Save data No._? バグと既存の物語
事の発端はとある有名な魔法使いによる、ほんのささいな魔力爆発でした。
魔力爆発とは、魔法を使う際の魔力量を間違えて爆発してしまう事でして……そうですね、力加減を間違えて物を壊してしまうと例えたら分かりやすいでしょうか。
その事態だけだとこの世界ではよくある事なのです。魔法使いでさえ魔力とは扱いずらい物なので…。
…ただ、その使おうとした魔法が良くなかった。
その魔法が、「個人の力が目に見える魔法」。
ただ一時の間、その人の能力を見るための魔法だったはずのそれは…魔力爆発により世界中に影響を与えたのです。
能力に長けた人のみ髪色や目の色が変わり、戻る方法は未だ不明。
能力が日常的に目に見えてしまったせいであからさまな能力格差や迫害、戦争まで起きてしまう始末でして…。
そんな中、魔王と名乗る者も現れてしまい…今、世界中が大混乱に陥っております。
各国で戦争が多発。最近、西の国カーフィルでも戦争が起こってしまい、東の国は魔王討伐と意気込み過ぎ治安が悪く…そしてここ、レーベルク国は冒険者と騎士団を派遣する変わりに戦争には何も手出ししない…という中立を取りました。
―――★―――
「…と、いうのが今の世界の現状です」
ご理解頂けましたかな…と髭を触る神父さんを見て、もう一度地図を見る。
…待って? 今「西では戦争が起こってる最中」って言った…?
「嘘、だろ…」
思わずそう呟いてしまう。なぜならゲーム序盤、召喚された時にまだ西で戦争は起こっていなかったのだ。
まずい、非常にまずい。そもそも西の国カーフィルで戦争が起こるのはゲーム中盤で、起こるきっかけは国内で裏切り者が出たから。
プレイヤーが期限内に裏切り者がいる情報を聞き裏切ってる内容、裏切り者を突き止めると戦争は阻止できるが…もし期限内に裏切り者を突き止められないと戦争が起きる……という高難易度の隠しイベント。
これを阻止できると新しいルート追加&プレイヤーに対する世界的信用度が上がる…それが出来ない、という事は…既存ルート行き…?
という事は、今解明されてるルートの通りに僕が行動すると…リーシェ様と魔王のクレスはButEnd…!!
「やばい…今から動かないとマズイかもっ……!!」
僕はそう言うなりAIから貰った説明書をポケットから出して読む。何かヒントがある事を期待して。
説明書にはAIが言ってた世界観の説明と僕が今いるレーベル国の事が書かれ、最後の方に追伸と何かが書かれていた。
《追伸 : 今回清水様が巻き込まれたバグは相当な物でしたので、もしかすると召喚場所の教会から離れた所に出るかもしれません。
その場合、ストーリーや世界に大きなズレが生じてる可能性があります。
くれぐれもお気をつけを…》
「…」
読み終わり、僕は今凄く叫びたかった。ので頭を抱えて心の中で思いっきり叫んだ。
…思いっきりズレ生じてるんだよ!!!! これゲーム中盤の流れだよ!? どうするんだよ、ここからさ!!
「…キヨミズ様…?」
心配するような牧師さんの声でゆっくりと顔を上げ、悟りを開いて微笑む。
「…鬼畜ゲーって本当にあるんですね☆」
全員「?」という顔をしてるが、分からなくていいんだよ…なんせ未来にしかないゲーム言葉だからね………と開き直りとりあえず深呼吸して落ち着こう、と思いゆっくりと息をする。
吸って…吐いて………うん、落ち着いてきた。
「…とりあえず、事態が深刻な事は分かりました。今から色々準備したいのですが、僕の世界の、日本という国のお金はこれでして…」
そう言いながら僕は財布から日本円や紙幣を机の上へ並べていく。もしかしたら値打ちが付くかもしれない、と淡い期待を抱きながら。
「見たこともない物ばかりですね…キヨミズ様の世界でのお金、ですか…」
日本のお金をみて、唸る人達。…頼む、値打ちがあってくれ…! と静かに祈る。
「これは…紙? しかもこれほどまで精密な細工とは…」
「こちらはコインですかね…これまた細かい…」
思い思いにお金への感想を言われるのはなんだかカオス感満載だが仕方ない、見たことが無いものなら僕でもそうなる。
「芸術作品のように細かいですし、かなり値打ちがあると思われますよ。…その上、勇者様の国のお金とあればきっと高い価値がありますな」
ニコニコと神父さんにほっとして脱力する。それなら良かった、何とか生きていけそうだ………。
「国からの支援によりキヨミズ様にはある程度の生活が保証されるので、しばらくは金銭面を気にされなくとも大丈夫ですよ」
安心させるようなリーブラ様の言葉にさらにほっとして、そういえばそんな設定あったな…と今更思い出す。
ダメだ、やっぱりまだ頭が追い付いていない。そりゃそうだ。いきなりゲームのバグで召喚され、推しを前にしてる上ここは魔法も使える世界……ライトノベルやアニメの主人公にでもなった気分だ……。
ひとまずもう一度ゆっくりと深呼吸をし、思考を巡らせる。
これからどうしようか……まず確認するべきは、他の要素もゲーム中盤まで世界が進んでいるのか…だ。
魔物の強さ中盤以降なら半端ない…初心者&一般人な僕なんかでは太刀打ち出来なくて当然だし、ゲームオーバーに関わる。それだけは避けないと…!
