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君達を救い出すまでのRPG  作者: 夜野月人
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Save data No._ 聞いてないってば!!!

 …拝啓、AI(アイ)へ。あの異空間から出てすぐですが、僕は今もの凄く悟りを開いてます☆ミ

 …なぜならば。あの異空間の扉を開けたら…床じゃなくて空中だったのよ。…マジでなんで?

 …そして、悲鳴を上げる間もなく落下して…幸いすぐ下に木があったから途中で腕が蔦に引っ掛かって助かったよ、嬉しいね!! あちこちなんか痛いけど!!

 心の中で文句をいいながら少し体を動かすと尖った木の枝が横腹にチクッと刺さった。

「いっ…! …たぁ…」

 またかすり傷増えたかなぁ…さすがにこれ以上動いたら怪我するか、と悟り大人しくじっとしながら森を観察していく。

 見たことのないピンクの植物、青色がかった葉と細い白枝の木、そして僕が今ぶら下がってる普通の木とモジャモジャな蔦の掛け合わせのようなよく分からん木。

「…本当に異世界…いや、星屑*CollarC( ゲーム)ageの中の世界なんだな…」

 全て僕がいた地球には存在しない植物で、ゲームの中で背景として写っていた植物達に改めてここがゲームと同じ異世界なんだと、意外とすんなり受け入れられた。

 …受け入れた、けど!! さっきから枝が服に刺さってあちこち痛いのよ! あと腕に絡まった蔦の…なんだろ、毛? みたいなものがチクチクしてて地味に痒い!

 かなりの高さで右腕が蔦に絡まってるし、足は太めの枝に乗せてる状態だから動こうにも動けないんだよねぇ…背中側にも枝があるから体力維持出来て楽だけど、これ動いたら地面に落ちるよね。絶対痛いよね…。

 …。…もうクマでも魔物でも誰でもいいから助けて!!? と自暴自棄になりかけながらじたばたと暴れ、疲れて休憩する。

「…なぁんでこんな事になってるのかな?」

 折角のゲームの中の世界なのに…異世界召喚だよね? 召喚されたんだよね、僕?? ならなぜに森の木にぶらさがってるの? 普通召喚系のやつってさ、大きい広間に魔方陣書いて呪文唱えて~…じゃん? ゲームでもそうだったし。

「なのに、な~んで木にぶらさがらってるの!!? しかも怪我したし!! 地味に痛い! そして腕が痒い~っ!!」

 もぉお!! っと文句を言いながら腕をじたばたさせてると段々疲れてきた。お姫様抱っこの体制(枝や蔦に支えられてるだけのでかなり筋肉使う)でかれこれ20分は経ってるし…そろそろ体力の限界…。

「…えぇ…僕の異世界召喚ここで終わるの…? まだ開始20分ぐらいだよ?」

 どんな鬼畜ゲームだよ、こちとらただの大学生のオタクゲーマーだぞ? 現実(リアル)で喧嘩売ってみろ秒で負ける自信あるぞ? と毒づきながら溜め息をつくと、ブチ…ブチブチ…ミシ…とどこからか嫌な音が聞こえる。

 恐る恐る腕に絡まった蔦を見ると、蔦の途中がちぎれかかっていた。背中を支えてた枝ももう限界なのかほとんど支えられてる感覚がない。

「…おいこら待て…マジで待って、今この高さで落ちたらっ…!」

 プチパニックになりながら改めて下を確認して何となくの高さを目算してみる。

 下にクッションになりそうな草は生えてない、僕が立った時に下見た時の高さより高い、つまり!

「175以上、クッション無しっ! 嘘だろふざけんなっ!」

 そう叫んで腹に力を入れる。この高さから受け身とれる!? アニメの見よう見まねならやってるけどそれ役立つかなぁ!!?

 そうこう考えてる内に植物がちぎれる音と共にどんどん体が地面に引き寄せられていく。とりあえず両手ついてバク転の形で着地っ…出来たらかっこいいけどね!?

