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誰も!飯の心配を!!していないのである!!!

作者: 麺樽豆腐

初投稿です。

拙い文章は大目に見てください。

「ご苦労なことですなぁ、クレフェルト王子」

「いえ、誰かがやらなければならない事ですので」

 あからさまに蔑むような態度の領主に頭を下げながら、ここで得られた物資をいかにして最前線へ持ち込むか考える。


 にこやかに社交辞令を交わした後、得られた『協力する』という言質を持って実務者たる商業ギルドへ向かう。

 今は非常事態だ、かと言って己の利益が無ければ人は動かない。いかにして妥協点(落としどころ)を見出すか、胃の痛みに耐えながらの交渉事が進んでいく。


 くる日もくる日もこういったことが続く。

 やる事は多いし複雑だ。その上理解もされることは無い裏方仕事。

 かと言ってやってられるかと投げ出せば・・・国が滅ぶ。


 ―――古代文明が滅んだ後の有史以来(記録が残る限り)、人と魔物の争いは終始魔物側の優勢に終わっている。

 最低十年は間隔が空くが不定期に発生する魔物の大氾濫(スタンピード)により、古代文明の遺産たる結界に守られた人類の版図は少しづつ侵食されており、我が王国より前線の(魔の領域に近い)国は(ことごと)く滅びを迎え、現状の最前線となる我が国を含む数ヵ国は大きく領土を失っていた。


 だというのに封建制近世魔法世界(ナーロッパ)の人々は、魔物の脅威から目を逸らし封地領主(国人貴族)単位で相争い、離合集散を繰り返す。どこの世でもそうだが、人は総論賛成各論反対(自己都合以外興味無し)の呪いからは逃れられない宿命(さだめ)らしい。


 そんな中、約100年ぶりに発生したスタンピードにより、王国は危機にさらされていた。

 もし、最前線の砦にある宝珠(制御装置)瘴気に侵食(破壊)されれば、王都を含む地域の結界が失われ多くの無辜の民が蹂躙されることだろう。


 そうはさせじと大氾濫の兆候が認められた2年前から、前線の砦は昼夜を通した大工事により、大要塞へと変貌を遂げていた。

 どの稜堡に取り付かれようと死角なく魔法砲撃を撃ち込める星型の縄張りに、攻め寄せる勢いを殺し分断する枡形虎口、 身を隠しながら弓・魔法を放つことができる矢狭間付き鋸型胸壁とこれまでに無い新機軸(技術チート)が、王太子殿下の肝いりにより効果的に取り入れられた事で、スタンピード中の普段とは違う(結界を意に介さない)魔物共を効果的に狩ることができる。


 その上、要塞に籠るは神に選ばれた力(転生チート特典)発現(俺tueee)された王太子殿下率いる王国の粋を集めた最精鋭軍団。兵卒であっても小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)などものともしない強者の群れが3000名、魔石・矢弾が尽き刀折れ、命果てるまで一歩も退くことはない覚悟で闘志を燃やし、今日に至るまで魔物の群れからよく守り抜いている。


 今回こそは、有史以来初の防衛成功なる、と評判であり、王国内の空気は明るい・・・のだが、妾腹の第三王子(みそっかすのモブ)である俺は、全く楽観視できていない。


 なぜならば!誰も!飯の心配を!!していないのである!!!

 あぁ、よく構築された防衛体制だとも!要塞内は効率よく兵士が交代できるように工夫されており、内部の休息スペースで効率よく治療・食事・睡眠がとれ、無理なく長期戦を行えるようになっている!

 水に至っては中央部に設置された水の魔水晶から張り巡らせた水路により最前線でも余裕を持って血や瘴気を洗い流せるだけの潤沢な量を確保している!


 ・・・で?保存庫内の減っていく食料、魔石、矢弾は誰がどうやって補充するんだ?使い切った水の魔水晶を誰が交換するんだ?

