壁に耳あり正直メアリー
誤字報告を下さる皆様
貴方のお陰で、次の読者様が助かっています。
いつもかたじけない、ジャイアント感謝!
アタシの名前はメアリー
職業はメイド。年は14歳。
女ざかりのぴちぴちギャルよ、うっふん
さて、私が雇われているミクス伯爵家だが、ここ数年で大きく雰囲気が変わったらしい。
らしいっていうのは、最近、前任が首になって後任にアタシが雇われたから。
だから前のことはよく知らないんだよね。
まず、2年ほど前に旦那様が戦争で亡くなった。撤退戦で一番危険な殿を務めて本隊を逃がし切った後の名誉の戦死だったとのこと。その少し後に奥様が亡くなる。失意の中で気丈に家を切盛りしていたが、疲労のピークと流行り病が重なったそうだ。南無。
で、残されたのは現在御年17歳の未成年である長女ピーナ様のみ。
だから後見人として、旦那様の親戚一家がやって来たんだって。
それ以降、我が物顔で財産を食いつぶし続けている、いかれた面子を紹介するぜ。
夫のアモンド、妻のカシュ―、そして娘のマカダミアだ。
仮にも自分の雇い主にこう言うのもアレなのだが、あえて言おう。
こいつらはクズであると。
アタシたち使用人への態度も最悪だ。
そして、娘のマカダミアを甘やかす一方で、正統後継者であるピーナ様を明らかに冷遇中。
まず、『しつけ』と称して、犯罪にならないぎりぎりのラインで、ピーナ様に体罰を加えたり、過酷な労働をさせたり、飯を抜いたりしている。これはおかしいと直訴したベテランメイドは首にしたそうだ。
そして後任として、ど素人かつ新人のアタシをピーナ様の専属メイドに抜擢したりと、やりたい放題だ。引継ぎも研修もないから何すりゃいいのかさっぱりわからん。
「っていうか、なにもしないのが正解なんだろうな」
きっとあいつら『ピーナが弱って倒れれば全財産ゲット』って魂胆だし。
ここで、前任みたいな正義感溢れるメイドだったらピーナ様のために隠れて何かするのだろう。しかし生憎、私はそこまでする気にはなれなかった。
正直に言おう、わが身が一番可愛いからだ。あと父が先日の戦争でケガして働けなくなったので、首になると困るのだ。そして、まがりなりにもお金をもらっている以上は、雇い主に忠義を尽くすべしというと父から教育されてもいる。
だから本件に関しては長いものに巻き巻き巻かれて、バウムクーヘンみたいになる所存だ。まあ、食べたことないんだけどさ……
くそう、腹減ったなぁ。こちとら成長期なのに、今の雇い主は私たちの食事代もケチってるからなぁ。いいもん食えれば清貧な私の身体もすぐムチムチボインになれるだろうに(願望)。
専属メイドとしてやるべきことは多いはずだが、やっていいこともないので最近は暇つぶしに屋敷の中をぶらぶら歩いて、他の使用人達を手伝いつつ雑談に興じている。
今日も今日とて、こっそりいろんな部屋にお邪魔して、見たり聞いたり触ったり、歌って踊ったり散歩したりしていると、扉の向こうから、クズい三連星の話し声が聞こえてきた。
「ねえお父様、私、ラッカセ王子と結婚したいわ」
「そうかそうか、ならまず、婚約者候補の一人であるピーナを何とかしないとなぁ」
「アナタ、あの新人メイドを使いましょうよ」
うわ、めっちゃ悪だくみしとる―。
◇
後日、アモンドに呼ばれた。
「今日お前を呼んだのは……」
「これからはもっとピーナ様と行動を共にし悪いところや弱みを見つけて報告しろ、でしょう。でも危ない橋ですし、正直いって良心も痛みます。何かこちらにもメリットを頂けませんか」
「お、おう……」
アモンドは「なんでわかったんだコイツ」って顔をしている。
まあ、悪だくみの内容を聞いてたからだね。でも、それは言わずに察しのいいメイドアピールをする。なめられないようにして、自分にいい労働条件を引き出さないとね。
「それで、どうだった?」
「正直、悪いところはぜんっぜん見つからなかったですねー。清廉潔白で我々にも優しい。育ちの良さが顔にも所作にも表れている自慢のご主人さまって感じです。マカダミアお嬢様に爪の垢でも飲ませてやりたいですねー。」
「お、おう……」
執務机に両肘をついた状態でしかめるアモンド。
せっかく正直に報告してやっているのに、何だその態度は。
「じゃあ、弱みはどうなんだ。なにか言っていたか。」
「ええ、そちらは色々聞いてきましたよー。今では私のことを信頼してくださっていますからね。実はカッチカチに硬いパンの方が好きだから、いまの食事を気に入っているそうです。パンがふわふわ柔らかくなったら耐えらないかもですねー。あと、実は肉汁が苦手でスープに肉が入っていたら気分が悪くなるかもしれないって言ってましたね。」
「おお!そうかそうか、よくやった。よし、褒美に今日の使用人の食事には卵をつけてやろう」
よっしゃ、タンパク質ゲット!