 幸いなことに、足を乗っけていた所は幹と枝の生え際。太めの枝部分なので折れそうにはない…これを軸にして一度ぶら下がって…いや駄目だ、頭から落下する可能性が高すぎる。やっぱりバク転しかない? 両手で衝撃和らげるようバネみたいにして…。

 ブチッ

「…あ」

 ゲーム脳をフル稼働させてたら、嫌な音と共にふわっと足以外が宙に離された。

「っ~~~~!!!!」

 とりあえずさっきまで考えてた通りに腕と体を反り返らせながら地面に伸ばし反動で足を垂直になるよう上げた。こういう危険な時ほど頭は冷静なのか、以外にもちゃんと体が動く。

 ドサッという音と共に、気がつくと僕は正座で座りこんでいた。

「はっ…は…はぁっ…」

 大した運動もしてないのに息が上がる。あそこからの高さからの落下、からの正座はさすがに自分でも驚く。

「…は…。…すー……ふー……」

 息を整えながら、まだ恐怖に支配されてる頭で体を見てみると、大怪我はなくかすり傷だらけで服に枝が刺さってるだけだった。…バク転はさすがに出来なかったけど…着地は成功した、のかな…?

「…」

 動揺しながらもあちこち動かして確認して、服に刺さった細かい枝を抜いていく。

 手は一番最初に地面についた振動で痺れてるけど、そんなに痛くないし動く。…大丈夫そう…? …よ、よかったぁ…。

 正座だった体制から三角座りに変えて足も観察してみたけどかすり傷で出来た跡や他の所からの血が付いてるだけで特に変な所はない。

「…反射神経とゲーム脳に感謝…」

 ホッとしながら立ち上がり、服に刺さった木の枝や蔦の欠片、砂ぼこりを取っていく。

「…絶対髪も乱れたじゃん…せっかくセットしてたのに…」

 僕は寝癖が酷くて、いつも寝起きがライオンみたいになるから髪をいつもセットしてる。なのにこんな風に事故ったらライオンに逆戻りだよ…と溜め息をつきながら、とりあえず辺りを見渡す。

 うーん、やっぱりどう見ても森の中だな…召喚されたならここで待ってれば誰か来るかな? 探索魔法もあったから…遠い場所じゃないなら人がすぐに来てくれるはずだ。

 …いや、ここがどこかのダンジョンならじっとはしていられない。星屑*CollarCageの世界はかなり野蛮で危ないからね…早めにこの大量のかすり傷を洗って処置しないと、血の匂いで魔物を寄せ付ける可能性もある。

 それに、ここの世界の植物には毒や麻痺が多い。そんな状態になれば、いざ魔物に襲われた時困る…せめて森じゃない所へ行こう。

 そう思って歩いてると、目の前に葉先がピンクの植物を見つけ思わず笑顔になる。

「ヒクサだぁ!」

 僕が見つけた植物、ヒクサは葉先がピンク色の可愛らしい見た目の植物で、ゲームの中で消毒や怪我の回復に使われた物。もしかすると怪我に使えるかも!

「貰うね」

 そういってヒクサの一束を手でちぎる。この世界がゲームと同じ仕様なら、キレイな水で傷口を洗ってからすりつぶして塗るか、傷口に巻くかしてヒクサを傷口に付ければ治るはず。

「近くに水あるかなぁ…」

 耳をすませながら人の声や水が流れる音を探しつつ草をかき分けていく。なんかこういうのって楽しいよね~。

「♪~」

 鼻歌を歌いながら僕はゲーム序盤の流れを思い出す。…迫害、戦争が起こる中魔力爆発に当てられた魔物や動物が本格的に荒れはじめてしまい、さらには魔王と名乗る者まで現れる。困り果てた人々は「悪夢を終わらせてくれ」と願い勇者を召喚した。その勇者がプレイヤーで、名前や見た目、性別、性格をを設定したら教会から始まる…という感じだったはず。

「なんで森なんかに…? 僕が召喚されたバグと何か関係があるのかな…」

 ぼやきながらもとりあえず歩いてると細道に出た。お、割とちゃんとした道だ…って事は人が通る場所の可能性が高い!