 このままだとある日突然飢え(飯が切れ)て戦えなくなり要塞陥落からの王国滅亡まで見えるのだが、国王はじめ上層部共は全く理解していない。


 どうも今までの歴史史料をみる限り、このぐらいの時期まで粘った事例は散見されていることから、過去にも兵糧切れ壊滅のパターンはあるようなのだが、全く注目されていなかった。やはり兵站という概念がいまだ未熟なせいであろう。


 まぁ仕方がない、ここ50年ほどは戦争といえども小競り合いの野戦か大規模短期会戦しかなく、()()()()()()()()()()()()()()経験が無いのだから。

 各領主は各々三日程度の食料と一戦分の装備を持参し、以降は周囲の人里から徴発(購入)もしくは略奪するのがこの世界の常識なのだ。()()()()()()()()()事態など想像(イメージ)すらできまい。

 王太子殿下と同じく、生まれた時から異世界(前世)の記憶を持つ俺だからこそこの危険に気がつくことができたわけだ。


 宝珠を狙う本能からか、要塞を迂回して人里を襲う魔物は居ないようだが、その分要塞を包囲するように蠢いている魔物共を一時的に蹴散らして荷駄隊(補給物資)を要塞に届けなければ王国に未来はない。


 木っ端モブ王子の俺が何とか父王に謁見し、この危険を伝えて対処を願ったところ、『よく分からんが、対処が必要ならお前がやれ』というありがたいお言葉を賜った。

 ・・・言い出しっぺの法則ぅぅぅー!!


 兵站は、補給は、 ただモノを運ぶだけではなく、生産から集積・配分に至るまで多岐にわたり、国家の総力を挙げて成し遂げるものだと、アレだけアツく説明したというのに・・・


 ま、まぁ王の命令(トップダウン)という錦の御旗を頂いたわけで、これと前世の簿記知識(知識チート)を最大限活用して財務官僚達から予算と権限を搾れるだけ搾り取ることに成功した俺は、それを元手に更に物資をかき集めるべく鷲獅子騎兵(グリフォンライダー)小隊を使い倒して各地の封地領主(貴族)の元を飛び回っているわけだ。


 その上で、兄王子たちと違って戦いにも赴かず遊び回っている、と侮蔑の視線にさらされながら、金・利権・隣領との調停・数寄物(宝物)・勝利の際に得られる希少な魔物素材などを餌に物資・人員をかき集めていった。


 そして、最寄りの人里になけなしの魔法兵を集結させ念入りに準備砲撃をかました後、冒険者・荒くれ馬借・傭兵・義勇兵・博奕好きな商人隊などなど、あるモノは何でも使えの精神ででっち上げた荷駄隊を率いて突撃。補給を成功させる事三回にわたり、この半年間をどうにか乗り切っていたのだ。

 ―――半年耐えるのに三回も補給が必要な要塞ってどうなんだ?と思わなくもないが、人相手の戦争とは比べ物にならない消耗度とありあわせの補給隊による限られた補給量を考えれば妥当なところだ。


 え?鷲獅子(グリフォン)で空輸?残念ながら鷲獅子や天馬(ペガサス)などの飛行幻獣は瘴気を極端に嫌い、下手すると魔物化してしまうのでね、後方ならともかく前線の要塞には使えないのだ。


 なお、補給任務は武勲には数えられないそうで、補給隊の面々には都度金品で報酬を支払い解散。俺自身はタダ働きなのだ。ツライ、評価制度どうなってんねん!


 そして魔物の数が減少し始め、ようやっとスタンピードの終演が見えてきたと思しき頃、要塞内で物資の管理を任せていた腹心の部下(乳兄弟)から複数の伝書鳩をもって緊急報告が届いた。


 ―――王太子殿下が『瘴気が薄れてきた!今なら行ける気がする!!』と言い出し、王太子殿下(勇者)近衛騎士団長(戦士)聖女(僧侶)魔道師団長(魔法使い)を始めとした精鋭部隊が魔物の領域に逆侵攻。前回のスタンピードで崩壊した結界宝珠までたどり着き橋頭堡(きょうとうほ)を築いた(よし)、つきましては結界宝珠復活までに必要な物資を補給されたし―――

 ・・・そこは馬車限界の向こう側ぁぁぁぁ!!!!


