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消える金貨と新たな依頼


身体の重さを感じながら、ロブは目を覚ました。

窓の外は、もうすっかり陽が高くなっている。


「……起きたか」ハンスの声が聞こえる。

彼は既に身支度を終え、窓辺で外を眺めていた。


二人は部屋を出て、宿の食堂で簡単な昼食(もしくは遅めの朝食)を摂った。硬いパンと、具の少ないスープ。夢見た豪遊とは、あまりにもかけ離れた現実だ。


「さて、どうする?」

ハンスがスープを啜りながら尋ねた。


「どうするって、次の街に行くだろう」

ロブは気だるげに答える。


「次の街と言っても、この街から一番近い大きな街は、ここから数週間はかかるぞ。街道を外れて近道を探すか? それとも、いっそのこと、首都まで行くか?」

ハンスが提案する。


「首都? どこだそれ?」

ロブは首を傾げる。


「この国の中央にある、一番大きな街だ。依頼も多いと聞く」

ハンスが説明する。


「へぇ……首都か。面白そうだな。どれくらいで着くんだ?」

ロブは少し興味を示した。


「どれくらい……? 馬車で街道を行けば、数週間どころじゃない。数ヶ月はかかるだろうな。道中で稼ぎながら進むとしても、半年は見ておいた方がいいかもしれない」

ハンスは真顔で答える。


「数ヶ月!? そんなにかかるのかよ!」

ロブは驚いた。


「当たり前だろう。地図を見ろ」

ハンスは懐から地図を取り出そうとする。


「いいよ、いいよ。見なくても分かった」

ロブは面倒くさそうに手を振った。

「じゃあ、転移門を使うか? 首都までならあるだろう?」


ハンスは、ロブの言葉に呆れた顔をした。

「転移門? お前、何を言ってるんだ。転移門を使うのに、どれだけ金がかかると思ってるんだ? しかも、荷物が多いとさらに高くなる。今の俺達に、そんな金があるわけないだろう!」


「ちぇっ……そうかよ」

ロブは落胆した。転移門は便利だが、金がかかるのが難点だ。


「仕方ない。まずはこの街で、次の街までの旅費を稼ぐぞ。依頼を探しに行くぞ」

ハンスは立ち上がった。


「へいへい」

ロブも渋々立ち上がる。


二人は宿を出て、再び冒険者ギルドへ向かった。


昼間のギルドは、朝よりもさらに多くの冒険者で賑わっている。依頼掲示板の前には人だかりができている。


ハンスは掲示板に近づき、依頼内容を確認し始めた。ロブは少し離れた場所で、壁にもたれかかり、煙草に火をつけた。紫煙を吐き出しながら、周囲の冒険者たちの様子を観察する。


「おい、ロブ。この依頼はどうだ? 報酬もそこそこ良いし、難易度も高すぎない」

ハンスが、掲示板の隅に貼られた一枚の依頼書を指差した。それは、近くの森の探索依頼だった。

行方不明になった商人を捜索するという内容だ。


ロブが依頼書に近づこうとした、その時だった。


一人の女性が、素早くハンスの横を通り抜け、その依頼書を掲示板から剥がし取った。


彼女は、斥候のような軽装に身を包んでいる。

背中には、珍しいボルトを装填するタイプと思われるスリングショットを背負っていた。その動きは俊敏で、無駄がない。


女性は依頼書を手に取ると、そのまま受付カウンターへ向かおうとした。ハンスは突然のことに呆然としている。


「おい、ちょっと待てよ」ロブが思わず声をかけた。


女性は立ち止まり、ロブの方を振り返った。

彼女の顔は、整っているが、どこか冷たい印象を受ける。そして、その目は、ロブの顔をじっと見つめた。まるで、何かを確認するかのように。


ロブは、その視線に一瞬、既視感を覚えた。どこかで会ったことがあるような……。しかし、すぐにその感覚は消えた。


女性は、ロブの顔を見つめた後、何も言わずに向き直り、そのまま受付カウンターへと向かっていった。

その足取りには、一切の迷いがない。


「……なんだ、あいつ」

ハンスが呆然と呟いた。


「横取りされちまったな」

ロブは肩を竦めた。あの女性の素早さと、一切躊躇しない態度に、ロブは少しだけ興味を引かれた。

しかし、それ以上の感情は湧かない。


「ったく……せっかく良い依頼を見つけたのに」

ハンスは悔しそうに言う。


ロブは、先ほどの女性の顔を思い出すがやはり心当たりはない。


仕方なく、二人は別の依頼を探すことにした。


報酬は少ないが、確実にこなせる依頼。

それは、街から二、三日かかる村で、最近出没するようになったゴブリンの群れを駆除するというものだった。


「まあ、これなら確実に稼げるだろう」

ハンスはため息をつきながら言った。


「ゴブリンか……つまらねぇな」

ロブは不満そうだが、他に選択肢はない。


依頼を受注し、二人は馬車に乗り込み、ゴブリンが出没するという村へ向かった。

二、三日の旅路だ。街道を進み、森の中の道へと入っていく。


村に到着すると、村長から詳しい話を聞いた。

ゴブリンは村の近くの森に巣を作っており、村の家畜を襲ったり、畑を荒らしたりしているという。


ロブとハンスは、早速森へ向かう。

ゴブリンの駆除は、彼らにとっては慣れた仕事だ。


ロブはダガーとで、ハンスはメイスで、次々とゴブリンを倒していく。


危なげなく、あっという間にゴブリンの群れを掃討した。


討伐の証拠として、ゴブリンの耳の先をいくつか切り取る。


それは、ギルドで報酬を受け取るために必要な手続きだ。


村に戻り、村長に報告した。村長は二人に深く感謝し


「本当に助かりました。これで安心して暮らせます」

村長は何度も礼を言った。


「気にすんなよ、じいさん」

ロブは気楽に答える。


「また何か困ったことがあれば、ギルドに依頼を出してください」

ハンスは丁寧に答えた。


村を後にして、二人は再び馬車に揺られて街へ帰る。行きよりも荷は軽いが、気分はそれほど晴れない。


街道を戻っている途中、後ろから慌てた様子の馬車が追い越してきた。


それは、若い冒険者たちのパーティーだった。

顔には緊張と焦りの色が浮かんでいる。おそらく、街で受けた依頼で、何かトラブルに巻き込まれたのだろう。


「おいおい、慌ててるな」

ロブが呟いた。


「新人だろうな。無茶な依頼でも受けたか」

ハンスが言う。


二人は、慌てて通り過ぎていく新人冒険者たちの馬車を、微笑ましく思いながら見送った。

自分たちにも、あんな時代があっただろうか。

いや、最初からこんな感じだったかもしれない。


特に気にも留めず、彼らの馬車はゴトゴトと音を立てて進む。夕暮れが近づき、空が茜色に染まり始めている。


街は、もうすぐそこだ。ギルドで報酬を受け取り、そしてまた、次の依頼を探す。


金は少ないが、旅は続く。


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