しかも西が戦争を始めてしまった事で、大きすぎる問題が………。
「申し訳ございませんが…先程から少々キヨミズ様のお話の内容に追いつけず……どうかご指導をお願いできないでしょうか……」
ふと、困り果てた神父さんの言葉で思考が現実に戻される。あ、そうだ…そういえば僕のゲーム言葉のせいでこの人達たまに置き去りにしてた…と思いだし、苦笑してしまう。
「すみません、なんでもないんです」
にこ、と微笑んでこの場は誤魔化す。さすがにゲーム言葉を教えようにも、他の物で例えずらいから……。
「とりあえず、僕が寝泊まりする場所を教えてくれますか?」
―――★―――
「………こっ、ここが僕が泊まる所…?」
僕はそう呟いて、ネリス様を見る。
「ここには長い歴史の間、偉人や勇者様が泊まっていた所でな……長年使われていて古かったから国が建て直したんだ」
ネリス様の言葉で、だからこんなに綺麗なのか…と思いつつ家を見渡した。玄関なのにも関わらず薄いクリーム色の石床はピカピカで、恐らくアンティークであろう扉を開けようと歩けばコツコツッと軽い音を少し反響させ、床が出迎えてくれる。
「……」
息を飲み、ゆっくりと案外軽い扉を開けると、ふわりと温暖差で少しの風が部屋へ入る。
「……こっ…これは……!!」
ワインレッドのカーペット、重厚感のある革製の漆黒のソファー、異国の装飾が施された本棚にシックな壁と蓄音機から流れるレコードの音楽。
……空間全てが主人公が最初に通された、そしてこれからも使っていく…ゲームのせいでなんか実家感のある…いわゆる「最初の部屋」だった。
―その頃、地球では
夕視点―
「………夏世が来てない?」
次の講義の仕度をしていたら、突然圭が電話してきた。何かと思えば……あの夏世がサボる訳ないだろう。
「勘違いじゃないのか? 今日の講義は夏世が好きな天文がある、今ははぐれてるだけで会えるだろ」
そう思いながらスピーカーにし、サクサクと荷物を片付けてカバンとスマホを持つ。
「ちゃうねん! 俺今日な、朝から夏世と講義同じやってん……でも、でもな……」
「でも?」
慌てたような、焦ったような圭の言葉に真剣に耳を傾け、先をうながす。
「…落ち着いて聞きや。今日の講義中、一回も夏世見かけてへんねん…」
「……。…………は?」
真面目な圭の言葉に、一瞬で頭が真っ白になる。
「……いや、いやいや。あり得ないだろ? 休むなんて連絡も来てないし」
廊下の人通りが少ない所で立ち止まり、スマホをしっかり耳にあてる。
あり得ない、真面目な夏世に限ってそんな事……。……事故、とかの緊急な事がない限り…なんてマイナスな想像が頭をよぎり、咄嗟に考えを振り払うように頭をふる。
「俺も夏世がサボるなんてせぇへんって思って一応トイレとか見て、他の人にも聞いてん。でも何処にもおらんし警備員とか先生に聞いても夏世は来てへんし休む連絡もないって言うねんで? さすがに可笑しいやろ?」
夏世への心配で人見知りの圭が「他の人に聞いた」なんて普通に言うほどの緊急性に、背中に汗が伝いだんだん体の感覚が変になっていく。……なんで、夏世に限ってそんな……最悪は……起こらない…よな?