「やっと人と会えるかも!」

 つい嬉しくなりスキップしたら、かすり傷の痛みで足が絡み転けそうになった…危ない…また怪我する所だったよ…。

「ゆっくり歩いていこう…」

 あはは…と苦笑いしながらゆっくりと木が少ない方へ歩いて行く。


           ――??視点――


「…なぜだ、何故(なにゆえ)勇者が現れん!!」

 ザワザワと騒がしいセレイス教会の広場で、どこかの貴族が叫んだ。

「…」

 先ほどまで勇者を召喚する儀式を行い、確かに魔法は発動した。だが、なぜか勇者は広場に現れないまま十分ほどたっている。

「誤作動か?」

 俺は一人影から人々の様子を観察していく。広場に集まる人々は不安そうで、貴族達は焦っていたり冷静だったり…興味本位で集まった冒険者達は様々な表情をしてる。

 ひとしきり見渡してから教会の人々へ目を移すと世話しなく魔法を発動し原因調査を進めている人々の内の一人が魔法で拡声器を作った。

「探索魔法で調べた所、何かしらの誤作動で勇者様が別の場所に移動したようです!! 場所はレーゲンの森!!」

 教会の人がそう叫ぶと共に、大丈夫なのか、あそこに勇者様が…!? と人々がざわめく。

「レーゲンの森か…」

 確かに、あそこは薬草と魔物が多い森だ。こちらの世界に召喚されたばかりの一般人は死んでしまうかもしれない。

「…だが、それほどで死んでしまうくらいの勇者ならば、この世界を変える事など出来ないだろう…『世界を変えれる勇者』を召喚した癖に、一体何を焦っているんだ」

 焦っている大衆に溜め息まじりに呟いて、俺は教会から立ち去る。長い事教会にいると俺の体に触るからな…。

 コツコツと低い靴音を鳴らせながら、まだ明るいのに教会に人が集まったせいで誰もいない町を歩く。

「…まぁ勇者と言ってもたかが召喚された異世界の一般人だ…気にする事は無かったか」

 自分の行動に何をしているんだと思いながら歩いてると、鏡専門店を通りそうになり思わず足を止めた。

「…」

 沢山の鏡には乱雑に切った為跳ねている髪が映っていた。手櫛で軽く整えてみるが、またすぐにピョンと跳ねる。

 …雑に切るんじゃなかったな…と少し後悔しながら、まぁ整えた所で何かある訳でもないと思い目線を鏡から動かすと「漆黒の髪と黄金の瞳を持つ人のフリをした魔王を成敗せよ」と書かれた指名手配の張り紙がすぐ側に張られており思わず笑う。

「…これのどこが人なんだ」

 張り紙に描かれてる魔王は黒い髪を逆立たせた魔物のようにつり上がった白目のない黄金の瞳の人形をした獣。こんなののどこが人なんだ、ともう一度嘲笑って鏡を見直すと…そこには乱雑に切られ跳ねてる漆黒の髪、猫のように鋭い瞳孔で黄金の瞳の、真っ黒の服を纏った男。…そう、指名手配されている(まおう)の姿が。

「…似て非なる……か」

 この世界では黒髪の人数が少ない。

 あの魔法事故から数十年…魔力影響を受け魔物がより狂暴になり、冒険者がより頼りになっていた頃。

 人間やエルフ、獣人にも世界に溢れた魔力影響が起き()()()()()()()()()()()()()()()()()

 魔力影響で変わった髪と目の色には意味がある事がしばらくして発覚。赤は物理的な力や精神的な強さなどの「力」に関する物。青は知識や冷静などの「知的」に関する物。そして黄色や金色は魔法が特化した。

