はじまりは突然に
初めての小説投稿…凄くドキドキしてますが、楽しんで読んでいただけたら幸いです
文章が拙いかもしれません、すみません
《星屑*CollarCageへ ようこそ》
無機質な機械音声がどこからともなく聞こえ、目の前に浮かぶ青白く半透明のウィンドウに機械音声と同じ言葉が書かれている。
「……。……ん?」
可笑しいおかしい…なんで僕ここに? …さっきまでパソコンの前だったよねぇ!? なんで!!?
《清水 夏世 様
貴方はPlayerに選ばれました》
さっきと変わらない無機質な機械音声とウィンドウに浮かぶ文字だけがやけに現実離れしている。
…というか、僕の名前…!? それにPlayerって一体…?
「…? …!?」
…だめだ、頭が追い付かない…なんなのコレ、夢なの?
《返事くらいしてはどうですか?( ´Д`)》
音声と共にゲームのようにタタタとウィンドウに文字が表示されていく。…。っておい。
「…なんか急に生き生きしだしたな!? 止めて!? 気になってツッコんじゃうから!!」
呆れたような機械音声と顔文字で煽ってくるウィンドウについツッコんでしまった。…仕方ないよ、これはもう無視とかのレベルじゃないわ。
《やっと返事をしましたか》
まるでゲームの中のようにふわふわと浮かんでいて今にも消えそうなウィンドウが「ここは現実ではない」と言ってるようで。どこか感情があるかのように呆れる機械音声がさらに僕を不安にする…事はなく。
「いや…急にこんな所連れてこられても…」
プチパニックになりながら、一旦頭を落ち着かせるために色々思い出そう…と思い目を閉じる。
――昨日の記憶――
ここは星や自然を大切にしている平和な世界には人間、獣人、エルフ、ドラゴン…多種多様の生物が存在し時に対立しながらも異種族同士での戦争や迫害はないほどに幸せな世界。
だが、突如として起こった魔力の暴走により世界の基準がガラリと変わってしまう。
魔法がもたらした変化は6歳になると稀にその人自身の性格に合った色が与えられる、という物。赤は強さ、青は知性に関わるものなど色によって効果が異なるせいで今まで起きなかった「違う」という理由の迫害や戦争が始まってしまった。
植物にも魔法がかかり太陽の光を貯めて光る太陽草、街灯代わりに使われる照木、月の光を反射して輝く月花などが新しく生まれた。
魔法の暴走により魔物は元々問答無用で生き物を襲い食らう猛獣なのにも関わらず凶暴で知能が高い者が出始めてしまう。
君たちPlayerはこの色に囚われた世界を元に戻す事ができるのか…
ー異世界RPG、ここに開幕ー
星屑*CollarCage
「改めて見るとすんごい世界観だよね…」
完全攻略不可能と歌われる星屑*CollarCageの公式サイトの世界観を読んで、思わず息がもれた。このゲームをPlayして三ヶ月…僕はすでにこのゲームの虜になっていた。
「なんで魔王があんな辛い過去持ってるの~!!」
わー! と涙ぐみながら机に突っ伏す。
「昨日の配信すごかったなぁ~! あのスチルまだ誰もゲットしてなかったんやって!」
流暢な大阪弁でニコニコしながらオレンジジュースを机に置いたチョコレートみたいな色の髪と目の男は大川 圭。
圭は僕の中学からの幼なじみで、明るく見えるけど酷く人見知りで人と話すのが苦手な僕の数少ない友人の一人…そんな圭の家にお邪魔させてもらってる僕は「ありがと」とやる気のない声でお礼をいってオレンジジュースを飲む。
「世界設定見た時に絶対シビアな内容だなって思ったんだよ!!? でもさ!! …あんなのって無くない…!?」
うぅ、と涙ぐんでるとイラストスチルにて魔王のクレスが主人公を庇い魔物の爪でエグい刺され方をしてしまい思わず悲鳴のようなものを上げた時の記憶が蘇ってきた。わぁあ~! 思い出したくないぃ!!
