表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約破棄?追放?でしたら最後に寛大なお心でお許しください

作者: さや

誤字脱字報告ありがとうございます。


「リザ・スフィオール!貴様のような公爵令嬢としての役目すら果たせぬ堕落した女との婚約は破棄する!そして私はこのユリア・ルートリアを新たな婚約者とする!」


学園の卒業記念パーティ、そこでは定期的に婚約破棄という名の催しが生徒たちにより自主開催されるらしい。パーティは保護者も教師も顔を出さないからこそ、生徒が自由に開催してしまうと。

私は歴代の卒業生たちから噂は聞いていたけれど、まさか当事者になるとは思ってもみなかった。

そう、目の前で婚約破棄を告げた金髪碧眼の美しい青年、セリム・ソラスフィア殿下はこの国の王太子であり、私の婚約者でもある。

そしてその隣で小さく体を震わせながら殿下に抱き着いているのは、庶子から子爵家に入った令嬢だった。何でも子爵が若い頃に一時の恋に身を焦がしたとか。現奥方との間に子が成せなかったとかでもしやと調べたら幸か不幸か、子供が生まれていたそうな。

でも、何故そんな彼女が今、殿下の隣に立っているのかしら。私が本当だったら立っている場所だというのに。


「貴様は私の婚約者にも関わらず、学園でも顔を合わせず王宮でさえ私の呼び出しにも応えない。時間が空いたから共に出掛けようと思えば先約がと言い、私が贈った贈り物も身に着けやしない!婚約者としての自覚も無い上に、聞けば学園もまともに通っていなかったそうじゃないか!王太子の婚約者ともあろうものが!」

「はあ…」

「その点、ユリアはそんな私の気持ちを理解し、慰め常に傍に居てくれた!私からの贈り物も身に着けてくれる!どこかの公爵令嬢とは大違いだな!」


周囲は「確かにリザ様を学園でお見掛けする事はあまり無いけれど…」「贈り物を身に着けないってそれは…」と三者三様。

とりあえず私は念の為に確認しなくてはいけない事を確認する。


「婚約破棄の事は、陛下や私の父はご存知なのでしょうか」


この答えは知っている。何故か?この催しが行われる際、大体同じ質疑応答が繰り返されると卒業生から聞いていたから。

もちろん、この質問の答えは


「父たちは関係ない!これは私たちの問題であり、解決する事だ!それに後から報告しても父は是と言うに決まっている!」


ああやっぱり。

分かっていた事だけど、殿下が過去の生徒たち同様だと思いたくなかったのに。

私は一時だけでも、この方に想いを寄せた事があったのだから。

そう思っていると更に殿下は続ける。


「リザ!貴様にはユリアに卑劣な行いをしたという証拠も残っている!何の力も持たない令嬢に対してなんたる事か!よって、貴様に国外追放を命ずる!」


これも何となく知っていました。

何十年も昔に隣国の当時の王太子が婚約者に国外追放を言い渡した結果、実は婚約者は無実の罪を着せられただけで、その王太子は無実の令嬢を追放した愚か者として継承権を剥奪された話を聞いた事があったから。

私はその話を聞いた時に思った事があった。もしやこれは、それを言う良い機会なのでは…?

どうせ証拠は捏造され、親しい友人が少ない私には庇ってくれるような存在もこの場には居ない。

なら、別に良いかな。


「寛大なる王太子殿下、私は国外追放に関しては何も言いません。ですがどうか、最後の私の望みを聞いては下さりませんか」

「罪人風情が。だが良いだろう、長い付き合いだったのだから聞くだけ聞いてやろう」

「私の望みは、二つございます。一つは我がスフィオール公爵家にはどうか、何の罰も与えないでください。多くの事業を抱えていますので、国民たちの職が無くなってしまう可能性がございます」