しかし、恩着せがましく言ってくるなぁ。
前の旦那様が生きていた時は、普段からもっといい食事が出ていたって、いろんな人に聞いて知っているんだぞ、こっちは。
「ところで、その机の上の紙束は何ですか?」
「門外不出の、重要な仕事の書類だ。その年でメイドをしている下民風情がみても何が書かれているかは分からんだろうが、くれぐれも持ち出したりするんじゃあないぞ。」
◇
「おかしいわ……最近、ピーナがだんだんとツヤツヤしてきているわよ。アンタ、嘘を言っていないでしょうね」
「いやいや、心外ですよカシュ―様。私が虚偽報告をしていないことも、スパイ行為をピーナ様に話していないことも、わざわざ魔道具で確認したでしょう?部屋に花を飾るのも、定期的に指圧師を呼ぶのも、寝具を低反発素材にするのも、毎日15時にはプリンを食べさせるのも、ぜーんぶピーナ様が『こういうの苦手だなぁ』って言ってたことですって。」
「役立たずなメイドね。今日は全員飯抜きよ!」
なんでや。流石に横暴じゃろがい。そんなことしたら使用人達の評判が地に落ちるぞ……と思ったが、もう谷底まで落ちてたわ。
「明日、ラッカセ王子が急遽ピーナお義姉さまに会いに来ることになったの。ちょっとアンタ、お姉さまの事をボロッカスに言って、私の事を誉めそやしなさいよ。あと私の方が結婚相手にふさわしいって、プッシュなさい」
「いやいやマカダミアお嬢様、王族に虚偽報告は死罪ですよ。」
「バレなければいいじゃない、それにアンタ、メイドでしょ。私のためなら命くらいかけなさいよ!お父様に言いつけるわよ、あんたなんかすぐにクビに出来るんだからね。」
簡単に言ってくれるなぁ……でも、命令をつっぱねるわけにはいかない。
現在私はピーナ様にほだされちゃあいるが、わが身が何より可愛いからね。こいつ、ヒスると花瓶が飛んでくる事もあるからなぁ……
「じゃあ、嘘にならない範囲で大げさに膨らませて言うので、それで勘弁してください。」
「よくわかんないけど、三人で茶会するようにセッティングしてやるからそば付きメイドとしてうまくやんなさいよ。どうせアンタ読み書きなんて出来ないだろうから、今から私が言うことを、死ぬ気で頭に叩き込みなさい。いいこと、私は『庇護欲をくすぐるように病弱で、慎み深く、でも脱いだら凄い』って設定にして頂戴。あと、お義姉さまはその真逆でよろしくね。」
ホント、簡単に言ってくれるなぁ……
「やあ、ピーナ。戦後処理で忙しかったとはいえ、婚約者候補である君の所へしばらく顔も見せられずに済まなかったね。それと、改めてご両親の件にお悔やみを申し上げる。その後、不自由なく元気にしていたかい。ああ、マカダミア嬢もご機嫌麗しゅう。」
「殿下、遠路はるばるお越しくださり、またわたくし共へのお気遣いに感謝申し上げます。こちらのメイドをはじめ、家の者が本当に良く働いてくれていたおかげで、体調を崩さずに済みました。」
「ほんと、お姉さまったらすっっごい元気なんですよ。私、うらやましい位ですわぁ。ねえ普段近くで見ているアナタもそう思わない。」
マカダミアが視線を寄こしてくる。
『お転婆なわんぱく者だとか言いなさいよ』って視線だ。
へいへい、事前に下された命令には従いますとも。
「はい、ほんとにね、ピーナ様はとってもタフでいらっしゃいますよ。『しつけ』の範疇を超えてるんじゃねーのって体罰をうけたり、過酷な労働をさせられたりしても倒れずにいられる基礎体力がありますし。そしてそんな中でも気丈に振る舞い我々家臣への心配りを忘れない心の強さも素晴らしいです。国母となるのにこれほどふさわしい方も、なかなかいらっしゃらないでしょうね。」
3人がぎょっとした顔でこちらを見てくる。
「そんな素質はみじんもない、マカダミア様にとってはうらやましい限りでしょうね。彼女はだれかにおんぶにだっこしてもらえないと生きていけないくらい病弱ですし、頭も心もよわよわですから。そうそう、よく下痢もするし、アルコールにも超弱くて酒癖も最悪なんですよ。」
「お、おほほ……このメイドは冗談が得意なんですのよ……」
マカダミアが見えない角度で脛を蹴飛ばそうとしてきたので、一歩引いてかわす。
いやいや、事前の約束どうり、事実をちょっと盛って言ってますやん。
なにか問題でも?
