20話 帰郷
「以上が国王陛下からの御言葉と報奨だ。また、これまでは商家の意味する天秤がカラミタ家の家紋であったが、これからは死と幸福を司り、神の伴である梟が我々の家紋となる。
先ずは、編入された領地の掌握、半年後に来る住民の対応。やる事は多いがよろしく頼む」
カラミタ領に帰還したアウルはすぐに幹部会議を開き、王都での内容を説明していた。軍部は治安維持の警備隊編成、内政部は住民の登録や宿泊施設の建設指示など両部ともやる事だらけであった。
「アウル様、お暇ですか?」
「ナタリア様。どうされましたか?」
「私は魔の森の強行偵察を提案します」
幹部会議が終わり、執務室で決済を行っていたら、ナタリアがアウルを訪ねてきた。魔の森の状態は魔物討伐を生業としている冒険者が持って帰ってきた情報を精査し把握している。
軍での偵察はテラス・キマの前兆が活発してからしか行っていない為、今の段階ではあまり軍は動いていない。
「何か気になる点がございますか?」
「前回の臨検の際に吸血鬼特有の魔力を感じ、調査したのですが我がスルツカヤ公爵家の家紋が彫られた石碑が半円状にあり、何かしらの魔法的な術だと思います。
全容が見えない限り、魔法の特定が出来ない為、魔の森の内部調査を行いたいのです」
「臨検中に居なくなった件については理解致しました。しかし、魔物の数は増えております。テラス・キマが近づいている状況で兵士に被害を出す訳にはいきません」
臨検中にナタリアが消えていた理由が判明し、アウルは納得したが、何も分からない魔法の為に兵に損害を出す訳にはいかず、ナタリアの提案を了承する訳にはいかなかった。
「大体の位置は推測が出来ております。また、少数精鋭による短期間の偵察なら負担は少ないかと。
編成としては、私、アウル様、オネスト卿、レーゲン卿、ブリッジ卿、マリアの6人です。
私とマリアは実戦経験もあり、大抵の魔物には遅れは取りませんわ」
「待って下さい。俺を含めてその4人はSR部隊の中核なす存在です。失えば、カラミタ領の損失は計り知れないです」
「リスクはありますが最悪、私が眷族化すれば問題は無いかと」
「あるわ、ボケッ」
吸血鬼ならではの発言であるが、瀕死でも死んでも蘇るという考えはアウル達のような現代人にとっては、理解が出来ない考え方である。つい、アウルもオネストと同じようにナタリアにツッコんでしまった。
「アウル様。セヘル・リッターを提供した際、貸し一つと言われてましたよね? 利子をつけて、返して下さいませ」
「貴女は鬼か」
「吸血鬼ですわ」
確かにアウルはセヘル・リッターを回収した際に、ナタリアに貸しだと言っていたがこんな形で返すことになって、後悔していた。
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「何でお前らは断らなかったんだ」
「あんな美人にお願いされたら、断れないでしょ。なぁ、お前ら」
「「だよな〜」」
アウル達一行は、既に魔の森に入っていた。アウルは最後の綱として、オネスト達が断った場合は偵察の話は無しになる予定だったが、アウルの予想を反し全員参加となっていた。
かなりの魔物は出ているがSRのおかげで全てを屠っており、今もアウル達の後ろには魔物の死体の山が出来ていた。
「皆様、ありがとうございます。おかげで魔法陣の全容が見えましたわ。複合系の魔法陣で主に隠蔽及び防壁で構成されています。この魔法陣を解除する為には中央の制御室で操作するしかありませんね」
「制御室の場所は?」
「魔法陣の形が把握出来ているので、制御室の位置も問題ありませんわ」
最後の石碑を確認した結果、大規模な隠蔽用の魔法陣であり、大体の制御室の位置も判明していた。
「さて、移動しますか」
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「こんな所に湖なんてありましたっけ?」
「報告には無かった。しかも、魔物どころか動物すら居ない」
アウル達は魔法陣の中心、魔の森全体からすれば浅い位置にする。しかし、浅い位置とはいえ魔物や野生動物が居ないのは、魔の森ではあり得ないことであった。
