9 『魂のゆくえ』
彼女のこの言葉のおかげで僕は幸せになるための努力を惜しまなくなった。自分の人生を否定することはなくなった。相変わらず人付き合いは苦手だし根暗なところは変わっていないが、自分のことを不幸な人間だとは思わなくなった。
どんなに辛いことがあっても励ましてくれる人は絶対いるのだと、わかってくれる人は絶対いるのだと、この広い世界で僕は一人じゃないのだと、信じられるようになった。
僕たちは色んな話をした。面白い話、くだらない話、そして大切な話も。話題は尽きなかった。
いつまでも彼女といられる気がした。それを信じて疑わなかった。だがそんな時間にも終わりがやってくる。
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およそ食料とも言えない食料も底を尽き、ろうそくもなくなり、僕らは何度めかの夜を迎えていた。とても深い闇が僕たちを包んでいた。この夜が僕たちにとって最後の夜になる。最後の時間になる。もしそうだとこのときの僕がわかっていたら、僕は彼女にどんな言葉をかけただろうか。今とは全然違う未来になっていたのだろうか。
僕たちは一つの命のように一緒にいた。
「お姉ちゃん」
「どうしたの?」
「僕、お姉ちゃんがいてくれたら他に何もいらない」
誰かに甘えることがこんなにも気持ちいいことだったなんて。この心地よさは間違いなく人を駄目にする。すべてを壊していく。
「お姉ちゃん、ずっと一緒にいてね」
暗闇のなかで彼女はどんな顔をしていたのだろうか。それは僕にはわからない。いやもしかしたらわかっていたのかもしれないけど。
そして彼女は「うん、ずっと一緒だよ」と小さな声で言った。だけどそれは嘘だった。彼女がついた優しい嘘だった。優しすぎる嘘だった。
「ありがとう、お姉ちゃん」
僕は彼女に抱かれながら、深い眠りに落ちた。
さようなら僕の大切な人。僕の初恋の人。