 馬車限界って何?という方向けに簡単に説明すると、荷車を牽く馬や操る人間だって飯や水を消費するわけで、普通はそれらも荷車に積み込むのだ。その分補給量は減る。

 んで、何日もかかるような遠い場所となるとその分多くの飯を積み込む必要があり、一定の距離を越えると荷車の全てに飯を積んでもたどり着けない状況になる。当然補給量はゼロだ。この馬車で補給できる距離の限界の事を言うのだ。


 これを父王に説明し補給は不可能、速やかに撤退させるべし。と奏上したのだが・・・返ってきたのは『不可能は嘘つきの言葉ぞ。工夫が足りんのだ。何としてでもやれ』というありがたーーーいお言葉であった。評価もされていないのにこの仕打ち。泣いていい?


 幸い『何として(どんな手を使って)でも』というお言葉があったのだ。冬の秦嶺山脈を越えた諸葛孔明、インパールへのジャングルを踏破した(していない)牟田口廉也、フォークランド諸島爆撃を敢行した英国紳士と馬車限界を越える試みは有るにはあるのだ。全てに狂気が搭載されているがね。


 さて、やるとなったら徹底的に行こう。軽々しく何としてでもなんて言葉吐いた事後悔させてくれる。まずは予算からだな。


―――

――


 「お、王子・・・これ以上は捻出できませんよ!」

 「『不可能は嘘つきの言葉ぞ』・・・陛下のお言葉です。何としてでもやり通す必要があるのですよ・・・ねぇ?あるでしょう?側妃様方の御衣装・お茶会(サロン)・装飾品の予算、膨れ上がってるんでしょう?他にも陛下の()()()会合(宴会)とか、意図の不明瞭(無意味)視察(旅行)とか。長年削減したくても出来なかった予算がたぁくさん・・・ね?」

「し、しかし・・・」

「大丈夫ですよ、矢面に立つのは俺です。あなたは後ろに控えていてくださればよいのです。それに、あなただけではありません、領土政務官や貴族局長も巻き込みますから。みんなで幸せになりましょう?」

 青い顔ながらも頷きを返したな、よしこれで予算確保の目処はたった。次は領土政務官連れて貴族局へ訪問だな。


―――

――


 「だから!現状絵に描いた餅でしか無い新領土など!!今の領地を取り上げる口実にしかならんと言っとるのです!!」

「開拓に必要な予算は確保しましたよ?大幅加増という好条件なんですから、説得するのがあなたの仕事では?局長殿」

 まぁ確保したのは初年度分だけなんだがね。後は領主たちが上手くやるだろう。もしくは予算の首輪を受け入れるかね。

「政務としても、開拓に応じて切り取り次第というのは・・・」

「まぁ考え方次第ですがねぇ、局長殿が言う通り現状では絵に描いた餅なんですよ?俺が無謀な補給を成功させない限り。御破算になるよりよっぽどマシでしょう?」

「「・・・・・」」


「まぁ貴方がたの立場(メンツ)も考えていますよ、領土が広がれば新興の騎士爵を増やすことになるのです。その対象は今要塞に籠もっている勇士たちが最有力です。貴方がたのご子息のうち、次男・三男が参加されていますよねぇ?」

「それは、息子を贔屓するということか!?」

「違いますよ、言ったでしょう?切り取り次第だと。初期配置の割り当てを決めるだけですよ。後は各々がどれだけ各所から支援を取り付けられるか次第といったところでしょう」

 実際にはそれを贔屓というのだが、違うと言い張れる材料さえあればよいのだ。実際この程度であれば皆やっていることだし大きな問題にはなるまい。


「偶然にも俺のところにまっさらな開拓予算がかなりの量ありますが、それはそれとして、局長殿・・・ガメッツィ伯爵、お困りでしょう?」

 新領土獲得が見えた瞬間から、強欲に己の領土として確保に走っている豚のような伯爵。スタンピード防衛にも要塞への補給任務にも全く協力する姿勢を見せていないクセに取れるものは搾り取ろうとするクソ野郎が集まる派閥の首魁。


「伯爵には新領土に侯爵領相当の割り当てを準備していただきましょう。周りに他者を配置しないことで。ただし新領土でも辺境である、滅亡した隣国との国境付近にね。無論、現在の領地は返納していただく事になりますが、大幅な加増となりますし、正直ガメッツィ領は領民が疲弊し過ぎて税収が低下し、伯爵的には無価値になりつつある地です。話の持っていき方次第ですが納得いただけるでしょう」