「ほう……興味深い話だね。どうやら二人は義理の姉妹だが対照的な点もあるようだ。他にもそういう点はあるのかな?ああ、じっくりと聞きたいから、マカダミア嬢はしばらく黙っていておくれ。」
「はい、王子。まず、ピーナ様には慎み深さがたりませんね。人員削減で仕事が増えた私たちが忙しそうにしていると、本来家主という立場を弁えず、物腰低い態度で手伝おうとしてくるんですよ。しかも自分だって過酷な扱いを受けていてオーバーワーク気味だと言うのにです。逆に、金切り声をあげて不要な仕事まで創出してくださるマカダミア様とは大違いですわ。」
王子はにこにこと聞いてくれている。顔の上半分が暗くなって背後に「ゴゴゴ」って擬音が聞こえる気もするが、きっと気のせいだろう。
「あと、脱いだ時の印象も全然違います。マカダミア様は、脱いだら凄いんですよ、矯正下着で隠していますが、腹回りの肉とかよく16歳でそこまで蓄えたなって感心できるレベルです。もしも王子がその手のフェチなら、たまらないでしょうね。逆にピーナ様は、今つけている長手袋を脱がしたりしても全然興奮できないと思いますよ。もともとは白魚のようなお手だったのに、体罰や水仕事で荒れてしまっていますから。もちろん、お若いので適切なケアを受ければすぐに治る範疇ですけどね」
「そうかそうか……君、面白いね。よければメイドと言う立場から見たこの家の現状を、できるだけ正確に教えておくれ。ピーナの父は、命と引き換えに本隊を逃がし国を敗戦の危機から救った功労者でね。もしもミクス伯爵家が不当に詐取されているようなことがあれば、王家としても見過ごせないんだ」
実はこのやり取りの途中でマカダミアは、「王子、誤解です!このメイドは嘘をついています!」とか言っていたんだけど、今は王子の側近に口をふさがれている。そりゃそうだよな、いくら私がメイド風情とはいえ、王族にきかれたことに応えている最中に横やりを入れちゃあいかんよ。
それに失礼しちゃうな、私は正直者のメアリーさんだぞ。
10歳の時、文字のおけいこを「頭はガンガン、喉はイガイガ、胸はボインボインでポンポンはペインペインだから休みます」って嘘ついてサボった際、尻をバシンバシン叩かれて以降は、一度も嘘をついたことがないのだ。
まあ、文字をかけないと思われているのをあえて否定しなかったり、苦手なものをスパイしていることをピーナ様に書面で伝えたうえで「言ってません」という叙述トリックを使ったりは、度々したけれど。
さてさて、王族に『正確に教えてくれ』と命令された以上、隠し事はできませんなぁ。
雇い主の意向とは異なるかもしんないけど、父の教えも法律優先だし、そして何度も言っているように私は一番自分が可愛いからなぁ。
あと今回、分の良い賭けと思ったとはいえ、可愛い自分の良心が痛まないために危険なギャンブルをかましたくらいには、ピーナ様のことも気に入っちゃっていますしなぁ。
「でしたら、ぜひこのメモ帳をご確認ください。後見人家族の数々の不正の記録、使用人たちの証言などが時系列で記録されています。あと機密書類の隠し場所も書いていますよ。」
◇
その後、王子の権限でピーナ様と私はその場で保護された。
それと同時に護衛達による家宅捜索の手が入り、後見人一家の三人は連座で全員が爵位剥奪された上で幽閉されることとなった。長い懲役になるそうだ。
その間にピーナ様は18歳の誕生日を迎え成人。後見人不要の女主人として、家督を継いだ。もちろん若輩で経験不足ゆえに至らぬところも多いようが、王家から優秀な人材が派遣されフォローしてくれている。
あとこれは余談が、私の父親のけがも治り、十全に動けるようになった。
それと、過日首になったベテランメイドさんが再雇用されたりして、私たち使用人の労働環境も劇的に改善したころ、再度王子が訪ねてきた。
あと、なんかキラキラした格好した私と同じ年くらいの奴もいる。最近、巷で将来有望だとウワサされている弟とかかな?王子と顔も似ているし。
なんでも、王位継承はまだまだ先だが、近日中にピーナ様と結婚することが正式に決定したらしい。おめでたい!