「っーー……」
……一番あり得るのは、車。煽り、飲酒、信号無視、うたた寝、誤作動、スピード違反……沢山の理由で毎月、もしくは毎週のように事故や事件を起こす鉄の物体。
もしくは、あの日のように誰かを助けるため…。
「…………ぅ」
………考えたくないが、もしも夏世がそうなったら…スマホが壊れたなら学生証から家族へ連絡がいく。当然、俺達友人への連絡は遅くなる……そう考えると、一番可能性がある物で……。
「夕!!」
電話越しの圭の声でハッと意識が電話へと戻された。……危ない所だった、悪い考えは思考も行動も制限する。
「……悪い。変な方向に考えてた」
圭に返事をして、ふぅ……と深呼吸をしてマイナスな感情と焦りを落ち着かせる。今は取り敢えず落ち着くしかない……。
「なんや、急に何も聞こえへんなったから焦ったわぁ……夏世が今どこにおるんか分からへんのに、夕まで急に居らへんなったら俺………嫌やで」
真面目に、少し震えた声で話す圭に「すまない、でもそれは俺もだ」と言い、取り敢えず「昼になったら食堂に集まろう」といい電話を切った。
どうしても心配で、一応夏世にメッセージを送り電話をかけた。……電話は電源が入ってないか、電波の届かない所に…と定義文を言った。メッセージの方も既読になってない。
「……夏世…」
どうしたんだよと聞きたくても本人は目の前にいなく、電話はさっきの通り。
充電切れでないかぎり電源が入ってないとしたら本当に事故にあった可能性もある。それとも誘拐か……?
「次の講義そろそろだぞ!」
「やぁだ、次って怖い教授じゃない!」
男性とじょせ…オネェが急ぎ足で廊下をかけていく。……俺もそろそろ行かないと、と思いスマホをなおして歩き出す。
「……」
今は講義なんてどうでもいいし、頭に入るわけがない。本当は夏世を今すぐにでも探したいくらいだが……そう簡単にはいかないし単位がついていけなくなる事だってある。
「取り敢えず……頼むから」
時間が早く過ぎて、大学から帰る時間になってくれ。……そう心で願いながら廊下を早歩きする。
――夏世視点――
「……時間よ、頼むからゆっくり流れてぇぇ……」
ゲーム画面の中のままの部屋で一人、机に突っ伏す。時刻は昼の11時…そろそろお昼だし、正直お腹もすいてきた……。
「ほら、もう少し頑張って。覚えは凄くいい」
今や熱血教官と化したネリス様の声に重たい頭を上げる。……僕が、何をさせられているかというと。
「ネリス様っ、やっぱり無理だと思うんですよぉ~……文字と金銭感覚を1週間で覚えるなんて~………」
そう、僕は今…あのネリス様に文字と金銭感覚を叩き込まれている最中だ。
理由は少し遡り、この部屋に来た時に戻る。
見た事がありすぎる部屋に興奮すると同時に、僕は「ある物」を探したおした。それはもう、部屋を行ったりきたりしてネリス様と付き人さん達を困惑させたよ……と思いだし苦笑する。
「何笑ってるんだ、急がないといけないのだろう? なら世界共通の文字と金銭感覚を頑張って覚えなくては」
ネリス様の熱血っぷりとは真逆に、空腹で感動すら覚えなくなってきた僕。……これは先にご飯を食べないと進まない気がするんだけど…と立ち上がり「ある物」を手に取る。
「取り敢えず夕食にしませんか? これについて説明もしたいですし」
僕はそういって、さっき探したおしてた茶色い重厚感のある鍵がかかった一冊の本をネリス様に見せた。
「あぁ……確かにそんな時間だ、すっかり忘れていた。よし、食事を取りながらその本について聞かせてもらおう。……ここを管理している私でも知らなかった、その本と開け方を」
ネリス様は何処からともなく懐中時計を取り出し時間を確認して使用人に目配せした、と同時に使用人はお辞儀してどこかへと去る。……れ、連携プレーが凄い……! と勝手に感心しながら食事する所へ行く。
―――★―――
「それで、テンポ良くそれを見つけていたが……」
料理が運ばれるまで時間があるので、席について早速ネリス様が話しはじめた。……そう、僕はあの部屋を堪能してからすぐこの鍵付きの本を探すために謎解きのような事をした。いやはや、中盤までやってないと分からない仕組みな上分かりにくくしてるから謎解き大変だったよ……。
「それはこの本が存在する事で世界的に影響があるからですよ」
僕は淡々と、なるべく真剣なトーンになるように気を付けながら話す。するとネリス様は興味深そうに目を細め、僕をじっと見て先を促す。
「……この本には魔法、薬草、魔獣のほぼ全ての情報が入ってます。その上、まだ見たことがない物もヒントが入っているんです」
「なっ…………!!?」
驚き、勢いで思わず立ち上がるネリス様を見ながら、本をゆっくりと机に置いた。
……そう、これはいわゆる、ゲーム内での植物や魔物の?クリア表&攻略や出現ヒントだ。でもそれが、本当に危ない植物や貴重な植物、魔物がいる現実であるなら……?