 説得の際にする開拓支援の約束(カラ手形)次第だろうがね。転封させてしまえば後はどうにでもなる。


「ぐ・・ぬぅ・・・しかし、仮に開拓成功した場合の増長がですな・・・」

「あぁ、そこはご心配なく。結界宝珠近辺は第二王子殿下を臣籍降下の上で割り当て。その隣にセイジツ子爵を伯爵へ昇爵して加増転封相当の割り当てにすれば睨みを効かせられるでしょう?」

 実は新領土の割り当てに口を突っ込んでいるのはセイジツ子爵が目当てだったりするんだがね。

 一刻も早く結界宝珠橋頭堡への補給を実現させる為には要塞最寄りの領地であるセイジツ子爵の協力が不可欠だからな。今まででさえ最大限の協力を受けていてなお搾り取ろうってんだ。手土産くらい準備しないとな。腐った貴族やら脳筋兄王子の隔離はついでだ、ついで。


「旧ガメッツィ領は伯爵のこれまでの厚い貢献(圧政・苛政)により疲弊していますので、一旦王家預かりとする必要があります。政務官には苦労をかけますが・・・」

「いえいえ、お任せ下され。それが職務にございますから」

 権限(シゴト)が増えて嬉しいのは官僚の本能だからな、上手く擽る事が出来たようで何よりだ。


「・・・分かった。貴族局としてもその案に乗ろう。その他の新領土についてはこちらで決めても?」

「宰相や領土政務官と調整はしてくださいね。王国にとって最善の配置になると信じていますよ」

 よし、これで領地周りは大丈夫だな。次は宝物庫か・・・


―――

――


「ま、まてクレフェルト!!その魔水晶は亡き王妃の形見なのだぞ!!勝手に持ち出して何をする気だ!?」

「無論、補給物資にするのです。これだけの魔力量を持ちながら、片手で持てる大きさに軽さ。これだけで現地の水は確保できます」

 宝物庫から必要な物資を調達していたところ、青い顔をして父である国王を始め、宰相、外務大臣らが駆け込んできた。


「な、何を愚かなことを・・・ただちに「『何としてでもやれ』とのご命令通りに動いてるだけでございますよ陛下」・・・」

 有無を言わせぬ口調で父王の言葉を遮る。不敬ではあるが、ここまで来て下手な事を言わせるわけにはいかないのだ。


「俺は補給不可能だと理由もあわせて申し上げたハズです。その上で、無理を通されたのは陛下でございましょう?」

 正直、深く理解せず軽い気持ちで命令したというのはわかっているのだが、無理を通す為に既に各方面に動いて(根回しして)貰っているのだ。今更中止・撤退ともなれば、致命的に国が傾いてしまう。


「だが、あやつ(王妃)は息子の嫁にこの魔水晶を託すことを末期の願い(遺言)としたのだぞ!・・・それを・・・」

「では、今更ですが中止致しますか?スタンピードを耐え抜くのみならず、史上初の領域奪還という栄誉をお捨てに?

 それだけなら致命的な問題とはいかなかったでしょうが、既に今回のスタンピードで領土を削り取られた隣国の難民を引き受けると豪語してしまいましたよね?陛下?外務大臣?」

 自分たちでも引き返せない領域まで突き進んでる事も忘れているのかねこれは。


「更に申し上げるならば、補給とは、兵站とはただモノを運べばよいというものではなく、国家が総力を挙げて取り組む事柄だと以前に奏上致しましたよね?

