17 夜の森
冒険者ギルドの前。
連れだって大通りを歩いて行くセシリアとダリアを手を振って見送る。
セシリアはダリアの家に居候しているので、帰り道は同じらしい。ボクもダリアの家まで二人を見送ろうかとも考えたけど、今回はやめておいた。
ボクに残された時間は少ない。
五日後までに金貨百枚を手に入れなければならないからだ。
「うーん……。金貨二枚ってところかな?」
財布の中を覗くと、金貨が一枚と銀貨が何枚か見える。だいたい金貨二枚と見積もってもいいだろう。ゴブリンとオークの討伐報酬を加えてもこれだけしかない。初心者パーティの稼ぎとしてはいい方だけど、このままでは金貨百枚を稼ぐなんて到底無理だ。
それに、次のパーティの狩りは三日後。悠長にそれを待つことはできない。ボク一人でもなんとか金貨百枚を稼がないといけない。
とはいえ、かなり難しいことはボクもわかっていた。
でも、だからといってこのままでいいとも思えない。
「はぁ……」
この二枚の金貨はボクの全財産だ。
しかし、イグナシオたち『タイタンの拳』のメンバーは金貨二枚じゃ許してくれないだろう。できるだけ稼ぐ必要がある。
とはいえ……。
「やっぱり一人で狩りに行くしかないのかな……?」
かなり不安だけど、ボクの魔法はゴブリンやオークを一撃で倒すことができた。もしかしたら、別のモンスターにも通用するかもしれない。
まぁ、ボク一人が狩りに行ったところで大して稼げないのはわかってるけどね……。
でも、やっぱり行くべきなのだろう。債務者の辛いところだね。
ボクは冒険者ギルドに戻ると、ポーションを三本と携帯食料を三日分だけ買った。冒険者ギルドでは、ポーションやロープ、携帯食料など、冒険に必要な物が割安で売っているのである。
これからボクは三日間、森の中に潜るつもりだ。
『タイタンの拳』では、夜間の見張りはボクの仕事だった。三日くらいの徹夜ならば余裕である。
「今は時間が惜しい……」
ボクはさっそく、城塞都市エスピノサの東門へと向かった。これから三日後の朝まで帰ってこないつもりだ。
もう夕暮れの東門広場。街に帰ってくる冒険者の姿はあるが、これから外に出る冒険者の姿は皆無だ。
冒険者の流れに逆らうように、ボクは街の外に出た。背後に見える大きな防壁は安心と安全の象徴だ。それを自ら手放すことにも慣れた。
少し歩くと、鬱蒼とした樹海が見えてくる。通称、東の森。主に初心者冒険者の狩場になっている。そこを目指して歩く。
森の木々の枝葉が日光を遮り、森の中は朝にみんなで来た時よりも暗い。
一瞬、森の中に入ることをためらう。
「でも、行かなきゃ……」
イグナシオたち『タイタンの拳』のメンバーの性格を思えば、ボクがパーティに加入したらちょっかいをかけてくることが考えられた。
でも、ボクが借金を払ったら、ボクへの興味を失くしてくれる可能性もあると思っていた。
ボクは『タイタンの拳』のために森に潜るんじゃない。アベルやセシリアたちに不快な思いをさせたくない。そのために潜るんだ。
それに、セシリアが言ってくれた。ボクがあの冒険者ギルドで管を巻いている冒険者たちよりも強いって。
セシリアがそう信じてくれる。だから、ボクは強くならなくちゃ。
気を抜けば震えそうになる足で森の中へと踏み込んだ。積もり積もった腐葉土は、ふかふかとしてなんだか決意が鈍りそうになる。
「でも!」
ボクはセシリアの真剣な表情を思い出して、もう一歩森の中へ踏み込む。
「ボクは強くなる!」
決意と共にボクは歩き始めた。
やっぱり怖い気持ちはある。でも、パーティのみんなに顔向けできる自分でいたかった。
「そういえば……」
アベルがリーダーみたいだけど、パーティの名前って何だろう?
「今度会った時に訊いてみよう」
それまでがんばって生き残るんだ。そして、少しでもお金を貯める。
ガサガサと足元で落ち葉が音を立てる。森の中は危惧していたように真っ暗だった。
ボクは手探りでそれなりの木の枝を拾うと、油に浸した襤褸切れを取り出し、木の枝の先端に巻き付ける。そして、火打石を打ち付けて襤褸切れに火を着ければ、即席の松明の完成である。
「ふぅ……」
やっぱり明かりがあると落ち着く。
でも、この明かりはボクの視界を確保してくれると同時にモンスターを呼び寄せる誘蛾灯でもある。もう森の中だ。いつモンスターに襲われても不思議じゃない。
こういう時、頼りになるのは耳だ。森の中は腐葉土に満ちている。そんな中を移動すれば、必ず音が鳴るはずだ。
まぁ、木の上にもモンスターが隠れてる場合があるから、音がしなくても警戒は必要だけどね。木の根の上を歩くことで足音を消すこともできるし。
「あ……」
そんなことを考えていたら、さっそくガサガサとという音が複数聞こえてきた。音が軽い気がする。たぶんゴブリンだ。
ボクは真っ黒な空間を手の先に展開して構える。
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