「全く…面倒なものだ」

 数は少ないが髪や瞳の色が変わった人、元がその色でさえもそういう印象を与えたのか世界の価値観は瞬く間に変わっていった。…その中で最も面倒な事になったのが、黒色。

「魔物と同じ色というだけで魔物扱いとは、馬鹿らしい発想だな」

 手配書をみて嘲笑い、帰路を歩く。…本当に馬鹿らしい発想でしかないのに、どうしてここまで格差が起こったのだろうかとぼんやり考えながらレーゲンの森がある方角を見つめる。

「『魔物と魔法に囚われた世界を変えるは この世界とは異なる世界に住まう者。その者の導きでこの世界は元へ戻るだろう』」

 神話の一部を復唱しながら「…勇者ならば、変えてみせろ。この世界も…俺さえも」と呟き、明るい朝から逃げるように路地へ入り適当な小石を三つ拾って三角形になるよう置いてその中へ入る。

「大地よ 我が帰るべき場へ転移せよ」

 転移魔法を唱えると小石が光り一瞬にして三角形の陣が完成、数秒して拠点へと転移した。


           ――夏世視点――


 やっと森から出ると朝なのに凄く静かな街に着いた。

 店も閉まっているようで、Closeの看板があちこちに見えるけど…レンガ作りの道路やレトロな雰囲気と洋風が混ざった店達はゲームの序盤の街にそっくりだ。

「…おお…すご…あ、もしここが序盤の街なら…」

 そう言いながら歩いていると、かなり大きい噴水の広場が見えた。まるで聖地巡礼の気分…!!

 わくわくしながら噴水の椅子部分に書かれた文字をゆっくり読む。

 ここ、星屑*CollarCageでの文字は大体英語で書かれている。ゲームでは英語と共に日本語訳も書いてくれてるから楽だけど、さすがにこっちの世界には英語表記しか書いてない。

「えーっと、ぐりーのたうん…greeno town! やっぱりゲーム序盤の街か!!」

 グリーノタウン、緑とレンガ作りの建物が特徴的な中世風の序盤の街に来れた事にはしゃぎそうになりながら噴水の椅子に座って傷口を洗う。

「いっ…たぁ……くぅ…」

 かすり傷ほど水が染みるものはないな…と思いながら傷口についた砂を水中で優しく取っていく。グリーノタウンの噴水は体力回復にもなる水だから、よくMP回復の為に水筒に入れたりしてたなぁ…と思い出す。

「足の傷口は…」

 腕が一通り洗い終わり、足を見てみるとかなり服に血が滲んでいた。…これは温水じゃないと服に血の跡が残るなぁ…と溜め息をついて靴を脱いで裾を膝まで上げた。

「…あ、意外と被害少ない!」

 手は皮が少し捲れ血が流れてたけど、ズボンの方はジーパンを履いてたから薄く切れていたりするだけだった。これならすぐ治りそう!

 痛みに耐えながら傷口を洗い、さっき拝借したヒクサを噴水に一度浸ける。こうすると体力回復&傷回復のスーパーヒクサが出来上がるんだよねぇ! ゲームでコレを見つけた時は「序盤の街最高かよ」ってなったなぁ…。

「よっと」

 え~と…たしか、傷口を覆うようにすりつぶしたヒクサを塗り、きつくならないように服ごと結ぶ…だったよね。ヒクサは長めの草なので足に巻いて結ぶなんて余裕! と思いながらピンク部分を千切る。ピンク部分は甘くて美味しいらしいから後で食べてみよう。

 右足、左足とかすり傷をそこら辺で拾った小石でヒクサを擂り潰して塗っていく。

「おぉ! すごーい、ゲーム通り全く痛くない♪」

 ヒクサは傷薬なのにも関わらず、傷に塗っても全く痛くないと評判の薬草だったけど、まさか本当に痛くないとは…! 僕の世界でもないかなぁ…そういうの…。

 そうこう言ってる内に足の手当てが終わり、ズボンの裾を戻して靴を履く。ズボンにかすかな血は残ってるけど…まぁいいか!