それと、もう一つ相談したいことがありわたしも同席してほしいそうな。なんぞ?専属メイドとして呼ばれたんだとおもうけど、あんまり役に立てやしないと思うぞ。
まあ、色んなことを勝手に決めずに、きちんとピーナ様の意向を聞こうとするだけ、王子はいい人だと思っておこう。特別に茶葉をちょっとだけ多めに入れるサービスをするのもやぶさかではない。
「それで、私としてはメアリー嬢には弟の婚約者になってもらいたいと思っているのだが、どうだろうか」
「まあ、それは嬉しい。わたくしとしても、ぜひそうして頂きたいですわ。」
いや、待って待って?!
そりゃあ無理だって。だって私、しがないメイドだよ。
王族と結婚するには確か、男爵令嬢以上の身分が必要でしょう?
「ああ、伝えるのが遅くなって済まないね。戦後処理の関係で報酬を出すのがすっかり遅くなってしまったが、騎士爵だった君のお父上は、ピーナの父上の部隊で分隊長として重傷を負いながらも任務を完了させた功績で、男爵へと陞爵することが決定したよ。おめでとう、君は今後、男爵令嬢だ。」
「いや、ちょっ。光栄すぎる話ですが、流石に力不足でしょう!?」
思わず王子に突っ込んでしまったが、思わぬ方向から横やりが入る。
「あら、あなたは14歳にして機転を利かせて私の事を救ってくれたわ。それに不正の証拠や使用人達から証言も纏めてくれていたでしょう。貴女が義理の妹になってくれるなら、私としてもとても心強いわ。」
「だそうだよ。加えて言えば、早急に視察に来るように匿名で僕に手紙を出したのもキミの仕業だろう?メイドの身分であったのに、王族にダイレクトに手紙を届けられるなんてすばらしい手腕じゃないか。」
うお、2人がめっちゃぐいぐい距離を詰めてくる。
近い近いそしてどちらも顔が良い!
それと第二王子
「ねえ……正直に言ってほしいんだけど、君は将来王族になってピーナ様や兄上や……僕と仲良くとやって行くことは、嫌かい?」
こ、コイツも顔がいいな……
「もちろん、婚約者として時間をかけて僕のことを見定めてくれたらいいよ。気に入らなければ、そこで婚約破棄してくれても構わない。」
そして頭も性格も良さそうだ……
正直、今回の件はたまたまうまくいったことの方が多い。三人からの評価は過大なものだ。
だから本来であれば謙虚に断るべき場面かも。
が、なにせアタシは正直メアリー。
自分の気持ちに嘘はなんてつけません。
そしてわが身が一番可愛い女だ。
「い、嫌じゃない……皆さんと一緒に幸せになりたい、です」
アタシの名前はメアリー
職業は第二王子の婚約者。年は15歳。
女ざかりの幸せガールよ、うっふん
あとがき
アタシの名前はいのりん。
読者の皆様にいつもお世話になっている
男盛りの幸せガール(♂)よ。うっふん。
読んで下さった方、ポイントを入れて下さる方、いいねを押して下さる方、ブクマして下さる方、素敵な感想を下さる方へ
心からの感謝を申し上げます。
いつも、凄く嬉しく、励みになっています。(*´ω`*)
5/29追記
とっても素敵な感想を頂いちゃった♡アドバイスを参考にラストを少し書き直したわ。読後感が良ければ、それは高瀬あずみ先生のお陰よ。先生のお話とっても面白いから、よかったら皆も読んでみてね。うっふん。