「…お前を助ける訳じゃない。この理不尽な世界に飽きただけだ…」
昨日の魔王のセリフをそのままいったこいつは黒髪黒目の眼鏡の数少ない友人の一人、冬野 夕。
「やめて! 今の僕にはクリティカルヒットだからソレ!!」
傷口に塩を塗られた感覚で泣きながら、主人公が何か言おうとしたらクレスが相変わらず光の宿っていない目で淡々と話す場面を思い出す。…クレスの声はどこか苦しそうで…声優さんナイス仕事してますねぇ!! とか思考が一周回って思ったなぁ…と苦笑する。
配信のコメント欄も「このスチル初めて見た…けど嬉しくないぃーー!」や「…え 嘘うそ」「やめろぉおお!!」など悲しみに暮れてた。
「あぁ…もうやだ…救われないのはキツイって…」
僕の推しのリーシェ様も全然救われないままゲームを進めていて最近ちょっと鬱です…と思いながら泣いてると「…やっふぅいい!! ゲーム本編すげー暗いけど明るくいこ~!! …今夜も雨だね、こんばんはmizuくん。です」と唐突に昨日の僕の配信が流れ出す。…ってこら誰だっ! と思い顔を上げる。
「ちょっと!? 恥ずかしいじゃんヤメテ!!」
悲しさとか吹っ飛んで恥ずかしさで二人を見ると夕が真顔で動画を再生してたのですぐさまスマホを取り上げて止めた。
配信での「今日も雨だね」は挨拶言葉なので昨日の夜は雨じゃない。むしろ快晴で星が凄い綺麗だった。でも「mizuくん。」の名前の由来から挨拶言葉はいつもこうしてる。ちなみにガチで降ってて小雨だったら「小雨だね」土砂降りだったら「土砂降りだね」と挨拶を少し変えてる。というか相変わらずハイテンションからのローテンション切り替えが我ながらうるさかったなぁ…。
「ゲームに表示された文字にガン泣きしたのは初めてだったかも…」
ぼんやりとした頭で昨日の事を思い出す。
イラストスチルの魔物に刺されたクレスが空を見上げて口から血を垂らしてからの「「…。…せめて、この色に囚われた世界を壊したかったものだ」結構クレスは一度も目に光を宿す事なく生きたえてしまった。」だったなぁ…結局あの後主人公は心が壊れてしまい正しさが分からなくなってもちろんBatEnd。End名「囚われた星」という終わり方だった。あんな事が目の前で起こったらそりゃあトラウマものだよ…。
「リーシェ様も全然救われないし!! キツイって!」
わー! と推しに振りかかる悲劇を嘆きながら本当にかなりキッツい世界観だなぁ…登場人物みんな苦しいって何事よ…! と思う。
「リーシェ様はほんまに不憫やんなぁ…凄く良い人やのに…」
ぐすぐす泣いてる僕の頭を撫でながら話す圭に夕も頷きながら共感してくれる。僕の推し、リーシェ様は本当は人を思いやれて色に囚われたあの世界で唯一色の概念に囚わない人なのに、行動が極端すぎて悪役令嬢と勘違いされて婚約者に断罪されてしまうキャラだ。…不憫でしかない。
「リーシェ様が少しでも生きてる世界線ってあるんでしょうか、運営さん…」
届かないと思いつつもついそんな事をぼやくぐらいには、僕さリーシェ様を推している。
「まだ誰もリーシェ様や魔王が幸せなルートは見つけてないからな。夏世が見つけてこい」
そんなかっこいい事をさらっという夕の膝の上に乗った夕の推しのぬいぐるみを見て「かっこつけてる所悪いけど、また距離感バグってるよ」と突っ込む。
「…この距離感なら普通か?」
そう言いながら夕は近くの椅子にぬいぐるみを座らせたので「うん、それぐらいならバッチリ!」と言って笑う。
夕は小さい頃から目が悪く眼鏡が合わなかったらしく、元々切れ長の目を細めていたため怖がられてしまい人との距離感もバグったまま板についてしまったので人との距離感がまだ掴めていない。
今では眼鏡の度数が落ち着いて目は元通りだけど夕の顔の良さはモデル並に整っているためバグった距離感で勘違いさせてしまう事が増え色々あった。
だから部屋に定点カメラを置いて常にぬいぐるみ(推し)や猫のぬいぐるみと過ごして動画を見返してぬいぐるみ(推し)は好きな人や友人との距離で猫のぬいぐるみは普通の人との距離感と例えて距離感のバグを直していってる最中だ。