「そんな物っ……本当にあるのなら大問題だぞ……!?」
ネリス様は焦りをなんとか落ち着かせながらその頭の回転の速さで僕の話しについてくる。……さすがネリス様、頭が良いと話しが速くて助かるなぁ…。
「そうなんです、そんな世界中の人が欲しがる本があれば……たかが本一冊で秒で戦争が起こります」
落ち着かせるように声のトーンはそのままで話す。
この本一冊で、この摩訶不思議な世界の…世界中の意味不明な植物と魔獣に対策が出来るんだ。
それくらい起こっても不思議じゃない…だから僕は食事の準備のタイミング、ネリス様の付き人が側近のみになったこの瞬間で話した。
「……だが、それには鍵がかかっている。開けるのには先程キヨミズ様が探していた時間以上の労力がいるのだろう?」
ネリス様は椅子へ座りなおして本に掛かってる鍵を見つめる。本についた少し濁った金色の留め具と錠前……この鍵のありかもゲームでやったのでもちろん分かる。
「少し遠いですが、すぐ見つかりますよ」
僕がそう微笑むと廊下から足音が聞こえてきた。あ、もしかして料理が出来たのかな……とワクワクして座りなおす。異世界、しかも大好きなゲームの中の料理…! いったいどんな物が……とワクワクして思わず写真の為にスマホを取りだ……ん?
「………あれ」
ちょっと待って? 僕がこの世界の説明…AIに会う前……僕は大学から帰ったばかりでカバンもスマホもそのままだった。そしてゲームを起動して…これだ。
「……」
ゲームの中にいる、という事実に驚きすぎて気が付かなかった…いや、気づけなかった。
この魔法世界でこんな、科学的な物を人に見せればどうなる? なんて単純な事を。
「っ……」
僕は取り出しかけたスマホをなおす。
この世界に電波なんていう物はないからメールや電話、検索は使えない…そんな物よりもスマホのライト機能や写真、録画、メモ、時計機能……そういう単純な機能は、この世界では魔法を使ってやる事なのにたかが板に全てが詰まっている。……その科学的な技術と仕組みがわかってしまったら、今でさえ凄いことになってる戦争がさらにエグい事になりかねないよ……。
「…キヨミズ様、顔色があまりよろしくないが…」
心配そうなネリス様の声ではっと意識が引き戻された。……目の前にはキラキラと輝く銀食器と丁寧に盛り付けされた食事と心配そうに見る人達。
「…………ぁ…すっ、すみません! 少し疲れてボーッとしてしまって…それにしても、美味しそうな料理ですね…!」
悪い考えを消すように、咄嗟に思考をご飯へときりかえて目をかがやかせる。コーンスープらしきスープと見た事のない野菜(?)が入ったサラダ、メインのお肉……いや、これは本当に美味しそう! ザ・洋風な料理だけどこれぞ異世界感あるよね!
ぐぅ~
「「…………」」
静かな食堂に僕のお腹が「はよ食べさせろ」と言わんばかりに鳴る。……お、お恥ずかしい…!
「……まずは食事にしよう、キヨミズ様。それからゆっくりその本の鍵を見つけ、開けるのか管理は誰がするのかを決めよう」
そういってネリス様はとても綺麗な動作でナイフとフォークを使う。……あっ、こういうのって所作がいるよね…と思いネリス様のした通りに持つ。
「その、こういう物の食べ方や所作が全くわからないので……変すぎたらおっしゃってください」
僕はあらかじめそういっておいて、出来るだけ丁寧にサラダを食べた。……んっ、凄く美味しいっ………!?
「……一般常識と共に、ディナーレクチャーも用意しよう。キヨミズ様の動作は元々かなり丁寧に整っているので速く覚えると思う」
ネリス様はそう言ってサラダを口に運んでる……けど、一つ一つの動作が綺羅でつい見とれてしまう。ほわぁ……さすがネリス様、かっこいい……!
