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ゴブリンチャンピオンとの舞踏会


ロブとハンスが洞窟の奥へと進んでいく頃、リーゼは、彼らが向かったと思われる横穴にたどり着いていた。


リーゼは、横穴の入り口で立ち止まり、地面に残された足跡を確認した。


新しい足跡だ。複数の人間のもの。

彼女が探していた痕跡だ。


誰か――おそらく、ロブとハンスが、既にこの中に入った形跡を確認すると、リーゼは微かに口元を緩めた。


そして、まるで散歩でもするかのような、軽やかな足取りで横穴の中へと入っていった。

彼女の背中に背負われたスリングショットが、揺れる。



巣穴の中、広間は、ゴブリンでごった返していた。しかし、彼らの動きはどこか慌ただしい。


「ゲコゲコッ!」「ギィギィ!」


ゴブリンたちの鳴き声が響き渡る。


広間の入り口近くで、ハンスがメイスを構えて立っていた。


正面から襲ってくるゴブリンを、次々とメイスの一撃で殴り倒していく。

彼の巨体とメイスの威力は、ゴブリンたちにとっても脅威だ。


「ったく……数が多すぎるぞ!」

ハンスは、襲い来るゴブリンを薙ぎ払いながら、ため息をついた。


しかし、ハンスのもとまで来るゴブリンは、思ったよりも少ない。


それは、広間から聞こえてくる、さらに激しい戦闘の音のせいだった。



広間の中央では、ロブが文字通り『踊って』いた。


ゴブリンたちの攻撃を、華麗なステップで躱し、ダガーや格闘で次々とゴブリンを倒していく。


彼の動きは、まるで舞踏でも見ているかのようだ。

ゴブリンたちの鈍重な動きとは対照的に、ロブの動きは速く、しなやかで、そして美しい。


ロブの『踊る』ような攻撃によって、ゴブリンたちは為す術もなく倒れていく。


あっという間に、巣穴にいたゴブリンの四分の一ほどが、ロブの手によって倒された。


その様子を、巣穴のさらに奥から見ていた存在がいた。


ゴブリンたちの王、ゴブリンチャンピオンだ。他のゴブリンよりも圧倒的に大きく、全身に傷跡があり、使い込まれた鎧を身につけている。


見かねたのか、ゴブリンチャンピオンが動き出した。彼は、近くにいたゴブリンを掴み上げると、ロブとハンス目掛けて投げ飛ばしてきた。


それは、まるで投石器のような攻撃だった。


「うわっ!」

ハンスは、飛んでくるゴブリンをメイスで叩き落とす。鈍い音と共に、ゴブリンは地面に叩きつけられた。


ロブは、飛んでくるゴブリンを、華麗な跳躍で避ける。そして、ニヤリと笑いながら軽口を叩く。

「へっへっへ、助かるぜ。俺が倒す手間が省ける」


ゴブリンチャンピオンは、さらにゴブリンを掴み、投げ飛ばしてくる。


ロブは、飛んでくるゴブリンを避けつつ、ゴブリンチャンピオンの攻撃をいなしながら、巣穴の奥を目指した。彼の目的は、ゴブリンチャンピオンを倒すことだけではない。


広間の奥にたどり着くと三人の人間が縛られているのが見える。

彼らは、まだ無事なようだ。


ロブは、ゴブリンチャンピオンの攻撃を避けながら、捕らえられている三人の側までたどり着いた。

彼らは恐怖に震えていた。


ロブは、腰から予備のダガーを一本抜き、1人に投げ渡した。

「これを使え。手足の縄を解いて、奥の部屋に隠れてろ。」

ロブは、短い言葉で指示を出した。


三人は、ロブの言葉に頷き、震える手でダガーを拾い上げ、手足の縄を解き始めた。


その間も、ロブは投げ飛ばされてくるゴブリンを、正確な蹴りでいなしている。


ゴブリンは呻き声を上げて吹き飛ぶ。


三人が奥の部屋に隠れたのを確認すると、ロブは向きを変え、ゴブリンチャンピオンへと向かっていく。


ゴブリンチャンピオンは、ロブに獲物を奪われたことに怒り、咆哮を上げた。

そして、巨大な身体でロブに襲いかかる。


ロブは、ダガーを構え直し戦う。


巨大な爪、牙、そして棍棒のような腕。

ライブベアーほどではないが、ゴブリンチャンピオンの攻撃も強力だ。


しかし、ロブは全く苦戦していない。


ゴブリンチャンピオンの攻撃を、紙一重で避け続ける。


その動きは、まるで優雅な『スロー』を踊っているかのようだ。

相手の攻撃の軌道を読み、最小限の動きで回避する。


そして、反撃。


ロブは、ライブベアー戦で学んだことを活かす。

相手の硬い身体に、まともに攻撃しても意味がない。狙うは、弱点だ。


ロブは、ダガーでゴブリンチャンピオンの足を重点的に狙った。特に、踵や膝裏。身体を支える重要な部分だ。

素早い動きで懐に潜り込み、ダガーを突き立てる。


ズブリ! ズブリ!


ゴブリンチャンピオンは、足に激痛を受け、バランスを崩す。ロブはさらに攻撃を続ける。


足元が不安定になったゴブリンチャンピオンは、立っていられなくなり、膝をついた。


その隙を、ロブは見逃さない。


闘技場の片隅に、倒されたゴブリンが落とした手斧が転がっていた。


ロブはそれを拾い上げると、膝をついたゴブリンチャンピオンの首目掛けて、渾身の力で振り下ろした。


ガキンッ!


手斧は、ゴブリンチャンピオンの首に浅く食い込んだ。

完全に断ち切ることはできず致命傷にもなっていない。ゴブリンチャンピオンは、呻き声を上げながら、まだ生きている。


ロブは、手斧を首に食い込ませたまま、高く跳躍した。

そして、ゴブリンチャンピオンの首目掛けて、そのまま降りる。


ドォン!


ロブは、手斧の柄の上に正確に着地した。


その体重と落下による衝撃が、手斧をさらに深く、ゴブリンチャンピオンの首へと食い込ませる。


グチャリ、という嫌な音と共に、ゴブリンチャンピオンの首が、胴体から完全に切り離された。


短い、一瞬の断末魔が響き、ゴブリンチャンピオンは動かなくなった。


ゴブリンたちは、自分たちの王が倒された光景を見て、動揺した。彼らの動きが止まる。


ロブは、倒れたゴブリンチャンピオンの首の上に立ち、煙草に火を点けた。


紫煙が、巣穴の薄暗い空気の中に揺らめく。


そして、ロブは、煙の揺らめきのように、残りのゴブリンたちへと向き直った。


彼らの動きは鈍い。


ロブは、もはや彼らに興味はない。ただ、早くこの場所を終わらせたいだけだ。


ロブは、残りのゴブリンたちを、次々と倒していく。その動きは、もはや『踊り』というよりは、ただの作業だった。


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