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災厄の梟  作者: ルシフ・フォン・ミュラー
2章 テラス・キマ
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34話 怪物と希望

「アウル様。ようこそいらっしゃいました」


「久しぶり、ナタリア」


 アウルはナタリアのお願いで、地中に埋まった都市ナタリアに来ていた。道中にはまだ戦闘の痕跡が残っており、復興は始まっていなかった。


「今日は面白いものを見せてくれるのか?」


「手紙に書いていましたが、アウル様の度肝を抜いて差し上げますわ〜」


 ナタリアの手紙には副都ナタリアに来て欲しいと面白いことをすると書いてあり、アウルは興味が惹かれていた。

 

「なんというか、ナタリアはエセお嬢様とお嬢様、常識人の三つの喋り方をするよな」


「長い時間を生きてますからね。少々性格が分裂しているくらいですわ。全てが私です、お嫌いですか?」


「嫌いではない」


 顔をほんのりと赤らめ目を下に向けて返事するアウルを見ながら、意味有りげな笑みを浮かべるナタリア。


「最近、アウル様は感情を出されるようになりましたね」


「なんというか、一息つくことが出来たからかもな。後は強烈な家族愛や復讐心を見て、感情を思い出してきた気がする」


「良い傾向ですね」


 夢の影響やテラス・キマの防衛という使命に幼いながらも死力を尽くし、自分の感情を殺して役割を果たした。


「同年代と比較すると周りの風景や他人に対して、興味が薄いと自分で理解はしているつもりだ」


「先ず、話し方が可愛いくないですよね。次に他人からの好意に疎い。更に最終的には自分がどうにかすれば良いと思っている所とか全然可愛くありませんわ」


「ご指摘どおりでございます。弁解の余地もありません」


 雑談をしながら二人は長い下り坂を歩いていく。


「そういえば、リンブルは自分の息子に怪物を意味するテラスと名付けたのだろうか?」


「それはですね、昔と今では言葉の意味が違うのです。今は怪物を意味していますが昔は希望を意味する言葉でした。リンブル様はアマト様の妊娠を喜び、世界の希望だと言いテラスと名付けられていましたよ」


「……なるほど」


 リンブルが小踊りしながら、小さな龍を抱きかかえる絵の想像は容易であった。


「着きました」


「久しぶりに来たな」


 アウルとリンブルの戦闘が行われた広間の奥にある部屋。中央にアマトの魔石と傍らに寝そべるチビドラゴンのリンブルが居た。


「久しぶりだな、アウルよ」


「あぁ、やっと目覚めたよ。浄化の件、助かった」


「気にするな、息子が仕出かしたことの後始末をしただけだ」


 テラス・キマから二週間ぶりの再開である。詳細な被害の情報が集まり、会議から一週間はサージと協力し復興の陣頭指揮を執り続け、久しぶりの休日であった。


「さて、作業を始めますわ」


「任せた」


 アウルは近くにあった椅子に腰掛け、ナタリアの作業を眺めていた。


「探知魔法、異常なし。魔法障壁、偽装魔法、展開中。各魔法陣、出力臨界。では、行きます」


 ナタリアの宣言と同時に部屋は立つのも厳しい振動と地の底から響き続けている音が襲った。


「なんじゃこりゃ!?」


「しっかり捕まって下さい!」


 振動と音は三十分程で収まった。


「外に行きましょうか」


「お、おう」


 アウル達が地上から降りてきた階段に繋がるドアを開けると光が差し込み、一歩踏み出すと空の下に出た。


「……えっ?」


「ようこそ、アウル・カラミタ子爵。イルドラード帝国最後の都市、スルツカヤ公爵領要塞都市兼副領都ナタリアへ。


 そして、現スルツカヤ公爵ナタリア・スルツカヤはカラミタ子爵にスルツカヤ領の編入をお願い致します」


「これは度肝を抜かれた」


 ドアの外はバルコニーになっており、森と平野しかなかった場所には城下町が現れ、アウルは中央にある城に居た。


「でしょう。住民は居ませんが城壁や魔法障壁は機能していますので、移住は可能です」


「それは嬉しいがこれは俺の手に余る。ヘルト王国の王都よりも広いだろ。ピグロ閣下に話をしなければ……」


「頑張って下さい、領主様。後お願いがあるのですが、都市の名前を変えて頂きたいのです」


「良いのか?」


「はい」


 アウルが居る城から伸びる道は合流と分岐を繰り返しているが最終的には四つの城門に繋がっている。更に目測でヘルト王国の王都より広い。


「リンブル」


「どうした」


「息子さんの名前を借りてもいいか?」


「いいぞ」


 アウルはリンブルに承諾を得るとナタリアの方を振り向くと伝えた。


「魔の森改めて、希望の森テラス。都市の名はテラスフォス。それで良いか、ナタリア?」


希望(テラス)(フォス)。良い名だと思います。私は好きですよ」


 カラミタ領に突如編入されたテラスフォス。この街の編入はカラミタ家首脳を大いに悩ませ、新たな残業の嵐を引き起こした。

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