 無理を通す王家の負担が魔水晶だけで済むとでも?」

「な、何を言っておる!!勝手なことをするでない!!」


「陛下より頂いた兵站責任者(お前がやれ)職務(言葉)に基づき、国家の非合理的な業務(無駄遣い)を見直して、任務遂行のために最適化したまでです。

 あぁご心配なく。各担当者とは()()()()調整してありますから、詳細は彼らに確認されるとよいでしょう。

 ただし、変に口出しなどなされれば、補給計画は破綻し、ひいては結界宝珠復活(新領土)は即座にご破算となることをお忘れなきよう願います」

 念を押すように微笑みかけたのだが、目を逸らされてしまった。まぁ余計な手出しをしなければそれでよし。後は適宜釘を刺すように侍従長にでも頼んでおけばよさそうだな。


 さて、下準備はあらかた済ませた。あとはセイジツ子爵領で補給隊を組織するだけだ。


―――

――


背負子(しょいこ)と牛・・・ですか。しかしこの量はとんでもないですな。橋頭堡には50名程度の人員しか居ないと伺っておりますが」

「えぇ、これだけの数の歩荷(ぼっか)と駄獣に積み込んだ物資ですが、実際に現地に届くのは10分の1程度の予定です。残りは補給隊と駄獣、そして護衛の腹に収まります。

 それだけではありませんよ?数日毎に進む隊と引き返す隊に分け、帰還隊から補給を受けながら進むのです。早期に帰還した隊は要塞で改めて物資を搭載して、引き返す隊を迎えに行き補給を行います。

 おまけに一部の牛は行軍途中で補給隊の食糧もしくは魔物への囮としても消費します。要塞内に補充用の牛を確保する必要があるでしょう」

 まぁあれだ、ブラックバック作戦(紅茶キメた狂気)ジンギスカン作戦(大和魂キメた狂気)の合わせ技だ。先帝の御恩(劉玄徳の威光)キメ(出師の表)まくった蜀軍の山脈踏破(孔明の策謀)は史料が無さすぎて参考には出来なかった。


「な、なんと言いますか・・・凄まじいものですな」

「馬車限界を超えた先に物資を届けるというのはそういうことなのですよ子爵殿。

 しかも今回は魔物を警戒しながら獣道をゆくのです。荷車などの車両が使えるわけでもないので、さらに凶悪なのですよ」

 ・・・馬車使わないのに馬車限界とは一体・・・


「なんにせよ、子爵領の役割は各地からの物資受け入れ及び要塞迄の補給線構築・維持と背負子・牛の供出ですか・・・来年の麦はほぼ諦めることになりそうですな」

 やはり人手に加えて、農作業に大きく貢献する牛を根こそぎレベルで持っていくからな、畑作は無理になるか。他領とは比べ物にならない負担を押しつける事になったのは俺の無能(能力の限界)故だ、情けないな。


「子爵にばかり負担をかけることを心苦しく思います。ですが、もう一息の協力を頂きたい。スタンピード終演の後、子爵と領民達の献身に報いる手配は済んでいますよ。不遇の第三王子の出来る限りですので不足はあるでしょうが」

 セイジツ子爵の人柄からか、領民も善良な者が多く、領主領民の結び付きも大きい為、子爵領民双方に報いる必要がある。幸い領民達は勤労を美徳としているから褒美にかこつけて領民ごと新領土開拓団の中核を担ってもらうことで領主(昇爵)領民(加増)国家(鎮守)の三方良しで納得して貰えたのは有り難いことだ。


「いやいや、貴方の働きは見る目のあるものはちゃんと見ていますよクレフェルト王子。少なくとも貴方がいなければ我が領に来年は来なかった事を私も領民達も理解しています。

 あと一息、お任せ下され。我々も王子の献身に報いたいのです」

「ありがとう。必ずや作戦(補給)を成功させて諸君に報いると誓おう。よろしく頼みます」


―――

――


 そうして現在、俺は補給隊を率いて魔物の領域を進んでいる。普段は瘴気に阻まれ近づくことすらできない此処は、過去に街道であった場所さえも森に呑み込まれ僅かな獣道しか残っていない。

 そんな中を斥候は(やぶ)()(もぐ)りながら警戒線を構築し、引っ掛かった魔物を適宜護衛が討伐する。

 順調に進んでいるようだが油断はできない。補給隊は大荷物なため隠密行動や機敏な機動は不可能だ、大規模な群れが来ないことを祈るしか無い。


 つくづく軍隊の鈍重さを嘆かざるを得ないな。大人数、ただそれだけの事が如何に旅路を困難なものにするか。飯がいる、水がいる、場所がいる、当たり前のことで、一人二人なら造作もない手間も数に比例して困難なものとなる。