 腕にヒクサを結ぶのは難しいから…と思い残ったヒクサを全て擂り潰していく。

 ゲームでは薬草調合も出来たから細かい手順も覚えてる。えーっと、ガリガリと石と椅子が擦れる音が聞こえるまで擂り潰して…っと!

 記憶を頼りにゲームの説明通りに擦り潰し、腕や手のひらに塗っていく。僕の世界では見たことのない緑の物体を傷口に塗る事にやや抵抗感はあるけど、ゲーム通りに効くのかという好奇心の方が何倍も強いので潔く塗り付ける。くぅ……ちょ~っとだけ染みるぅ…。

「……手芸用品とか、どこかで売ってないかな」

 ある程度の手当てを済ませ、微かに破れた服を一瞥してから店を遠目で見て頭の中で翻訳していく。えー……パン屋さん、肉の出店、服屋さん…お、服屋さんだ! あそこなら針と糸あるかも…と思ったがすぐに冷静になる。

 …そうだよ、円は使えないんだった…ゲーム内のお金の名前、金貨とか銅貨だったし…と溜め息をつく。

 …さて…どうしよう…序盤の街から呼び出された教会までは割と近い。僕が自ら教会へ行っても良いけど、なんで急に呼び出された一般人が呼び出された事と場所へ向かえたのかと問題になったら面倒だし…ここで待つか。

「待ってる間に…!!」

 わくわく、としながらさっき千切ったヒクサのピンク部分や余ってるピンク部分を見つめる。どんな味がするんだろうっ…!

「頂きますっ!」

 ドキドキしながら口の中に放り込んで、まずは舐めてみる。…。…ツルツルしてる…ちょっと甘い、かも?

 思い切って咀嚼してみると、じゅわ…とほんのりと甘いキャラメルのような味がする。…ピンクだからイチゴとかかなって予想してたのに…! とびっくりしながらしばらくキャラメル味のヒクサを堪能する。

 しゃくしゃくとヒクサを噛みながら、擂り潰してちょっと粘り気を加えて固形にしたらピンクキャラメルの出来上がりじゃない…!? むしろこのままクッキーに入れればキャラメルクッキーになりそうっ…!! クッキーはゲーム内のレシピに存在してたからそれにヒクサをまぜれば…キャラメルはどうしようか? 粘り気のある物あったかなぁ…? とレシピを考える。

「あの」

 ふと隣から声がして見ると、白装束で茶髪の女性が僕をまじまじと見ていた。

「んっ…!? …な、なんですか?」

 口の中のヒクサを飲み込み、真っ直ぐ女性に向きあう。…摩訶不思議な事が起こって女性でも怖く感じる自分の感覚に少し驚きながらも女性を真っ直ぐみるように心がける。

「…勇者様でいらっしゃいますよね? そのお怪我は一体…」

 驚きながら僕をまじまじと見る女性に「あっ、これはちょっと高い所から落ちて…」と苦笑いをして「…勇者様?」と言葉に違和感を持つ。

 いや、いやいや。無い無い無いから!! だってゲームでは主人公が勇者様だよね。僕はバグで召喚されて、この世界に…ん、待てよ。この世界に召喚されるって事は、つまり…?