「このような場所があれば、冒険者の安全な休憩所になり得る。しかし、冒険者や軍も発見することは出来ていなかった。
何故だろうか。さっきからこの場所から出ていかなければと思ってしまう」
「ここには人払いの結界と聖域が巡らされています。きっと私の同族が使った魔法です」
「同族という事は吸血鬼ですよね。しかし、聖域ということはどういうことですか?」
アウルの質問に答えずに、ナタリアはよろけながら湖の向かい、縁まで辿り着くと一歩一歩と水の上を歩き始めた。
「あり得ない。浮遊魔法だったら白波が立つ。本当にただ歩いている」
ナタリアは湖の中心まで来ると立ち止まり、湖を超える魔法陣を展開した。
「人魔を退けし、気高き門扉よ 我はナタリア・スルツカヤなり 汝の主が命じる その門扉を開け 我と我の友を出迎えよ」
魔法陣が煌々と光り輝き、周囲は光の渦に巻き込まれた。
「皆様、目をお開け下さいませ」
アウル達が目を開くと湖の中央に入口のような建物が出来上がっており、その横にはナタリアがこちらに手を振っていた。
「マリアさんは知っていたのですか?」
「私はナタリア様に仕える従僕ですから、主のお考えを慮るのは当然です」
アウル達も恐る恐る水の上を歩き、ナタリアの側まで辿り着いた。
「これは?」
「制御室に繋がる階段ですわ。やはり、私の血族か配下の者が魔法をかけていたようですね」
地下に続く階段は暗く地獄に繋がっているようにしか見えず、踏み出すことを躊躇させる。
「では、行きましょうか」
「「「お…おう」」」
ナタリアとマリアは当たり前のように降りていくがアウル達は恐る恐る降りていく。
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「何処まで続くのだろうか……」
「既に30分、降り続けていますね…」
「もう少しですわ」
ナタリアに率いられ階段を降りること30分が経ったが未だに、底には辿り着いていない。
「着きましたわ」
「やっとかぁ」
階段を降りた先には広大な広場と1体の紅の龍が居た。
「なんて馬鹿デカい龍だ」
「これはこれは予想外ですわ。どうしましょうか、マリア〜?」
「ナタリア様、落ち着かれて下さいませ」
ナタリアは混乱しているようでマリアを文字通り振り回している。マリアは真顔でナタリアを落ち着くように促している。
「騒がしいのぉ」
「ご無沙汰しております。古き龍の紅の大王リンブル・PM・ミュートスカイザー様」
「生きとったか、ナタリー。良き良き」
冷静さを取り戻したナタリアが告げた名は、リンブル・PM・ミュートスカイザー。神話の中で語り続けられている龍神の1体。しかし、それは神の敵対者として。
魔王に組みし、多くの英雄や勇者を滅ぼした悪名は聖典にすら、名が刻まれ、リンブルという言葉を使うことは禁じられており、見つかれば教国の神罰騎士団が滅ぼしに来る。
「さて、後ろに居るのは友人かね?」
「今はまだ、主のアウル・カラミタ様とその部下の方々ですわ」
「……ふむ」
リンブルはアウルを品定めするように見ながら前足を使い、器用に顎を撫でる。当のアウルは伝説の龍の登場に驚き過ぎて、言葉を失っていた。
「小童よ、奇妙な物に乗っておるな。神の下僕が使っておった兵器に似ているがそこまで小さくは無かったはずじゃ。
だが、神共の匂いも感じられぬ。偶然の産物か分からぬのお」
「これは私が計画し、人を集め作り上げた、対魔物用強化装甲鎧セヘル・リッターと申します」
「そうかそうか」
リンブルの表情はよく分からないがこちらをニヤニヤと意味有りげに見ていると視線からアウルは感じていた。
「さて、儂がここに居る理由は我が戦友と友から頼まれたのはここでナタリーの帰りを出迎えることが一つ。もう一つは、ナタリーが変な虫に誑かされていないか確認することじゃ」
「全機散開!」
伝説の龍の戦いは紅いドラゴンブレスから始まった。奇しくもそれは魔法騎士の物語の終わりと一緒だった。
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