 そして時には今のように、既存のインフラを全く利用できない冒険を、軍隊はこなさねばならない。さらにいえば、先行している王太子殿下の精鋭部隊が腹を減らしている。グズグズしている暇は無いと来た。


 魔王城にカチコミに行く勇者の方がよほどマシだな。龍の試練(ドラ◯エ)とかの国民的ゲームで主人公一行のみでラスボスに特攻かます理由が今、魂で理解できたわ。ラスボスなんざ軍勢で囲ってボコればイチコロじゃねーかなどと(うそぶ)いていた前世(厨二の頃)の自分をぶん殴りてぇ、切実に。


「王子、いや隊長!物資整頓が完了しました!現時刻をもって最後の帰還部隊を率いて出発致します!」

「ご苦労さまです。進む我々と同様に、帰るあなた達も危険と苦難が待ち受けているでしょう。無事迎えと合流することを祈ります」


 ここ迄はなんとか予定どおりに進み、俺を含めた10名の歩荷と5頭の牛に補給物資を満載した状態で目的地まで後半日程度までやってきた。

 ここで残った斥候・護衛は全員帰還部隊に入れる為、補給部隊としては全くの丸腰になるわけだが、手は打ってある。


「クレフェルト、これで全員だな」

「はい兄上(王太子殿下)、これが全てです。以降補給は無いとお考えください」

 斥候に伝令を任せ、橋頭堡より迎えを依頼しておいた。これで余計な人数増加を避けた上で、ある程度の安全を確保する寸法だが、まさか兄上が直接来るとはな。


「わかった。すまんが皆腹を減らしている。急ぐぞ!」


―――

――


「お、王子・・・せっかく物資を持ってきて頂いたのに、なぜ麦粥だけなのです!?我々はもう何日も何も口にしてはいなかったのですよ・・・」

「だからこそですよ騎士団長。飢えた状態からいきなり豪華(高カロリー)な食事を摂れば、()()()()

「な!?そんな事が・・・」

「スラムでの炊き出し等で稀に発生する事例です。ただ、武人には知っておいて頂きたい知識ですね。敵の空腹を攻める戦術だって考えられる訳ですから」


「(ゴクリ)鳥取の(かつ)え殺し・・・」

「兄上、その例えは俺にしか通じません。しかし皆様、異界の知恵を持つ王太子殿下にも心当たりがあるそうです。故に本日明日は麦粥です。その後しばらくは屠殺した牛でしのぎますよ」

 兄上、そういう知識もあるならもうちょっと兵站にも配慮して欲しかったな。まぁ華々しくない裏方仕事に興味ナシな方なので無理な話だが。


 それから数日後。


「ところで、クレフェルト。持ってきた水の魔水晶だが・・・あれ、亡き母(王妃陛下)の形見であろう?使用に際してはお前の意を汲むから、我に渡してもらおう」

「一日あたりの使用量と水の割り当てを計画どおりに守るのであれば構いませんが・・・」

 今の状況だと誰が持っていようと変わらんだろうに、何のつもりだ?


「いやなに・・・いい機会であるし・・・母の願いも叶えんとな」

 何やらボソボソ言いながら魔水晶を受け取った兄上は、その足で宝珠修復作業中の聖女様に声をかけ、二人で斥候と称して出かけていった。


「ホッホッホ、ようやっと決心がついたようじゃのぅ。重畳重畳」

「魔道師団長・・・いいのですか?復旧作業に遅れは?」

「お主の連れてきた歩荷の半数(5名)は魔道具技師の心得持ちじゃろ?穴埋めには充分じゃ。ちょっとくらい聖女と儂が抜けたところで問題ないわい」

 まぁただの輸卒を連れてこれるほど余裕あるわけではなかったからな。因みに2名は料理人、2名は斥候、最後に物資管理の俺という構成だ。

「それよりこっそり後を追う(出歯亀する)ぞい。流れによっては王国の一大事じゃ」

 王国の一大事て・・・呆れながら隠蔽魔法を受けついていくと、兄上が聖女に(ひざまず)き魔水晶を捧げている場面に出くわした。


「よしよし、無事求愛(ぷろぽおず)は成功したようじゃのぅ。フラれておれば王国の一大事となる所じゃった。善哉(よきかな)善哉」

 まぁ王太子殿下のお相手となれば確かに一大事だが、この状況でやる事か!?

