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鉄屑は金貨で踊る


闘技場の中央に、巨大なライブベアーが倒れている。その上に立つロブは、ため息とともに煙草に火をつけた。

観客席からは、割れんばかりの大歓声が響き渡っている。

最高の『踊り』だったとは言えないが、まあ、悪くはなかった。


ロブが闘技場から出ると、観客席の通路でハンスが待ち構えていた。


ハンスの顔は、興奮と喜びに満ちている。


「ロブ! やったな! お前、本当にすごいぜ!」

ハンスはロブの肩を掴み、興奮気味に揺さぶった。


「へっへっへ、まあな」

ロブは気だるげに答える。


「しかもだ! 俺は賭けにも勝ったんだぞ! お前が勝つ方に、残ってた金全部賭けたんだ!」

ハンスは、握りしめていた空っぽの革袋をロブに見せた。


その時、ロタリオが二人に近づいてきた。

彼の顔もまた、興奮で紅潮している。

「ロブ! 素晴らしい戦いだった! まさか、ライブベアーをあんな風に倒すとはな! 観客も大満足だ!」


ロタリオは、ずっしりと重い革袋を二つ、ロブとハンスに差し出した。

一つはロブの闘士としての報酬、もう一つはハンスの賭けの賞金だろう。


ハンスは、ロタリオから革袋を受け取ると、すぐに中身を確認した。


ジャラジャラと金貨や銀貨が音を立てる。ハンスの目が、みるみるうちに輝きを増していく。


「おお! これは……! すごい! すごいぞロブ! 沼地の牙の報酬とは比べ物にならねぇ! これだけあれば、当分遊んで暮らせるぞ!」

ハンスは、革袋の中身を見て、子供のように喜んだ。


彼の顔には、先ほどの疲労や現実的な悩みは一切見られない。


ロタリオは、そんなハンスの様子を見て満足そうに頷いた。そして、ロブに向き直る。

「ロブ。お前のような腕を持つ者は、そうそういない。どうだ? この賭場の専属闘士にならないか? 毎日、好きなだけ戦わせてやるし、報酬も弾むぜ?」


ロタリオの誘いに、ロブとハンスは顔を見合わせた。


そして、まるで打ち合わせたかのように、声を揃えて答えた。


「「断る」」


ロタリオは少し驚いた顔をした。

「なぜだ? これだけ稼げるんだぞ?」


「俺は専属なんて柄じゃねぇんだ」

ロブは気だるげに言う。

「それに、毎日同じ場所で同じような奴と戦うなんて、退屈だろう?」


「そうだ。俺達は旅の冒険者だ。一つの場所に縛られるのは性に合わん」

ハンスも同意する。彼の頭の中は、既にこの大金で何をしようかという計画でいっぱいだ。


「そうか……それは残念だ」

ロタリオは肩を落とした。しかし、すぐに気を取り直す。

「まあいい。またこの街に来た時は、いつでも歓迎するぜ」


ハンスは、ロブの身体に目をやった。


ライブベアーとの戦闘で、細かい傷や打撲を負っている。

「よし、ロブ。少し傷を治しておくぞ」


ハンスは、ロブの傷口に手をかざし、回復魔法を唱え始めた。温かい光がロブの身体を包み込み、傷が癒えていく。


「あー、助かるぜ」

ロブは気持ちよさそうに目を閉じる。


ハンスは回復魔法をかけながら、手に入れた大金の使い道を考え始めた。

「これで、馬車の修理もできるし、新しい服も買える。美味い飯も食えるし、良い宿にも泊まれる。次の街までの旅費も十分だ。いや、その先の街まで行けるかもしれないな」


「へっへっへ、いいな。美味い飯と良い酒は外せねぇな」

ロブも嬉しそうだ。


傷が癒え、身体が軽くなったロブは、ハンスと共に賭場を立ち去ろうとした。


手には、ずっしりと重い革袋。足取りは軽い。


「さて、行くか」

ロブが言った。


「ああ」

ハンスも頷く。


二人が賭場の出口に向かおうとした、その時。


「おいおい、待てよ、兄さんたち!」

ロタリオが呼び止めた。


二人は振り返る。


「せっかく大金を手に入れたんだ。このまま帰るなんてもったいないだろう?」

ロタリオはニヤリと笑った。


「この賭場には、闘技場だけじゃねぇ。カードも、ルーレットも、ダイスもあるぜ。どうだ? もう少し遊んで行かないか?」


ロタリオの言葉に、ロブとハンスは再び顔を見合わせた。


そして、二人の顔に、食堂で見せたのと同じ、悪巧みをする時の笑みが浮かんだ。


「……いいな」

ロブが呟く。


「そうだな」

ハンスも同意する。


迷うこと無く、二人はロタリオの方へ向き直った。


「よし、行くか!」

ロブは意気揚々と、賭場の奥へと足を踏み出した。


「おい、ロブ! あまり無茶するなよ! せっかく稼いだ金なんだから!」

ハンスは小言を言いながらも、ロブの後を追う。その顔は、どこか楽しそうだ。


大金を手に入れた二人は、その金でさらに賭場の熱狂に身を投じていく。


鉄屑は、報酬という名の金貨で、これからワルツを踊る。

それが優雅に踊れるかは別の話だが。


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