「距離感だいぶ掴めてきたなぁ! おかーさん嬉しいで~!」
泣き真似をしてふざける圭も、人見知りというレベルじゃないくらいに初対面が苦手だ。
最初は初対面の人に話しかけられると気絶してしまう程だったが、今では固まってしまうぐらいに成長してる圭は有名イラストレーターなのでお絵描き生配信で人見知りをゆっくりと治していってる。
「圭も夕も最初の頃は酷かったよねぇ~…ほとんど話さない圭の無言でお絵描き生配信、トレンド入りしてたし… 夕も猫と推しへの距離感バグりすぎてて面白かった」
苦笑してると「言わんでええねん!」と軽く肩を叩かれてツッコまれた。
「ほんまになんでトレンド入りしたん!? 普通せんやろ!」
ぷりぷりと効果音がつきそうな感じで怒ってるのか怒ってないのか曖昧な圭に思わず「っはは」と思わず笑う。
「夏世も成長したよな、今では登録者数20万人越えて…おにーちゃん寛大深いぞ」
夕までふざけてきたので僕も「えー、僕こんなおにーちゃんやだぁ~」とボケる。
僕も僕で、小さい頃から人と話す事事態が苦手だ。
僕は、人と関わるゲーム配信で人と話す事への苦手意識を変えていってる最中だ。
勿論怖さから圭と僕の生配信は必ず全員で見守る形になってるし、夕の距離感バグ問題は三人で夕の家に集まって動画を早送りしながら見たりしている。
「これからも頑張っていこうな」
相変わらず淡々とした話し方の夕に「もちろん!」と笑い返して気合いを入れ直す。
「当たり前園クラッ○ー☆」
圭は相変わらずボケてくるけど心意気や熱量は僕らと同じぐらい持っている。
こうして僕らは大学でも家でも、三人で人との距離感や怖さを克服していく。
大学内では一人で歩いてみたり(いつでも助けれるように後ろをつけて残りの二人がスタンバりながら)、いつも違う所でご飯を食べたり。
ちゃんと自分に出来て、したいと思える範囲で。
少しずつ、ゆっくりで構わない。誰とも話せなかったあの頃の僕じゃない、という事実が僕らの道を明るく照らしてくれてる。
「一人じゃないって…心強いね…」
今となっては当たり前の事を呟きながら幸せを噛み締めると二人も笑顔で答えてくれた。
…今日やった星屑*CollarCageにいる救わないキャラクター達も、こんな風に進んでいけたらいいなぁ…。そんな選択肢もあるのかな、なんてぼんやり思いながら僕は「今日も配信するからもう帰らないと。二人とも見にきてね」と言う。
「もちろん見に行くで!」
屈託のない笑顔でグーサインをしてる圭に笑い返して、「じゃあまた明日」と言って荷物を持つ。
「また明日。頑張ってこいよ」
微笑みながら手をふる夕に「うん、またね!」と返して圭の家を出る。
―――★―――
そうだよ、昨日までは普通だったんだよ。
《回想は終わりましたか?》
「うわっ!?」
色々思い出してると耳の横から機械音声がキーンと響く。
「急にやめて? びっくりするじゃん…」
耳をおさえながら軽く睨むと、ウィンドウ画面に「ショボン(´・c_・`)」と顔文字がうつる。…そんな顔されても…と思いながら冷静になれた頭でウィンドウを見つめる。
「…それで、僕がここにいるのは何で?」
そう。肝心なのはそこだけだ。突然なんでこんなことに、とかここはどこは何だっていい、肝心なのは「何故呼ばれたか」「何をしてほしいのか」だ。
《もう一度伝えます。
清水 夏世 様
貴方は星屑*CollarCageのPlayerに選ばれました》
ふわっとウィンドウが僕から離れ、ミョンッと変な音を出しながら大きくなる。
「のわっ」
僕がびっくりしてると大きくなったウィンドウに星屑*CollarCageの世界感が写し出された。
《ご存知だと思いますが星屑*CollarCageとは今大人気の選択肢RPG。
元々は自然と星を愛していた世界が色という規定概念に囚われてしまった、というストーリーで構成されています》
大きなウィンドウの下にウィンドウが現れ、文字が写し出され簡単な説明が始まった。
「そこに魔法か何かで呼び出されたってこと? ちなみにこういうバグは僕が初めて?」
