Subdata No.1_ 二人の捜索
「……どこにも居らへん……」
圭がそういいながら机に突っ伏しゴン、と鈍い音が聞こえ「どこやねん夏世~……」と呟く様子を見ながら圭が入れてくれた紅茶を飲む。……温かく、ほんのりレモンの酸っぱい味がするが美味しくて落ち着くな……レモンティーってやつだろうか? こういうオシャレな物は圭の方が知っているからな…。
…夏世が居なくなって1日がたった。というのに、警察はまだ動かない。……きっと、もっと重要な案件とやらを追っているのだろう。仕方ない事だがどうしても腹立たしく、どうしようもないくらいむなしい。
ふと気晴らしに視線をうごかすと、好みの物がうまく配置できず質素な上、生活感が無さすぎる所になってしまっている我が家だった、が……圭と夏世が来てからというもの驚くほど我が家は生活感が出た。
先週圭が取ってくれた好きなキャラのクレーンゲームのぬいぐるみが真っ白な引き出しの上。それと同時期にクジで自引きした推しキャラのフィギアが推し達を飾る棚へ。そして壁にかけられたコルクボードには三人で冗談半分で撮って大失敗したプリクラに「まずは機械に慣れる所から!」という夏世の文字、圭が書いた落書きの紙と大学の予定の紙が貼られていて……。
「……」
ギリッ、と手を握りしめると爪が手のひらに食い込むがそんなのもどうだっていいほど、焦っている。……二人と会ってからというもの、俺の世界はとても賑やかで……大切で大好きだ。……そしてこの部屋には「圭と夏世との記憶」が、あちこちに、鮮やかにある。
だからこそ、視線を動かすだけでも苦しい。
夏世が、昨日から行方不明…その事実は俺と圭に重くのし掛かっている。沢山の場所を探し回り、沢山の人に聞き込みをしたが大学も夏世の家族も、誰も夏世とは連絡が取れていなく、夏世の家…団地だからアパートと言うべきか? …まぁどうでもいいか。夏世の家に行ってみたが生活感のある夏世の部屋にも誰もいなかった。
「なぁ、おかしないか? 昨日から夏世と連絡全く取られへん上に夏世自分ん家にもおらんし…家族さんに連絡入れても知らんって言うたんや…なんか事件に巻き込まれとるんやないやろか……?」
少し涙を目に貯めながら圭がうなだれた。…俺も心配からかずっと血の気が引いている状態で気が張り詰めている気がする。
……手を強く握りしめすぎて手のひらに爪の跡が残り、ジンジンとほんのり熱く痛む跡にほんのり冷ややかな冷房が当たる……その痛みが、まるで、「自分の感覚に目を反らすな、これは現実なのだ」と、誰かから言われているようで…。
「……夏世……」
突然連絡もなくなり、既読もなければ大学にも来ていない。さらには家や実家にも居ないとなれば……何かがあったとしか考えられないがそういう連絡が来ているなら大学が終わった今の時間俺達にもそろそろ来ているはず。……なら、夏世は何かの事件に巻き込まれてるとしか思えない……。
「けど、夏世を誘拐してなんか利があるやろか? 夏世は確かに有名なゲーマーやからファンに監禁とかって可能性もある……でもそこまで個人情報は漏洩してへんやろ?」
首をかしげる圭にうなづき、改めてスマホを操作し夏世の過激ファンを調べてみるもそこまで個人情報を特定した人はさすがに居ない。
夏世も俺も圭も、情報はひた隠している上うまく誤魔化している。そこまでするようなファンがいれば以前から何らかの異変があるはず……でもその欠片もない。
「アレかなぁ……配信者捕まえて何かしたいんかな? やったら何か電話やらLIVEやらが始まっとるはずやし……」
うーん、と唸る圭の声を聴きながら調べていると、ふと気になる記事を見つけた。
「速報『星屑*CollarCage』に新しい要素が追加」?
…星屑*CollarCageは俺らが最近ハマっていて、この前夏世が配信でまだネットでも発見されてないエンドを見つけたやつだ。
……まさか、自分で未発見エンドを回収したい過激派の仕業か? いや、それならネットを検索しなければいい話だ。だが人は時に、過激になる。…ゲームごときでそんな事をするとは思えないが…可能性として、頭に置いておこう。
「ん? 夕何みとん?」
ぴょこ、と圭が顔を上げ俺のスマホを覗き込んだので、見やすくスマホを反対に持ち直す。
「……ほへぇ、星屑*CollarCageまた新要素きたんやな……ただでさえEndようさんあるのに、ようやるわ…」
苦笑しながら勝手に俺のスマホをスワイプして記事を読む圭に「相変わらず友人には普通だな」、と少し気が抜けて微笑む。
「……なんや一度ゲームプレイしてEnd見て、データ消さずにニューゲーム押したら主人公がそのEndまでを覚えてて、今までと違う感じになるんやって。凄いなぁ」
考えるなぁ、とこんな状況でも素直に驚く圭に冷静になりながら「……全部終わったら、またゲームしような」と言う。
どこに居るかもわからない、そんな夏世をどう探せばいいのかなんて……砂漠で針を見つける事よりも、そもそも針があるのかもわからない…そんな状態だが……それでも。
それでも、夏世が何らかの形で見つかるのであれば。また、どんな形になろうとも……三人で、ゲームをしたい。
「……そうやな。ヘコんでたらあかん、どんな結果になっても……きっと、またみんなでやろな!!」
そう明るく笑う圭に少し救われながら、今日もまた砂漠で針を見つけるように、少しでも証拠を探す。
夏世がたどったであろう、微かな情報や二人の記憶の夏世を頼りに。
絶対に見つけ出すと、圭と約束し昼までまた探すが、本当に情報がない。夏世は家に居た、としか思えないほど本当に何も掴めないのだ。
「……まだ2日や、頑張ろな!」
圭が辛さと疲れを飲み込み、無理やり笑ってそう言ってくれた。…本当に、圭の言葉はありがたい。
「……あぁ、頑張ろうな…」
この世界のどこかに、きっといるはずの夏世を……絶対に、探しだす。