「ふむ……まあ良いだろう。これは先程も言ったが私と貴様の問題だからな。国民を巻き込むのは不本意だ」


そこだけはちゃんと理性のある元婚約者様で良かった。そういう所が、きっと好きだった。

私は続けて二つ目の望みを言う。


「今から私の本心を言いますが、どうか……どうか何卒寛大で偉大なお心で、何を言っても不問として頂きたいのです。哀れな女の最後の望みとして、どうか」

「ふん、確かに哀れだな。良いだろう」

「神と、我が国の初代に誓って?」

「神と我が国の初代だけでなく歴代の王たちにも誓おう」

「ありがとうございます、では…」


私はありったけの思いの丈をぶちまける為に大きく息を吸い込んだ。


「ばぁーーーか!!殿下の為に私がどれだけ苦労してるとお思いですか幼い頃から勉強嫌いで周辺諸国の言葉さえ覚えようとしないどこかの馬鹿王子の代わりに私がずっと王宮で缶詰で周辺諸国の言葉や歴史勉強をしているのにその間に『時間が出来たから遊びに行こう』ってこちらにはそんな時間はありませんわなのにそれを断ったら『リザは私が嫌いなのか』って殿下の代わりに勉強しているのになーにが『私と勉強どちらが大事なんだ』ですか殿下が勉強されれば済む話なのですが!!」

「は…」

「学園で顔を合わせないも何も学園より外交優先で、で!ん!か!の!代わりにあちこち飛び回っていたのですがあとお忘れでしょうけど殿下が生徒会長なのに何故学園が上手くいっていたか考えた事ないのですかこの頭の中空っぽ王子!!殿下が!!しない生徒会の仕事を!!!私がしていたからですが!!!何が悲しくて学園の予算案と外交先で睨めっこしなくてはいけないんのですかこのボケ殿下!!!他の役員の方への仕事も振り分けないで何か思い付いた時だけ副会長にぶん投げて!!副会長が涙目で公爵家の門前で私を待っていた時は愕然としましたわ!!!」

「ちょっと待てリザお前…」

「王宮でお前の呼び出しに応えないのも!!殿下の仕事を代わりにしてたからです!!!王宮の人間も王宮の人間ですなーにが『即位したら自覚が芽生えて変わりますよ』だ!!!結婚前から婚約者にぞんざいな扱いしかしない男は結婚しても変わらないのですよ!!!」

「リザ…?」


困惑する殿下をよそに、私は続ける。


「殿下からの贈り物を身に着けないのは!!サイズが!!!全然違うからです婚約者のスタイルも一切覚えていない殿下!!!!ドレスも指輪もブレスレットも!!!大きいんですよ!!!辛うじて指輪はペンダントにして身に着けてたけど気付いてませんし!!?なーにが、『変わったペンダントだな』ですか!!殿下からのブッカブカの贈り物の指輪ですが!!身に着けていました!!気付かれませんでしたけど!!!」


悲しきかな、あの時の私は「初めて殿下からの贈り物の装飾品を身に着ける事が出来る」と喜んでた。困りながらも、まだ「婚約者からの贈り物」が嬉しい時期だった。


「何なら!!今も身に着けてましたが!?もういりませんわこんな物!!!」

「なっ…」


ペンダントを外して、思い切り殿下の足元に投げ付けた。


「ああそれと!もちろん私は国外追放となりますのでろくに『殿下のお仕事』の引き継ぎは出来ませんが、もちろん『殿下のお仕事』だったのですから問題無いですわよね!?」

「え、は…」

「言葉も話せなくなったんですのね!!仕方ないですね殿下ですもの頭の中身はきっと幼い頃に落ちたという王宮の池にでも落としてしまったのですものね!!!」


殿下はその場に座り込み、私が投げ付けた指輪を半泣きになりながら見つめていた。


「それとユリア様?」

「は、はい…!?」

「外見だけはとーってもお似合いだと思います。私は貴方に対して特に興味など無かったどころか忙しくて眼中にすら入らなかったので何もしなかったのですが、その私を陥れる為に様々な知略を巡らせて証拠すらでっち上げるその頭脳は殿下にはもったいなくってよ?」

「ひっ…!」

「あら、何故怯えているのですか私は外見と貴方の頭脳を褒めているのに。難点を挙げるなら、殿下の婚約者である私に王宮の者が常に付き従っているとご存じなかった点ですわね。そこさえ何とかすれば証拠は完璧でしたのに」


怯えるだけのユリア様に泣いている殿下……あら?もしかしたらこのお二人、案外良い組み合わせなのでは?

