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9-12「不屈」

「は、春隠の地の平和が……! 愛と正義の盾はっ、拙者は絶対に負けないのですぞ……!」

「あっっははははははははァ!!」

「おんへぇぇぇぇ負けてないでござうぅぅぅぅ!」


 いなしては破り、弾いては貫き、殺しては超えた。

 ハナは……“ナイト”な構えの“くノ一”は、むしろ刀を槍として突き続ける鉄壁の“パラディン”じみていた。

 もっとも異相()から見れば、“ダーク”や“闇の”なんて冠詞が付くような“バーサーカー(狂戦士)”に他ならないのかもしれなかったが。

 上等だった。


「おままごとは終わりにしましょ! 正義の義賊さん!」


 例え悪鬼羅刹の類いに見られようとも、ハナは己が往く道を見ている。

 そこに、善いも悪いも無い。


「っっっっう……、《化身(ばけみ)》!!」

「隠鬼!!」


 再び。四本角を輝かせた隠鬼が床を踏み鳴らせば、突き上がった盾の黄金像たちがハナの追撃を遮断した。


「《土蛇(土の子、黄金の導なれ)》!!」


 ますます密度を増した置盾バリケードたちの奥へ跳び退きながら、隠鬼はツチノコ霊気を宿らせた金棒手裏剣をぶん投げた。


「あんた……その技を2度でも3度でも使ってあげるって言ってたけどさ!」


 ……構えの方向を変えていった置盾たちとそれらを結ぶジグザグの刺線の中。迫り来た金棒手裏剣をたった1歩の身かわしで背後へ見送り、ハナはあくまでも隠鬼からの刺線を視続けた。

 予備動作としてブーメラン軌道をとった金棒手裏剣は、数秒の後にツチノコ霊気の意志で天空から急襲するだろう……、


「1度っきりで、十分だわ!」


 だからハナは。ジグザグ刺線を、逆に辿った。

 両手の刀を、刺線めがけて投げつけた。


「おんほぉぉ……!?」


 置盾防衛線の奥に隠れた隠鬼が、たちまち見えるようになった……、

 そう、置盾に跳弾していった2振りの刀が防衛線を破壊していったからだ。

 忍刀改め風魔手裏剣だって跳弾したのだから、ハナの刀にできない道理があるだろうか……いいや、無いのだ。


「おんっ」


 ありったけのパワーを込めて猛進させた『無銘刀』が、左腕を超反応して“しまった”隠鬼の小判盾を1枚割った。


「おんっっ」


 一拍遅れて。ありったけのテクニックを込めて偏差跳撃させた『臨華』が、隠鬼の小判盾をもう1枚割った。


「ちぇすとッッ!!」

「おんっっっっ!?」


 そして。2振りの刀が破壊した置盾防衛線をまっすぐ前へと突き進み、ハナの跳び蹴りが最後の小判盾を割った。


「ぴえ……」


 跳弾する置盾を失った金棒手裏剣が、何の変哲も無いブーメラン軌道のままで帰還してきた……隠鬼も縋るように手を伸ばした、が。


「勝てば官軍、負ければ賊軍」


 先に得物を手にしたのは、空中から落ちてきた二刀をキャッチしたハナだった。


「負けたあんたに、正義は無いわねッッッッ!!」

「んんんんおおおお……!?」


 刹那。二刀で実現したセクスタプル(6連)スラッシュが、羽根突きの落書きじみた極太の『✕』の字を瘡瘍瘡蓋へ穿った。

 それらの交差は、無数の刺突が既に刻みつけていた傷を発破したのだ。


「拙者……は……」


 ポロポロと剥がれ落ちていった瘡瘍瘡蓋の奥から、曼陀羅風のコアが再びうなだれた。

 忍者形態の時は《空蝉》で“無かったこと”にされてしまったが、今度は隠鬼の四本角は完全に輝きを失ってしまっていた。


「……ッッ、もう倒れ……な…………!!」


 なによりも。忍者だった時には膝を付いてしまった彼女は……幼女義賊は、目の輝きすら失いつつもそこに立ち続けたのだった。

 文字通りの“不屈”の様に、ハナは刀を翻しながらもハッとした。

 コアに咲いた刺線の大花へ抉り込もうとしていた刃を、

 もう1歩進んで、別角度から振り下ろす。

 “超えて”“勝った”からにはハナの目に一点の曇りも無かった……が、


「お見事!!」


 “護り手”への敬意を以て、ハナは刺線の大花(コア)を首元から斬り落としたのだ。


 ーー 致命(Fatal Hit) ーー


 それは千方火龍の首を落としたのと同じ、意志を殺されてもなお気高き者への介錯だった。

 宿業から断たれた核心(コア)は地に落ちる前にビビ割れていき……空中で緩やかに静止すると、青と土色の混色霊気とともに砕け散ったのだった。


 ーー 命運戦 勝利(Fatal Slaind) ーー


「●●●●●●●●…………」


 そして隠鬼は、最期の瞬間のままに止まってしまった。

 その姿が瞬く間に散りかけたところ、胸の虚から溢れた霊気が全身を包んで(とど)めた。

 そこにはただ、霊気の生き仏が佇んだのだった……。

 するとどうだろう。異相世界で他のパーティと戦っていた隠鬼たちもまた、コアと似て砕け散っていた。

 結界フィールドが鬼火の輝きを強め、夜明けのような淡い眩しさで皆々を照らした。


『うおおおおおおおお!!』『勝ったあ!!』『ハナちゃんがやっぱり初見でやりやがったあ!!』『おめでとう!!』『ありがとう、ありがとう!!』『やっぱあんた、SSS級の女だぜ!!』『888888888!!』『(*’ω’ノノ゛☆パチパチ!!』


 異相世界からの、そして現し世の観戦者からの勝鬨が。ハナが見える限り9割9分の割合で、ハナの世界に集まった。


『おめでとーー剣豪ちゃん!◯ わたしの配信で拡散してあげるから今の気持ちを一言どぞ!◯』

『おネエちゃん、わたしを含めて今は誰も見てないと思うが』

『そういうことをわざわざチャットに乗せんな!◯ いいから配信のURL乗っけて!◯』

『おネ言う』


 残りの1分は奇人変人廃人の皮肉やワガママだったが、ハナも奇人変人廃人の自覚はあるので大目に見てやろう。


(あたしの勝ち)


 順逆二刀を非対称に鞘へ滑らせ、残心。心中の宣言をゆっくりハッキリと口パクさせた。

 ……見据えた先で……1枚の鬼火モニターの向こうで。大の字にひっくり返っていた青年武者イチが、チャットではなく真っ直ぐすぎるサムズアップだけを送ってきたのだった……。

 ーー 命運戦(Fatal Batlle) ーー

 ーー 大規模討滅戦(Raid Battle)の後半戦。討滅戦に指定される強大な存在には生ける“核心”が存在しており、25の異相世界に隔離して撃破を目指す ーー

 ーー 暴かれる“核心”とは、対象が魔なれど人なれど“生きる意志”そのものといえる。現世から切り離して拘束せねば、世界を滅ぼしてでも生き延びようとするだろう ーー

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