09 初めての実戦
声の聞こえる方向へボクとダリアは忍び足で向かう。
そして、木の陰から顔を覗かせて見ると、小さな水溜まりの周りに四つの小さな人影があった。
その背は大人の腰くらいまでしかないほど小さい。髪の毛のないハゲた頭。その額には小さな一本のツノ。体にそぐわないほど大きな尖った耳。その鼻はまるで鷲の嘴のように大きく張り出している。青緑色の肌を隠すのは腰に巻いた襤褸切れしかない。しかし、その手には各々が棍棒を持っている。
間違いない。ゴブリンだ。
ゴクリッと生唾を飲む音が隣から聞こえた。
ダリアは街の外に出たことがないと言っていたっけ。たぶん、ゴブリンを見るのもこれが初めてだろう。
ボクはダリアの肩を軽く叩くと、彼女の体が大きくビクッと跳ねた。
「これからゴブリンを釣るよ」
「どうやって釣るの?」
「まず、適当に落ちてる石を探す」
ボクは小石を掴むと、そのまま腕を振り上げる。
「そして、投げる!」
「えっ!?」
ダリアの驚くような声と一緒に投げられた小石は、見事にゴブリンの頭へと命中した。
ゴブリンたちの視線が一斉にこちらを向いた。
「さあ、逃げるよ!」
「えっ!? ええっ!?」
予想と違ったのか、ダリアは困惑しているようだった。でも、ボクは手を取ると、一緒に駆け出してくれる。
「もっとスマートな方法かと思ってた!」
「釣りにスマートもなにもないよ。ゴブリンを連れてくるのが仕事だからね!」
「でも! でも!」
そんな言い合いをしながら、ダリアと一緒に森の中を駆ける。
「ダリア、ゴブリンは何匹いた?」
「え? 五匹くらい?」
「正解は四匹だよ。釣る前にゴブリンが何匹いるのか、オークの姿はないか、ゴブリンメイジやゴブリンアーチャーの姿はあるかどうかも確認しておくといいよ。そしたらスムーズに狙えるからね」
そして、ついに仲間が待つキャンプ地に到着した。駆けてきたボクたちを見て、クレトとアベルが武器を構えた。
「ゴブリンが四匹! すぐに来るよ!」
そう言い終わると、ボクとダリアは前線を離れてセシリアの下に急ぐ。
「釣ったら、パーティのみんなに何のモンスターをどれだけ連れてきたのか報告するんだ。これで釣りのお仕事は終わりだよ。この次はアーチャーとしての仕事だね」
「なるほど……」
「ほら、弓を構えて。ゴブリンが来ちゃうよ」
「あわわ」
慌てて弓を構えるダリア。慣れてない手付きを見ると、なんだか不安を感じると共にほっこりするものを感じた。
「二人とも無事に戻ってきて安心しました」
「ありがとう、セシリア」
「ペペさんもダリアのフォローありがとうございます」
「いいんだ。少しでも役に立ちたいだけだから」
セシリアとそうこう話しているうちにビィンと風切り音が響き渡る。
ダリアの弓だ。前線を見れば、額に矢を受けたゴブリンが倒れるところだった。
先ほどのわたわたした様子からは想像もできないほど鋭い一射だ。
ゴクリと知らず知らずのうちに喉が鳴る。
ダリアのギフトは【弓聖】だと知ってはいたけど、まさか初めての実戦の一射目で当てるとは……。改めてギフトの力の大きさを知った思いだ。
そして、同時に悲しくなる。
どうしてボクのギフトは【時空魔法】なのだろう。マジックバッグの下位互換のようなギフトではなく、ボクももっと戦えるギフトが欲しかった。
そんなことを考えていると、またビィンと鳴る弓の弦の音で現実に戻された。
「うらああああああああああああああああああ!」
「ぐっ!?」
今、目の前ではアベルがクレトが命を懸けてゴブリンと戦っている。そんな彼らが無性に眩しく見えた。
いつの間にか残っているゴブリンはあと二体だけになっている。二体のゴブリンはもうすでにダリアによって射殺された後だった。
「このやろおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
アベルが大剣をゴブリンに振り下ろす。
しかし、ゴブリンは意外と俊敏だ。サッとサイドステップを踏んで避けると、カウンターのように棍棒を振り上げる。
しかし、ゴブリンの棍棒はアベルの革鎧に阻まれて致命打を与えられない。
そのことをアベルも知っていたのだろう。振り下ろしたはずの大剣が地面に着くスレスレで跳ね上がる。
「おらああああああああああああああああああああ!」
大剣の一撃は見事ゴブリンの片足を捉えた。
そして、動けなくなったゴブリンに大剣を無造作に振り下ろす。地面に青いゴブリンの血の華が咲いた。
これで、残りのゴブリンはあと一匹。
クレトの方に視線を移すと、彼は突きでゴブリンの胸を貫いたところだった。ゴブリンの体には切り傷がいくつか刻まれているが、クレトに怪我はなさそうだ。
堅実に地力でゴブリンを上回った形だろう。
ダリアもそうだったけど、アベルもクレトも実戦は初めてだが、今までちゃんと自分たちを鍛えていたらしい。もっと手こずるかもしれないと思っていたので、嬉しい誤算だ。
さて、今度はボクの仕事の番だな。
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