星屑*CollarCageの世界には召喚魔法がある。召喚魔法を使った後はとても疲れるからあまり使われないけどゲームの主人公は召喚魔法で呼び出されてた。…もしかすると、と考えながらなるべく冷静になれるように座ると、シャンッと床のホログラムが鳴る。
《お察しの通り、なんらかのバグにより召喚魔法でゲームの中に呼び出されました…と言いたい所ですが実際の原因は不明です
それから 今までもこういうバグは何度も起こっています》
少し申し訳なさそうな機械音声に「そっかぁ~」と気の抜けた返事をしながらウィンドウを見つめ「あと聞きたい事は三つ」と言い指で1を示す。
「一つ目 僕に何をしてほしい、もしくはさせたいのか」
次に二と立てている指を増やす。
「二つ目 ゲームの世界で死んだらどうなるか、ルートは存在するのか」
そして最後、と言いながら指を三本にする。
「元の世界には戻れるのか、全部に答えて?」
僕が話終えるとさっきまで映像を写し出さしてた大きなウィンドウが縮み、もとのパソコンサイズに戻る。
《一つ目への答えは特にありません。ただバグで連れてこられただけなので、普通に過ごすのも主人公パーティーと過ごすのも自由です》
機械音声は今までの方達も自由に過ごされていましたよ、とウィンドウをくるくる回転させながら話す。
《二つ目と三つ目への答えは簡単です。ゲーム内での死亡、もしくはゲーム内でのBatEndルートになると清水様が元々いた世界に戻されます
もしゲーム内でのBatEndルートへ行かなかった場合は『赤の古文書』を解読すれば元の世界へ戻れます
ルートはゲーム通りに行動すればそうなりますが、清水様の行動次第ではゲームに無い事も起きます
ゲームと同じ異世界と例えた方が分かりやすいでしょうか?》
ひとしきり説明を終えたウィンドウの文字をちゃんと覚えながら「なるほど…」と呟くとまたウィンドウが大きく、今度は扉みたいな形になって扉が描かれた。
《この扉を潜れば星屑*CollarCageの世界です。向こうについた時に服の中に先ほどの説明が書かれた紙を入れておきますね》
ご丁寧に説明書を入れてくれるらしい。ありがたいなぁ…と思いながらまだ現実離れした感覚に頭が追い付かないままに「ありがと、何かしてほしい事ホントに無いの?」と、扉とは別に現れた文字ウィンドウに改めて確認する。
《いえ、こちらのバグに巻き込んでしまい申し訳ございません。
そうですね…一つだけわがままを言うならば。
色に囚われた世界に住む人々を救い出して下さい》
機械音声なのに、どこか辛そうな声のトーンにフッと不適に笑う。
「当然! とんでもないぐらいのhappyEndにしてやるよ!」
元々、悪役令嬢のリーシェ様や魔王クレスのhappyEndを見たい一心でゲームをやり続けてたんだ、僕自身の選択で推しが救えるならば本望だよ。と思いつつウィンドウに描かれた扉に手をかけようとして、ふと思い出して文字ウィンドウへとふりかえる。
「あ、向こうに行く前に君の名前を教えてよ」
名前が無いと色々不便だ、と言うと文字ウィンドウに「(。-ω-)」と 何とも言えない顔文字が標示された。
《私に名前はありません。ただの案内AIなので》
淡々と話しながらもどこか寂しそうな機械音声に苦笑しながら「名前あるじゃん」と言う。
《はい? だから、私は案内AIで名前は無いと…》
困惑したトーンで文字を標示していくウィンドウにウインクしてはにかむ。
「だから、あるじゃん。『AI』って名前が」
トンチで構わない。ただ、僕は機械だと言い張るこのウィンドウと機械音声がどうしても機械とは思えなかった。
《…トンチなんて面白くないですよ》
呆れたようなトーンで話すAIに「その割には嬉しそうだね?」とからかいながらもう一度扉に手をかけると床のホログラムと同じくシャンっと綺麗な音が鳴る。お、意外と触れる!
「じゃあ、会えるか分からないけどまたね」
僕はふりかえらずに扉を押して一歩を踏み出した。《はい、では行ってらっしゃい》と、楽しそうなAIの声を聴きながら。