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旅路の拾い物


街を出て、馬車は再び街道を進む。


先日の賭場での出来事は、二人の財布を空っぽにしただけでなく、心にも重い影を落としていた。


しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。彼らは旅人であり、冒険者なのだ。


午前になり、陽が高く昇るにつれて、二人の気分も少しずつ上向いてきた。

馬車の揺れに合わせて、ロブが突然、鼻歌を歌い始めた。


「♪金貨がジャラジャラ、ワルツを踊る~」


ハンスもそれに釣られるように、適当な歌詞で続く。


「♪報酬はどこへ~、消えちまった~」


「♪沼地の牙は~、硬かった~」


「♪賭場の女は~、美人だったが~」


「♪金はどこへ~、金はどこへ~」


二人は、適当な歌詞を繋ぎ合わせながら、馬車の上で声を張り上げて歌った。


それは、決して上手い歌ではなかったが、どこか滑稽で、彼らの今の状況を皮肉っているかのようだった。歌っているうちに、先日の落胆が少しだけ薄れていくのを感じる。


街道をしばらく進んでいると、道の脇に座り込んでいる人影が見えた。


近づいてみると、杖を傍らに置き、顔を歪めている老人だ。


ロブは馬車を止め、声をかけた。

「じいさん、大丈夫かい? どうしたんだ?」


老人は顔を上げ、二人の姿を見た。

「おお、旅のお方か。すまんな、道の真ん中で。川に釣りに行った帰りでな、足を挫いてしもうて、どうにも歩けんのだ」


老人の足元には、魚を入れた籠が置いてある。

確かに、釣り帰りらしい。


ロブはハンスと顔を見合わせた。

「そいつは大変だ。どうだい、俺達の馬車の荷台で良ければ、次の街まで乗せてってやるが?」


老人は、ロブの言葉に目を丸くした。

「なんと! それはありがたい! 助かるよ、兄さんたち」

老人は、感謝の気持ちを込めて、籠から魚を数匹取り出した。

「これはほんの気持ちだが、釣れた魚を分けよう」


「おお、それは助かるぜ」

ロブは魚を受け取った。


ハンスは馬車から降り、老人に肩を貸した。

「さあ、じいさん。ゆっくりどうぞ」


老人はハンスに肩を借り、痛む足を庇いながら、ゆっくりと馬車の荷台によじ登った。

荷台は少し狭いが、座るには十分だ。


ロブはハンスと運転を交代し、手綱を握った。


ハンスは荷台に乗り込み、老人の足元を診て、簡単な手当てを始めた。


「骨は折れてなさそうだが、捻挫だな。しばらくは安静にした方がいい」

ハンスは手際よく、持っていた包帯で老人の足を固定する。


「助かるよ、兄さん」

老人は痛みに耐えながら礼を言った。


馬車は再び進み始めた。ロブが手綱を握り、ハンスは老人の隣に座って話を聞く。


「じいちゃん、どこまで行くんだい?」

ロブがおじいちゃんに尋ねる。


「次の街までじゃ。この街道をまっすぐ行けば着くはずじゃが……」


「次の街か。俺達もそこへ行くんだ」

ハンスが言った。

「次の街は『商都エルドリア』だったか? 大きな街だと聞いている」


「おお、そうじゃ。エルドリアじゃ。大きな街で、人も多いし、色々な物がある。賑やかな街じゃよ」

老人は、エルドリアについて説明してくれた。


「へぇ、商都か。面白そうだな」

ロブは興味を示す。


「このペースだと、夕方には着くだろう」

ハンスは馬車の速度と距離を計算する。


老人は、自分がこの辺りの村に住んでいて、趣味で釣りをしていること、家族はいるが皆忙しく、一人で釣りに出かけることが多いことなどを話してくれた。


ハンスは相槌を打ちながら、優しく話を聞いている。ロブは運転しながら、時折会話に加わる。


しばらく進んだところで、ハンスが休憩を提案した。

「そろそろ昼飯にしよう。じいさん、腹減っただろう?」


「おお、そうじゃな。腹が減ったわい」

老人は頷いた。


馬車を道の脇に止め、二人は昼食の準備を始めた。


ハンスは焚き火を起こし、老人から分けてもらった魚を串に刺して焼き始めた。

ロブは持っていたパンや干し肉を取り出す。


パチパチと焚き火の音が響き、魚の焼ける香ばしい匂いが漂う。焼きたての魚は、シンプルだが美味しかった。


「うまいな、じいちゃん。ありがとう」

ロブは魚にかぶりつきながら言った。


「いやいや、こちらこそ助けてもらって感謝しておる」

老人は嬉しそうに笑った。


「この魚は新鮮で美味いな、じいさん」

ハンスも魚を味わいながら言った。


昼食を終え、再び出発の準備をする。


老人は、改めて二人に感謝の言葉を述べた。

「本当に助かったよ、兄さんたち。ありがとう」


「気にすんなよ、じいちゃん。困った時はお互い様だろ?」

ロブは気楽に答える。


「そうだ、じいさん。足が治ったら、また釣りに行けるさ」

ハンスも優しく言った。


老人を荷台に乗せ、二人は再び馬車を進ませた。

街道は緩やかな上り坂になり、周囲の景色も少しずつ変わっていく。


しばらく進むと、遠くに、大きな街の輪郭が見えてきた。

高い城壁と、その向こうに立ち並ぶ建物群。それが、商都エルドリアだ。


「見えてきたな、次の街が」

ハンスが言った。


ロブは手綱を握りながら、遠くの街を見据えた。

「ああ。商都エルドリアか……。どんな『踊り』が待ってるかな」


彼の左眼が、期待の色を宿して輝いた。


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