 あー、二人とも真っ赤になっちゃって・・・青春だねぇ。俺は前世でおっさんだったせいか、枯れちまってるが、兄上の前世は高校生だったか?まぁ幸せなら何よりだ。


「それでは皆で帰るかのう、お~い仲睦まじい所悪いが帰るぞ~」

 うわ、このノンデリ爺容赦ないな。しかし物資が限られている以上、油売ってる暇は無いと。


 そんなこんなで小さいトラブルはあったが、予定どおりの期間で無事、結界宝珠の修復が終わり、ほぼ同時にスタンピードが終演を迎えた。


 これにより今まで瘴気を嫌って飛来出来なかった鷲獅子(グリフォン)を用いた補給連絡線が繋がり、俺たちは任務を、史上初の快挙を成し遂げたのだ。


―――

――


 あれから5年ほどの年月が流れた。


 新たに得た領土に関しては、上手く行っている場所もあれば、トラブル続きの場所もある。まぁ総じては予定通りだ。


 他国との関係は正直難しくなった。いずれ魔物の大氾濫(スタンピード)に呑み込まれる国として全く注目されていなかったところが突然大きな存在感を持ち出したのだ、擦り寄るもの、奪おうとするもの、庇護を求めるもの等が急速に増えて対応に追われている。俺が対応することも多く、結果的に俺の重要性も増してきている。影の実力者(フィクサー)ポジでのんびり過ごす目的から考えて良し悪しだが、想定の内だ。だったのだ・・・


 父は、前王は隠居した。今までやっていた放蕩(好き勝手)ができなくなり、新領土の開拓という【今までどおり(思考停止)】が通用しない案件の決断と責任が重圧となった結果、心と身体を壊してしまい離宮で静養している。今の混乱を目の当たりにしても、もう政治にかかわる意欲も気力もないとのこと。これも想定内ではあった。あったのだ・・・


 兄上は、兄上の件は・・・完全に想定外だ。彼の行動が俺の想定を全て台無しにしてしまった。いや、予想しておくべきだったのか!?国の中枢たる国王が、『魔物に脅かされる諸国の民を救うため旅に出る!跡は任せたぞクレフェルト!!』とか抜かして失踪するのをか!?


 しかも、官僚達も民衆も、貴族(一部の屑共は除く)でさえも勇者(国王)聖女(王妃)の旅立ちを祝福し、粛々と俺の戴冠に向けて手続きを進めている!


 いやおかしいだろ、これでは俺が兄上から王座を簒奪したようにしか見えないだろ!という意見も、俺以外からは全く聞こえてこない。周囲からは『そんなネゴト言ってないで仕事してください。決裁溜まってるんですから』としか返ってこない・・・今の仕事量に加えて国王の仕事?ダメだ、まったくもって手が足りない、過労死という言葉が頭に浮かぶ・・・


「陛下、出番ですぞ!いよいよ戴冠の儀でございます!!」

「いやだから戴冠式はおかしいだろ!兄上(国王)は健在なんだぞ!!」

「未だにそのようなことを仰るのは陛下だけにございます!往生際が悪い、観念なさいませ!」


 気楽〜な〜黒幕(フィクサー)ライフ〜目指してい〜た〜ら〜王冠〜かぶらされ〜ました〜


 チクショー!!


 カラダがいくつあっても、足りません!!


作者の打たれ弱さは作者名どおりです。

決して『この分野は素人なのDeathがぁ!』とかやってはいけません。

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― 新着の感想 ―
面白かったです。国王の「何としてでもやれ」を盾にあれこれやり切った所が特に。 ルビがちょっと多すぎるかなと思いました。
クドい説明にならないようサラッとかつ十分に世界と人物の背景が説明されていて、かつ馴染みのない兵站分野をテーマにテンポ良く読ませる構成になっていて、良短編だと思いました!
大丈夫! メンタルが豆腐でも名前に「麺」を使った以上、打たれて捏ねられ釜茹でされて──「伸びる」御方ですよ!あなたは!(屁理屈応援) ファイトー!! 割りと真面目に、兵站担当の軍事ものとして完成度は…
感想一覧
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