16 言葉の重み
「なんか、やーな感じだよねー。ペペだってがんばってるのにさー!」
「そうだね。きっとあの人たちはペペの本当の実力を知らないんだよ。だから、気にしないで」
ダリアがぶーぶー言い、クレトがボクを気遣うように言った。
「うん。むしろ、ボクのせいでみんなに不快な思いをさせて申し訳ないよ」
もう、こんなことがないように強くならないと。
そんな決意を胸に、ボクたちは冒険者ギルドのカウンターテーブルへと向かう。迎えてくれたのは、張り付いた笑顔の受付嬢さんだ。
「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「ゴブリンとオークを討伐してきました。確認をお願いします」
「こちらのトレイにお出しください」
受付嬢さんが銀色の金属トレイを出してくれた。
「ちょっと離れててね」
ボクは真っ黒な空間を展開すると、手を入れてゴブリンの右耳を取り出していく。
目の前のトレイにはゴブリンの右耳がこんもりと山になる。
周りには血の臭いと悪臭が漂い始め、鉄面皮のような笑顔の受付嬢さんも眉に力が入っていた。
「まだあるんですか?」
「はい。まだまだあります」
「……別のトレイを用意します」
ボクたちがこんなに大量のモンスターを狩ってくるのは意外だったのか、次に用意されたのは先ほどよりも大きなトレイだった。ボクは残ったゴブリンやオークの右耳を取り出してトレイの上に乗せていく。
「これで全部です」
ボクの目の前には、ゴブリンやオークの右耳で山盛りになった銀色のトレイがあった。
「こんなに……。それに、オークまで……」
受付嬢さんが驚いているのが伝わってきた。
まぁ、今日結成したばかりの初心者パーティがオークを倒すことなんてなかなかないからかもしれない。
「このオーク、全部ペペが倒したんだぜ?」
「そうそう! ペペの魔法すごかったんだから!」
「そうだね。ペペがいて助かったよ」
「そうですね。ペペさんの冒険者ランクを下げたのは何かの間違いだったのでは?」
みんながボクの援護をするように言ってくれた。セシリアなんて、かなり直接的な物言いだ。
「それは本当ですか?」
「それは――――」
「おう! 俺がこの目でバッチリ見たぜ!」
「本当だよー!」
「本当だよ。疑うならペペにオークを倒させてみればいいんじゃない?」
「そうですね。それがいいと思います」
ボクが言う前にみんなが受付嬢さんに答えてしまう。
それを聞いて、受付嬢さんが困った表情を浮かべて口を開く。
「『タイタンの拳』のイグナシオ様からは、ペペさんはゴブリンも倒せないだろうと報告を受けています。とても信じることはできませんが……」
「あん? 俺がこの目で見たって言ってるだろうがよ!」
「そうだ、そうだー!」
「やめなよ二人とも。受付嬢さんも困ってるみたいだし……」
「でしたら、どちらの言い分が正しいのか、冒険者ギルドで確かめてみるのはいかがですか?」
「…………」
セシリアの言葉に、受付嬢さんが少しだけ悩むような表情を見せた。
だが――――。
「いえ、それには及びません。これまでの冒険者ギルドへの貢献を思えば、『タイタンの拳』のイグナシオ様の言葉を信じる他ありませんから。皆さんの言うことが真実だというのなら、自ずと皆さんの冒険者ランクも上がっていくでしょう。そうすれば、皆さんの言葉にも冒険者ギルドは耳を傾けるはずです」
「マジかよ!?」
「ケチ!」
憤ってくれているアベルやダリアには申し訳ないけど、ボクは受付嬢さんの言うこともわかった。
『タイタンの拳』は若手の中でも群を抜く実力のあるパーティだ。そのリーダーであるイグナシオの言葉と、今日結成したばかりの新人パーティの言葉では言葉の重みが違う。
冒険者ギルドが新人パーティであるボクたちの言葉を信じれば、それは冒険者ギルドがイグナシオの言葉を疑うということになる。それは冒険者ギルドとしても避けたいだろう。
イグナシオたち『タイタンの拳』は次世代の稼ぎ頭だからね。まだ伸びるのかもわからない新人パーティの言葉で疑いを持つには相手が悪すぎる。
だから、受付嬢さんの言うこともわかるんだ。
受付嬢さんの独断で決めることができないことも。
「みんな、ありがとう。でも、ボクは平気だから。早く換金しちゃおう」
「でもよー」
「でもでもー」
ボクはそう言って話を纏めると、受付嬢さんがちょこんと会釈してくれた。やっぱり困らせていたみたいだ。
「じゃあ、次は三日後の朝集合な! 遅れるなよ!」
「じゃあ、またね!」
換金が終わって報酬をみんなで等分すると、アベルとクレトはホクホク顔でそう言って連れだって大通りを歩いて行く。
オークを倒したのはボクだから、ボクの報酬を多くしようという意見も出たけど、ボクはそれを辞退した。みんな等しくがんばったからね。報酬は等分でいいよ。
「あたしたちも帰ろっか」
「そうですね」
「じゃあね、ペペ!」
「おつかれさまでした」
「うん。おつかれさま」
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