃんはくすくすと笑いながら、地面に体育座りをして膝を抱えた。


「はぁー、それにしても暇だよね。女子も男子みたいにサッカーとかやれば良いのに」


今日の体育、男子はサッカーで女子はハードル走のみで、自分の出番以外は見学でやることないし、確かに暇なんだ。


そんな風にあれこれ考えていたら、ふと何処かから大声が上がって―――


「そこ、危ないっ!」


次の瞬間、勢いよくサッカーボールがこちらに向かってくるのが見えた。


「え!?」


咄嗟のことに脳の処理が追いつかず、短い悲鳴のような声を上げるのが精一杯だった。


すると、どこからか変成くんが走ってきて私を庇うようにギュッと抱きしめる。


―――ドンッ!


飛んできたボールは勢いよく彼に当たったので、ヒヤッとしてしまった。


「キャー、楓くん!!」


それを見た女子達も大騒ぎ。


「真宵、大丈夫?」


だけど私はそれ以上に、変成くんの方が心配だった。少し地面にかすったのか、膝を怪我している。


「楓くんも大丈夫?」


「大丈夫だけど」


胡散臭い笑みで笑う彼はどうやら平気みたいだけど……申し訳ない。


だって、絶対痛かったよね?今の。


すると、その様子を見ていた女子達が口々に騒ぎ出す。


「良いな〜白崎さん」


「羨ましい、私にもボールが当たれば良かったのに」


「はぁ、私も楓くんに守ってもらいたーい!」


さらには隣にいた美穂ちゃんも何故かニヤニヤしていて。


一気にみんなから注目される羽目(はめ)になってしまったので、なんだかちょっと恥ずかしかった。


✳✳✳


―――ガラガラッ。


体育の授業が終わり、私は意を決して保健室のドアを開けた。


室内はしんと静まり返っていて、先生の姿はない。出張か何かで不在なのだろう。


部屋の奥のソファに、ポツンと変成くんが一人で座っていた。


「あ、変成くん」


私が声をかけると、彼はすぐさまこちらを振り向き、驚いたように目を見開く。


「秦、なんでここにいるの」


「だって、ケガしてたから心配で……」


余計なお世話かもしれないけれど、いつも助けてもらっているのもあるから、なんだか放っておけなくて。


変成くんはなんとも言えない表情をしてから、ふっと息を吐いた。


「ボールが当たったことくらい大丈夫。十王はそんな簡単に死なないよ」


「そうだけど……」


「まぁ、良いや」


十王は不死身に近い存在だが、肉体的な痛覚はある。人間と同じように怪我をすれば血も出るし傷口は痛い。


私はサッと彼の傍に駆け寄ると、棚から消毒液とコットンを取り出した。


「あ、消毒、私がやるよ」


「いや、いいよ」


「いつも助けてもらっているから、これくらいさせて」


「…………」


私が少し強めに言い返すと、変成くんはそれ以上拒否することなく、大人しく破れた体操服の裾をめくって傷口を見せてくれた。


コットンに消毒液をつけて、傷口を丁寧に消毒する。


「……痛い?」


「いや、別に」


絆創膏を箱から取り出し、ペタッと丁寧に傷口へ貼り付ける。


消毒している時、体育の時もそうだけど絶対我慢していたよね。


「よし、これで終わり!綺麗に貼れたよ」


変成くんは膝に貼られた絆創膏をじーっと見つめ、ぽつりと呟いた。


「……ありがと」


あまりにも素直な言葉に、私は驚いて目を見開いてしまった。いつもなら「下手くそ」とか「余計なお世話」とか意地悪を言ってくるはずなのに。


「あ、そうだ。取れるとダメだから、念のために包帯も巻いておく?」


ふと思いついて提案すると、彼は綺麗に整った眉をひそめた。


「包帯とか大げさでしょ」


「さっき、ちょうど良いのを見つけたんだよ。巻くだけでピタッとくっつく包帯だよ!すごいね、すごいね!現世ってすごい物がいっぱいだよね!!」


「ねぇ、人の話聞いてる?」


私は彼の返事も待たずに、先ほど見つけた包帯を急いで取りに行き、また変成くんの座るソファへと戻った。


しゃがみ込んで包帯の準備をする私を、変成くんは呆れ顔で見下ろしている。


「全く……頭の悪いバカしかいなくて俺は頭が痛いよ」


「変成くんは頭良いよ!あ、知ってる?現世って壺を買えば幸運を呼び寄せることもできるらしいよ」


「……アンタはもう少し自分に目ぇ向けとけ。あと、詐欺には気をつけてね」


変成くんは半目で私を見つめて呟いた。

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