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エルドリアの拾い物


馬車は商都エルドリアの門をくぐった。


高い城壁を抜け、街の中へ足を踏み入れると、そこはまさに別世界だった。


石畳の道には馬車や人々が行き交い、活気あふれる声が響き渡る。

色とりどりの看板が並び、様々な匂いが混じり合っている。


賑やかで、そしてどこか慌ただしい雰囲気だ。


門のすぐ近くで馬車を止め、おじいちゃんを下ろした。


「本当に助かったよ、兄さんたち。おかげで無事に街まで来られた」

老人は、足を庇いながらも、深々と頭を下げた。


「気にするなよ、じいちゃん。困った時はお互い様だろ?」

ロブは気楽に答える。


「そうだ、じいさん。足が治るまで無理はするなよ」

ハンスも優しく声をかけた。


「ああ、ありがとう。この恩は忘れないよ」

老人はそう言って、ゆっくりと街の中へと歩き出した。二人は、その姿が見えなくなるまで見送った。


「さて、どうする?」

ハンスが尋ねる。


「まずはギルドだろう。面白そうな依頼がないか確認して、それから安い宿でも探すか」

ロブは煙草に火をつけながら言った。


商都エルドリアの冒険者ギルドは、街の規模に合わせて、これまでの街で見てきたものよりも遥かに大きかった。


多くの冒険者が出入りしており、活気に満ちている。


ギルドの受付カウンターへ向かうと、一人の子供が受付嬢に何か訴えかけているのが見えた。


まだ幼い、十歳くらいの男の子だ。顔には涙の跡があり、必死な様子で話している。


「お願いです! おじいちゃんを探してください! 昨日から帰ってこないんです!」

子供の声が、ギルドの中に響く。


受付嬢は困った顔をしている。

「坊や、それは困るけど……冒険者に依頼するには、ちゃんとした手続きが必要だし、それに、君だけでは依頼を受けられないんだよ。それに、おじいちゃんを探す依頼だと、報酬もそんなに出せないでしょ?」


「お小遣い、全部出します! だから、お願いです!」

子供は、握りしめた手の中から、わずかな硬貨を見せた。


周囲の冒険者たちは、子供の必死な様子を見ているが、誰も声をかけようとはしない。


子供の依頼では、危険に見合わない上に、報酬も期待できないからだろう。


ロブとハンスは、その様子を横目に、自分たちの用事を済ませようとした。


ハンスが受付嬢に声をかけ、依頼掲示板の確認と、街の安い宿について尋ねる。


ハンスが受付嬢と話している間、ロブは壁にもたれかかり、煙草を吸いながら、子供の話に聞き耳を立てていた。


子供の言葉が、彼の耳に引っかかる。


「……昨日から帰ってこない……川に釣りに行ったって言ってたのに……」


川に釣りに行った。昨日から帰ってこない。


ロブの脳裏に、今朝、街道の脇で助けた老人の姿が浮かんだ。足を挫いて歩けなくなり、川に釣りに行った帰りだと言っていた。


ロブは、煙草を咥えたまま、子供に近づいた。

「おい、坊主」

ロブは子供に声をかけた。


子供は、突然声をかけられて驚いた顔でロブを見上げた。


微かな泥の匂いと染み付いた血の匂いが微かにする、細身の男。その顔には、どこか気だるげな笑みが浮かんでいる。


「じいちゃん、川に釣りに行ったって言ってたのか?」

ロブは尋ねた。


子供は、警戒しながらも頷いた。

「うん……」


「昨日から帰ってこないのか?」


「うん……」


ロブは、子供の顔をじっと見つめた。そして、確信した。この子供の祖父は、自分たちが助けた老人だ。


「お前のじいちゃん、足を挫いて歩けなくなってたぜ。俺達が馬車に乗せて、この街まで送ってきたんだ」

ロブは、淡々と事実を告げた。


子供は、ロブの言葉に目を丸くした。

「本当!? おじいちゃん、無事なの!?」


ハンスも、ロブと子供の会話に気づき、近づいてきた。

「どうした、ロブ?」


「この坊主のじいちゃん、俺達が今朝助けた老人だぜ」

ロブはハンスに説明した。


ハンスも驚いた顔をした。

「そうなのか? それは良かった。無事だったんだな」

ハンスは子供に優しく話しかける。

「坊や、おじいさんは無事だよ。足を怪我していたから、ゆっくり帰っているのかもしれない。心配ない」


子供は、二人の言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべた。

「よかった……! ありがとうございます!」


「だから、もう心配するな。家に帰って、じいちゃんの帰りを待ってな」

ロブは子供の頭を軽く撫でた。


「うん! ありがとう、お兄さんたち!」

子供は元気を取り戻し、ギルドの出口へと走っていった。


子供を見送りながら、ハンスが言った。

「まさか、あのじいさんの孫だったとはな。世間は狭いもんだ」


「へっへっへ、これも何かの縁ってやつか」

ロブは笑った。


ギルドでの用事は済んだ。


面白そうな依頼は、今のところ見当たらない。安い宿の場所だけ教えてもらい、二人はギルドを後にした。


街の通りを歩きながら、宿へ向かう。

昼間の街は賑やかで、様々な音が耳に飛び込んでくる。


「しかし、こないだのあの女ディーラーは、いい女だったな」

ロブが突然、昨夜の出来事を思い出したかのように言った。


「ああ? ああ、あの賭場の女か。確かに美人だったな」

ハンスは答える。


「ああいう女は、危険な匂いがするぜ。まるで、誘惑の『タンゴ』でも踊ってるみたいだったな」

ロブは、賭場の女性ディーラーを思い出しながら呟いた。


「ふん。いい女だが、俺の好みじゃねぇな。ああいう裏のある女は、面倒事に巻き込まれるのがオチだ」

ハンスは現実的なことを言う。


「へっへっへ、まあ、お前らしいな」

ロブは笑った。


二人は顔を見合わせ、そして、あの女性ディーラーに金を巻き上げられたことを思い出し、苦笑いしながら笑い飛ばした。


宿は、ギルドから教えてもらった、街の片隅にある安宿だった。

古びてはいるが、清潔そうだ。


「よし、今日の宿はここにするか」

ハンスが言った。


「ああ。風呂はあるのか?」

ロブが尋ねる。


「あるらしい。まあ、公衆浴場ほど広くはないだろうがな」

ハンスは答える。


宿に入り、受付で部屋を取る。部屋は狭いが、二人で泊まるには十分だ。


荷物を部屋に置き、一息つく。


窓の外を見ると、街の喧騒が聞こえてくる。


商都エルドリア。この街で、彼らはどんな『踊り』を見つけるのだろうか。


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