少しばかり頭の足りない泣き虫殿下の傍に、策略を張り巡らせる気概のある女性………ユリア様、私には及びませんが一応勉学にも励んでらしたようですし。……まあ、もう私には関係ない事ですが。


「さて、私は国外追放を言い渡されましたし、帰ります。ちょうど隣国から『未来の王太子妃でなければ是非とも我が国に来て欲しい、如何様にも望むままにしよう』と言われていましたし。問題があるとすれば、隣国の国王陛下に大変気に入られている事かしら……このような場で婚約破棄されて国外追放を命じられたと知ったらきっとお怒りになるでしょう」


その場に居た面々がそれぞれ青い顔をしていたけれど、もう関係ない事ですので。


「では皆様、いつかまたお会い出来る日が来れば良いですわね?」


私はそう言ってその場から立ち去った。

察しの良い方は「皆様その状態の殿下たちのお傍に居たら多分お会い出来る立場では居られませんわよ?」という意味に気付いたようで震えていたけれど。

私はそのまま我が家へ帰宅後、両親に事情を話し隣国へ早馬を飛ばし、早朝には隣国へと旅立った。







「リザ、お前は優しいな?」


隣国の国王陛下であるお髭のおじ様・フィル様は大笑いしながら私の頭を撫で回しました。

フィル様とは外交の際に出会ったのですが、お互いに「これ以上無い仕事上の良きパートナー」という認識が出来意気投合、とても熱いお誘いを受けておりました。


「ちょっと貴方!未婚の令嬢の頭を撫でるなんて駄目でしょう!?ねぇリザちゃん?」


柔和な笑顔で私を抱き締めてくださるのは、フィル様最愛の方であるこの国の王妃様。


「いやしかし、我が国から『王太子を廃嫡するのであれば金輪際国交は断つ』と声明を出した後のかの国の有様ったらなかったな」

「リザちゃんは何故王太子をそのままにしておきたかったの?いわゆるざまぁってする機会だったのに」


お二人の問いに私は答える。


「殿下が次期国王なら、こちらに有利な条件で交易し続ける事が可能でしょう?廃嫡してもしなくても、どちらにせよこちらが損をする事はありません」

「それもそうだが…」

「それに…」

「それに?」


私も案外頭の出来が悪いのです。

だからどうしても、思い出というものは消し去れなくて。


「あの人、サイズは全然把握されてなかったですが私の好みは把握してくださっていたのです。幼い頃の、ですけど」


装飾品は全て大き過ぎて身に着ける事は出来なかったけれど、幼い頃に私が城下の街にある庶民向けパティスリーのお菓子が好きだと言ったら、装飾品以外はよくそのパティスリーのお菓子を贈ってくださった。

本当は5年前にそのパティスリーは閉店してしまったのだけど、それでも、ユリア様が入学して来た後でもずっと、「忙しそうだが菓子くらい食べる時間はあるだろう」という嫌味とも思えるメッセージと共に同じ味のお菓子が届いていたのは。


「些細な事ですが、それだけで頑張れてしまう程に、私はセリム様が好きだったのです」


セリム様を廃嫡しないという旨と共に届いた焼き菓子も、私がずっと好きな味だった。

そしてその焼き菓子に添えられていた手紙には、「優秀な菓子職人を雇ってもらえないだろうか」……本当にあの人は、勉学は出来ないし私の気持ちは考えてくれないけれど。


「見てくれないのは私だけで、他の方の事はしっかり見る事が出来る方でしたので」

「……ある意味残念な奴だな」

「ええ、そうなのです。駄目な男性が好きな女性を惚れさせて頑張らせてしまうのです、あの人は」


だからこそ、ユリア様も勉学に励んでらしたのでしょうし。

女性を頑張らせる事に関しては天才だったのかもしれない。




私は殿下の口添えでやって来た優秀な菓子職人の作った焼き菓子を口にしながら、初恋をそっと、心の奥に閉じ込めた。

最後くらい言いたい放題言ってもいいんじゃないかなと思ったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何かちょっと切ないんです。このお話、好き。
[一言] いわゆる"報復系"作品では、(物理的に)痛い目を見させるEND も多いかと思うのですが、そういった過激なシーンを含まずに 爽快かつ面白く締めていらっしゃるのがとてもすてきでした! 魅力あふれ…
[良い点] 面白いです。 見たいシーンは全部読めたはずなのになんかちょっと物足りない感が、短いお話だからかな。
2024/04/09 12:02 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