「僕が勇者ぁぁあああ!!?」


           ―――★―――


「此方側の誤作動でレーゲンの森に召喚してしまい申し訳ありませんでした…お怪我までなされて…」

 ふくよかな牧師さんは申し訳なさそうに深々と頭を下げたので慌てて「いえいえ、バグって起こるものですよ…」と言うとバグ? みたいな顔をされた。やべ、そういえばこの世界にゲーム用語あんまり無いんだ。

「というか、僕がいた森ってレーゲンの森なんですね…」

 あはは…と肝が冷えながら苦笑いして話を流す。序盤ダンジョンのレーゲンの森。序盤にしてはそれなりに強い敵が多く、しかも負けイベント始まり。

 そんな所でこんなに怪我してて、よく近くの魔物呼び寄せなかったな…と苦笑いで濁していると僕の怪我を診ている魔法使いっぽい人に上の服を脱がされそうになって「どわっ!?」と言いながら咄嗟に服を押さえる。な、なに!? 女性もいるんだぞ、ここ!! と思いつつ処置の為なのであまり怒れない…。

「ちょ、ちょっと待って下さい! 服ぐらい自分で脱げますから…」

 服を捲る手を掴み、慌てながら言うと魔法使いっぽい人にじっと見つめられる。うっ…やっぱりゲーム内のモブでもイケメンなんだな…と少しの劣等感で変な顔をしそうになりながら見惚れてると魔法使いっぽい人はため息を付きながら扉を指差す。

「怪我の確認もですが、服を着替えて頂たい。沢山小枝が刺さっていて危ないので」

 そういって魔法使いっぽい人は服を渡してくれた。わ、現地の服着れるっ事!?

「あちらで着替えてください、怪我の確認の為(わたくし)も同伴しますが宜しいですか?」

 魔法使いさんに「もちろんですよ」と答えながら立ち上がり、部屋へ向かい扉をあけると…小さな窓と戸棚、姿見があるだけの質素な小部屋が。なるほど、お客様に渡す物を置いたりちょっとした着替えの部屋か。

 応接間もゲーム通りに広めでステンドグラスと金色の差し色が映えるいかにも教会らしい所だったけど、ここはここで安心する。あ、確かAI(アイ)が服の中に説明書入れてるって言ってたな…と思いだし探してみるとそれらしい物がジーパンのポケットに入ってた。

 説明書を取り出した服を魔法使いさんに渡し、着替える服を広げてみた。

「…おぉ…!」

 渡された服は、中世ヨーロッパ風の衣装だった。少し大きめな気もするけど、あちこちにリボンが付いてるからそれで調整するんだろうな…。

「えーっと…ここがこうなって…?」

 さすがに中世の服は着方が分からないな…と戸惑いながら服を観察する。…なるほど…普通の長袖に袖口と首元がリボンで編まれてるのか…すごぉ…!

「コスプレみたい…!」

 わくわくしながら服を見つめてると、魔法使いさんから「早く着替えろ」的な視線を感じて僕はそそくさと服を着替えた。


           ―――★―――


「…おぉ…!!」

 着替え終わったけど、凄い…! 見た目がマジで中世ヨーロッパ風だぁぁあ!! これ黒色ならゴスロリになるかも……いいな、着てみたいっ…と興奮してると、僕の体をまじまじと診ていた魔法使いさんが僕の服を整えてくれた。

「あ、ありがとうございま…ったぁ!?」

 お礼を言おうとしたら魔法使いさんに手のひらを思いっきり叩かれた。て、手は止めて!? 凄い痛いからっ! と言おうとして魔法使いさんを見ると、目を細めて僕をじっと見つめてくる…不思議な行動ばかりする魔法使いさんがちょっと怖くて、とりあえず「あ、あの…何か…?」と聞いてみる。

「…聞きたい事は一つ。この世界に来てすぐなのに、何故ヒクサ(これ)が薬草だと分かったんですか?」

 探るような目付きで、じっと僕を見つめてる魔法使いさんに思わず察しがいいな!? と思いながら「あ、あはは…それは後でお話しますね…」と言い逃れ出来ない状況に思わず溜め息を付いた…。