「……キヨミズ様?」
じっとネリス様に見つめられ、見とれていてつい返事をするのが遅れてしまった。
「え、えっと……昔祖父に『茶道』という作法を教えて貰っていたので…だから綺麗なんだと思います」
咄嗟に内容を思いだし、そういって微笑んだ。……僕の叔父である清水海は茶道家で、ほんわかした祖父の雰囲気と苦いはずの抹茶が美味しいという事で少し有名だった。
「なるほど、キヨミズ様の叔父様が……それにしても綺麗な動作だな。『茶道』というのはどんな物なんだ?」
気になったのか、ネリス様は目を細めて食べるのを一旦止めた。興味あるんだ……でもこの世界に抹茶があるかが怪しいなぁ……。
「正座、という床に座る座り方でほろ苦い飲み物と甘いお菓子を食べる物ですよ」
簡単に、そして分かりやすく説明してみる。抹茶と言っても分からない可能性がある以上こう伝えるしかない。
伝わったのだろうか、と不安な僕とは逆に、考えるような仕草なネリス様は首をかしげた。
「ほう……苦い、とはどれくらいだ?」
……どうやら、ネリス様は茶道が凄く気になるらしい。日本の世界の事がそんなにも気になるなんて……以外だな、と思いネリス様が気になった事をどんどん説明していった。
―――★―――
「……つっ……かれたあぁぁ…………」
洋風のベッドへ遠慮なくダイブしてボフッと軽い音がなる。驚くほどふかふかでもふもふしてる……これは羽毛布団だな、絶対。しかもかなり良い物。
「ふかふかぁ……しあわせぇ…」
大の字でゴロゴロしてると窓から差し込む月明かりに気付き、もうそんな時間かと察する。
「夜……あ、配信…!」
そういえば今日は配信予定日だった、と飛び起き部屋を見て察した。
見慣れない、だけど見慣れた風景に…あぁ、そういえば僕は今ゲームの中なのだ、と。唯々納得させられる。
「……はは」
ぽた、と涙が流れてしまう。圭や夕、家族に、このゲームが幸せになるまで会えないという事実が、酷く現実味を帯びてきて。
「…圭…夕……」
二人共、心配してないだろうか。特に夕は小さい時に一度事故で愛犬を失くしかけたから……僕もそうなっているかもしれないとパニックになっているかもしれない。
「………」
何となく窓を開け、少し冷えた夜風が入ってくる。少し高い立地のここからだと、街灯や夜空がとても綺麗に見える。
「…こうして見ると、変わらないんだけどな」
夜空に浮かぶ青白い月も家に灯る明かりも、ほんのりと輝く星も僕の居る世界となんら変わりのない景色で。
「……強いて言うなら、建物の外観や明かりが違うくらいか」
窓に腕を置いて外国風な建物を眺めていく。イギリスとか英国風な建物が並び、その明かりは電球ではなく月の光を反射し光る花と、太陽の光を集めて灯る木や草で出来ているためどこか温かく優しい光。
「……似て非なる世界、だなぁ…」
静かに微笑んで、流れていく涙の中…僕は滲む視界をあえてそのままにする。
このままただ何も出来ず死んでしまうかバットエンドルートになれば……僕はもしかしたらそのショックからこのゲームに来た記憶すらも消えるかもしれない。そうなると数ヶ月も行方不明になる上何をしていたか覚えてない事になる。
それにハッピーエンドの場合…赤の古文書、という訳のわからない物を見つけて解読しなきゃ現実には帰れない…なにより。
「……ここには……ここにはっ、僕しかいないんだ……!」
…心の支えになっていた人達も、夕一話せる大好きな友人達も居ない世界なのだと。やはりゲームの中、そういう事なのだという実感が……酷く辛くて、痛くて、苦しくて……涙が溢れて止まらない。
「無理だよっ……知ってるキャラにならなんとか話しかけれるけど、NPCとかがちゃんと町の人として生きてる世界なんて……!」
仮にもゲームの中とはいえ、対面している人ならば必ず僕は話せなくなってしまう。さっきまでは混乱してたから知ってるメインキャラじゃないNPCとでも話せたけど、自覚した途端なんで話せていたんだと…今こうして震える僕がいる。…その時点で物理的に無理なんだと悟る。
「こんなにも…こんなにも人と話せないのに、勇気づけてくれる夕も圭も居ない世界で……どうしろって言うんだ…!」
今はただ、どうにもならない事を嘆こう。ここに夕がいれば、圭がいれば。もし、僕が人と話せたら。
「くそっ……」
どうにもならない、けれどこれからも何度もよぎるであろう事を……今だけは嘆こう。どうにもならない事ならば、せめて…今だけは。
「一人は……嫌なんだ…っ……」
優しく光る月と街明かりはもうほとんど滲んで見えなくなってる中、僕はただただ寂しさとやるせなさを消すように涙を流した。