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1 『忘れないように』
これは僕が子どもの頃の話だ。十歳くらいの頃だった。今となってはぼんやりしているけど、しかし確かにあの邂逅は僕の記憶に刻まれている。
ずっと雨が降っていた。
思い返せば現実感がまるでなくて、あのときの自分は本当に自分だったのか疑いたくなるけど、でもあれは僕だった。彼女と出会ったのは僕だった。僕以外にありえなかった。二人で過ごしたあの奇妙な時間は僕と彼女のものだった。
こうして雨に打たれていると、薄れた記憶が少しずつ蘇ってくる。
──雨のときは、雨に打たれたほうがいいよ。
彼女はそんなことを言っていた。だから雨に打たれるたび僕は彼女のことをおぼろげに思い出す。記憶は美化されるものだとわかっていても、彼女の優しさや温もりは本物だったと信じたい。
あれが僕の初恋だったのだから。