           ―――★―――


「と、いう事です…」

 牧師さんと魔法使いさん、牧師さんが呼んだ貴族らしき人も増え…僕は一通り話し終えて、苦笑いしながら手をそっと叩く。魔法使いさんに包帯を巻かれたので、ポフッと布の当たる音しかしなかったけど。

「…急に言われても信じられませんよねっ! 僕も今ゲームの中だなんて言われても何がなんだか分かりませんっ!!!!」

 あは、と開き直りならがらも僕はつい視線が貴族さんへ行く。貴族さんは水色の長髪を後ろで一つに結んでて、服も白が基調のザ・貴族の服に映えてる。…水色の瞳をキョトンとさせながら平静装えるとか、イッケメンかよ!! 主要キャラにいた人にそっくり過ぎて鼻血でそう! と悶えながらも、僕もなんとか平静を装う。

「にわかには信じがたいが…つまり、この世界は清水様がいらっしゃった世界ではゲームとして存在していた、という事か? …キヨミズ様は随分と発展された異世界にいらっしゃったのだな…」

 冷静な眼差しと少年のようなまだ幼く低い声に、ゲームの主要キャラが重なる。…え、この声…似てるとは思ったけど…まさか…まさか主要キャラのネリス・リーブラ様っ…!? 

 ネリス・リーブラ伯爵、ゲームに登場した時期から逆算すると……今19歳。その若き年にして聡明さと達観した感性を天才と言われ、次期伯爵当主といわれる人。伯爵は貴族階級の上から三番目だからかなり偉い。髪は元々白だったけど、魔力影響により髪色が水色へ変化&より冷静で聡明になった人だ。

 ゲームでは大体もっと先の場面のもっと大人の姿で出てくるから分からなかった…ゲーム内のバグが色々影響してるのかもしれないな…と危機感を感じながら、まだこの世界にいるという事は悪い方にはいっていないのだろう。当然だよ…こんな展開ゲームでは一回も無かったし。

 …というか、呑み込みが早すぎやしませんかねリーブラ様!? 「随分と発展された異世界にいらっしゃった」じゃないのよ、普通そこ信じないから!!

「あ…えっと…ソンナ感ジデス」

 主要キャラに会えた緊張と呑み込みの速さからたどたどしながらもリーブラ様に言葉を返す。…やばいヤバいっ、僕今主要キャラと話してるよぉ!!!?? あ、やばい頭がショートしそう。

「ならいくつか質問があるのだが…まず、どこまでの未来を知っているのだろうか?」

 僕がプチパニックになってる中、リーブラ様に質問されてはっと意識がしっかりする。はっ、駄目だダメだ、オタクになってたらこの世界では(推しから避けられて)生きていけないっ!! と頬を思いっきり叩いて自分のオタク思考を一度吹っ飛ばす。

「!?」

 何事!? という風に周りの人は驚くが気にしてられない。…そうだよ、僕がちゃんとしなきゃ。ネットという力があっても、攻略されてる選択肢ではどれも幸せにならず必ずBatendな不憫なキャラ達…リーシェ様(最推し)魔王のクレス(二推し)を助けるために…!!

「少しの未来しか知りませんし、行動次第で未来が変わる系のゲームでしたので今の所は何とも」

 まずは星屑*CollarCageというゲームの醍醐味とも言われる選択肢の多さとend数、そして誰も攻略してない未知エンド達。これを簡単に纏めて説明して、「ただ」と取り付ける。

「どの選択を取っても遅かれ早かれ必ず起こる事が幾つかあります。かなり大事(おおごと)なので…今はまだ言えないんですけど」

 真面目な顔で、冗談に聞こえないように話す。そう、星屑*CollarCageは確定イベントという物が2個ほどあるが、Batendのタイミング次第では確定イベント一回だけという事も全然ありえる。でもその確定イベント、かなり大事なんだよねぇ…。

