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君は知るだろう――モブとは何たるかを

 




  ()()()()()()()()()()()――誰もが少なくとも一生に一度は思うことだろう。


 ある日。隣の席に美少女が転校してくるとか、何か特別な事件に巻き込まれたりとか、あるいは自分の隠れた才能を開花させるとか……千差万別、妄想は多岐に渡る。


 とはいえ、所詮は妄想。最後には虚しく消えていくというのが道理だろう。


 無論、その妄想と呼んだモノを実現させてしまう者も、逆に取り返しが付かない程に囚われてしまう者もいる為、断言は出来ない。


 しかし、大半は生きていく中で、現実を知り、それ故に放棄していく。


 現に俺もその一人で、三年前はカッコ良さを求めてか、要らぬところで逆張りをしたり、大して理解もしてない知識をひけらかしたりと――止そう、これ以上は俺が死にたくなってしまう。


 まあ、そんな恥ずべき痛い時代を過ごしていた俺も、高校受験を前にする頃にはありふれた()()()()A()()()になっており、つるんでいた面々とも疎遠になっていた。


 そして、痛い時代を過ごした反省故に、高校入学後は可もなく不可もない日々を送っている。


 結論、それが自分にとって一番、居心地の良いことだと理解したのだ。


 故に今一度、言わせてもらおう。


 俺は孤独を極めた者でもなければ、飛びぬけた優等生でもなく、広く浅い交友関係を持ち、彼女いない歴=年齢の――モブ(一般生徒A)である。





 小さな頃、巨大な人型ロボットに憧れた──それは只の空想の産物だった。


 アニメに出てくるキャラクターに憧れた──超能力も特別な才能なんてなかった。


 夢の無い話と言えばそれまでだが、その当時は確かに叶えたい夢だった。


 でも、夢というのは環境や年を重ねれば、簡単に移ろぐし、小さな子供の夢なんて尚更だ。


 俺もその例に漏れず、夢──否、妄想を抱いて散々と空回りしたし、他にも迷惑もかけた。


 そうして得たものといえば、痛いだけの黒歴史と、自分は特別でもない只のモブという現実のみだ。


 仮に俺が特別だったとしても、もう俺にそうなることは叶わない。


 俺は夢よりも現実を選んだからだ。


 現実が上手くいけばそれで良いと、ただ恩恵を甘受する事にした。


 誰もが選ぶ二択──多くの人が選んだ択を俺も選んだだけ。


 だから、俺にはなりたいものがない……いや、それすらも分からないでいる。


「あっ……死んだ」


 暗転したモニターに映る『YOU DIED』の文字。


 ……後、少しでボス倒せたんだけどな。


 深い溜め息と共にコントローラーを机に置くと、横の時計を見やる。


「三時か、もう少し粘ればいけそうなんだけど……」


 然れど明日は月曜日、週始めから遅刻するのは流石にによろしくない。


 だけど、攻略の糸口が見えた瞬間を逃すのも惜しい。


「いや、30分だけなら……動きは覚えてきたし」


 それは悪魔の甘言──だが、それほどまでに魅力的な言葉『ちょっとだけ』。


 自分に甘いと言えばそれまでだが、辛いことばかりでは人生は続かない。


 適度に自分を許すことこそが、成功の鍵だと誰かが言っていた気がする。


「よし……30分だけ。そうだ、30分だけなら……」


 コントローラーを再び手に取る──延長戦の始まりだ。


 そうして、白い霧の中へと俺のキャラは一歩、踏み出していった。


 無論、30分だけでもつ訳がなく、普通に4時、4時半と延長しても勝てなかった──つらい。






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