 それを言えない訳は立場とか信用度とかタイミングとか…といった事で言えない、と表情で暗に伝えると全員が察したように頷く。

「その方がいい。大事ならば伝えるべきタイミングを見定めて頂いた方が賢明だろう。その時になればリーブラ家もなるべくサポートしよう」

 淡々と話しながらもこの異様な状況を飲み込んでいるリーブラ様の聡明さと対応力に感動しながらも、サポートしてくれる事に少し驚く。

「ありがたいですが…いいんですか? 素性も知らないただの一般人の、しかも未来を知ってるなんて本当か分からない事をサポートする…なんて」

 そう、問題はそこだ。聡明で冷静…そんな性格のリーブラ様はそう易々と人を信じないが、信じた人には凄い戦力になるキャラだ。だからゲームでも仲間にすれば勝ちと言われるキャラなんだけど…攻略は難しい。

 なのに、「なるべくサポートする」と言った。なるべくって事はそんなには信頼されてない、でもサポートはするって約束した…これは、信頼というより…観察されてる段階…? と考えながらもリーブラ様を観察する。

 リーブラ様は僕の問いに「そう思うのも当然か」というような表情をしてから柔らかく微笑む。

「未来の事が真実か嘘かはともかく、キヨミズ様は別の世界から来たことはお召し物や挙動などをを観察していれば一目で分かる。神話でも勇者の事は『この世界とは異なる世界に住まう者』と言われているしな。この世界を多少知ってるにせよ、サポートは必要不可欠だろう?」

 淡々と話すリーブラ様の言葉には優しさが感じられて………あぁ、そうだ。この人はいつも、頭が良いだけじゃなかったと思い知らされる。

 聡明で冷静、若き天才と歌われるにはそれだけでも十分だけど、リーブラ様は違う。…達観した感性を持っているからこそ、人に寄り添おうとする優しさがある。それゆえに、次期当主と言われ天才と歌われているんだった。

「…ありがとうございます!」

 本当にさすが、としか言いようがない。思わず拝みたくなるような推しへの尊敬と愛をぐっと堪えつつ、精一杯のお辞儀で誠意を表す。

「いや、当然の事を言ったまでだ。頭を上げてくれ」

 リーブラ様の落ち着いた声に感銘を受けてた僕も冷静になり、すぐ顔をあげる。…やっぱり、不遇キャラを助けるならリーブラ様が仲間に欲しいなぁ…と思いつつ、本当にここはゲームの中、しかも行動次第で未来が変わるんだと思い改めて気合いを入れる。

「この世界の事は多少知っていますが、変わっている事もあるかもしれません。とりあえず、今この世界はどんな状況なのか教えてもらえませんか?」

 こんな事になったけど、結局大事なのはそれだけだ。

 僕というこの世界をゲームとして知ってる人が来て、しかも本来出てくるはずの協会ではなく森に飛ばされた。その時点ですでにゲームから外れているんだし、ゲームの設定からどんな風に変わってるのかは未知数だよね…。しかも、推しを救うという目的もある。

 ならば聞くべき質問はただ一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だけ。

「まず、ここはレーベルク国のグリーノタウンという街です。首都であるレーベルからは少し離れていますが、緑とレンガが特徴的な場所です」

 牧師さんは机の上に地図を広げ、英語でLrbark(レーベルク)と書かれた国を指差す。…ふむふむ、こうして地図を見るのは初めてだけどほとんどゲームと一緒の地図だ。アップの地図だから周りの国しか見えないけど、レーベルク国の右隣フレート国に、下の方にあるメイズの森…うん、ちゃんとゲームに関係のある国はあるね。

 他にもククセ共和国やテレスト共和国があるか気になるけど、そこはレーベルクから遠いしゲームでも名前が出るのが中盤から…暫くは行かないでしょ、多分。

「事の発端はメイズの森で起きました」

 ゲーム内と同じようなセリフを言い、説明を始めた牧師さんの言葉を聞き逃さないよう神経を研ぎ澄ませる。

 …さぁ、どれだけ変わってるのだろう。

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