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9-8「やってやられて」

(フェイタルヒットで負かすしかなかった超回復千方火と似たようなものよ)


 永遠に殺せなくても負かしてやる、と一心から無心へ至るまでいなし続けた境地を思い出す。


(……それなら、勝てる……)


 ただ。あの死線と異なるのは。


(こいつを“超え”られなくても、“勝て”る。けど)


 彼我を超える剣を振るうのではなく、勝てる剣を振るうこと。

 彼岸へ両足を突っ込んでおきながら此岸へ帰ってくるような、“十二分”すぎる死闘ではなく……、

 あくまでも、此岸()にしがみついた“十分”な死闘であること。


(ワガママかな。ここまで来たからには死にたくない……けど、死ぬほどこいつを超えてみたいって思うのは)


 隠鬼の手裏剣撃を避ける……、

 背中が置盾にぶつかり、


「成敗! ですぞ!!」


 ハッとした時には、目前の3枚盾が《銭投げ》のジパング砂金を湧かせていた。


「っっふッッ……!!」


 回避だ。回避。

 ハナが回した視線は、袋小路として間近に乱立する他の置盾たちを捉えていた。

 今の立ち位置からは近すぎる行き止まりだったが、あの散弾を回避するには飛び込む他なかった……、


 ーー 言霊 最終段階突破 ーー

 ーー 異相観測 解放 ーー


 ……と、ハナが踏み込んだ瞬間の事だった。小さなウィンドウが3度目のアナウンスを発したのは。


(……っ?)


 今度は、霊気のバフに包まれはしなかった……、

 結界フィールドの内壁が、格子状に霊気を走らせた。

 その輝きに囲われた領域の1つ1つが、

 合計24枚ものモニターとして映像を表示していったのだ。

 ハナはそこに……、

 あの青年武者の背中を、見た。


「ござう!!」

(ッッ……!!)


 ついに《銭投げ》が放たれた……1粒1粒の刺線に世界を覆われた。

 ハナは、


 ーー 『千方の証 臨華』(右手装備) ーー

 ーー 『無銘刀』(左手装備) ーー


「!!!!」


 踏み込んだ脚を“回避”から“反撃”へ廻した。

 世界を塞ぐ散弾の刺線どもへ、二刀流を突っ込んだ。


 ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー ーー 弾殺(Parry) ーー……


「おんばばばばややややぁ!?」


 的外れな弾道のものは、無視してやった。

 襲い来る弾道のものは、弾き返してやった。

 小判盾は散弾粒が当たっただけでも割れ、3度以上は防げずに隠鬼を押し飛ばしたのだった。


「っっっっぅふぁ……!! で、できた……弾き返せた……」


 心臓が裏返ったかのごとく、ハナは焼けるように熱い吐息を喉いっぱいに吐き出した。手足なんかは血潮が逆流したのではと思わせるほどに“冷たく煮え滾って”いる。


(3枚の盾を破るにも散弾を返すにも、一刀流じゃ手数が足りない。だから二刀流、っていうのは是非もない対抗策なんだけど……)

 そう、これ(二刀流)こそ頭の片隅にずっとあった義賊殺しの策だ。

 ただ、ハナは己の力量を知っているがゆえにおいそれとは実行できなかったのだ。


(今のあたしの腕前(うでまえ)技前(わざまえ)じゃ、一刀流より精度はグンと落ちるから……。格下相手ならともかく、ボス戦ではむしろ悪手になるリスクのほうが高いんだけど……)


 芯を外したり剣筋が浅くなったりと、莢心戦で御試し済みだ。隠鬼祟来無のような雑魚戦ならともかく、ギリギリの死闘で振るうにはさすがにリスキーすぎる自覚があった。

 ……だが。


「やってみるものね」


 “やってやれ”ば、存外に超えていけるものだ。

 前へ。前へ。

 その切欠(きっかけ)を作ってくれたのは、いささか悔しいが彼の背中だった。


「で、なに? あのモニターの群れ」


 結界の内壁へ敷き詰められた合計24枚もの鬼火モニターを、もんどりうっている隠鬼越しに見据える。

 この結界決戦場を、それこそテレビゲームよろしく低めの三人称視点から撮った映像たちを。

 その全てにおいて、隠鬼は映っていたがハナはいなかった。

 どれもこれも、結界の中にいたのは異なる稀人たちのパーティだったのだ。


「えっ、他のパーティも……隠鬼と戦ってる……?」


 そう。たくさんのパーティが、その数だけ隠鬼と戦っていた。

 例の《分身》たちか。いや、違うだろう。

 彼らが戦っていたのはハナの前方にいる義賊隠鬼ではなく、蛇ダマでまだ四肢を拡張している忍者隠鬼だった。

 と、ハナはいくつかの鬼火モニターを介して稀人たちと目が合ってしまった。

 なにしろ他の結界の内壁にも同じようにモニターが切り分けられていたから……つまり向こうにだってハナを映すモニターがあるはずだったからだ。


(うっ)


 それらの注目に、ハナは隠鬼の散弾よりも怯んだ。さすがに映像越しでは刺線は現れないのだが、単純に人目嫌いなので反射的にたじろいでしまう。

 向こうの音声だけは聞こえなかったーーでなければ死闘に集中できないくらいやかましかっただろうから願ってもないーーが、ウィンドウの向こうとリアルタイムで反応しあえるということは双方向のライブ映像らしい。


『ハナ! やってるか!』


 しかし、ブレずにハナの目を引かせたのはやはり彼だった。

 盟友たちと組んだパーティの中で、ガラでもないだろうにまたタンクとして鎧袖と大太刀を振るっていた青年武者……イチ。

 忍者隠鬼のアクロバットな“隠形”戦術に拮抗しながら、十分には振り向けず横目を向けてくるのが精一杯の様子で。

 ソレは肉声ではなく、彼のそばから漫画の吹き出しよろしくポップアップしたテキストチャットだった。


(……あんたってホント……)


 風来姫と青年武者の横目同士が交差すれば。自分と同じように彼もまた不敵な笑みを転がしただろうことを、刺線が飛んでこなくても感じていた。


「っっいたたたたぁ……! ほ、本当に人間でござうか稀人どの!」

「ふん!」


 と、置盾で視線切りしながら蛇行接近してきた隠鬼に対し。


「見たら分かるでしょうが! 難しい年頃の女の子よっ!」


 風来姫は刺線を手繰り寄せた最短距離にて疾走。道を阻む金塊どもを斬り飛ばしながら肉薄した……。

 【腕前と技前】

 “技前”は『業前』とも書き、広義には“腕前”と同じ意味である。ただし武道において“腕前”は技を振るう力量を指し、“技前”は技を振るう前の攻め合いや間合いの力量を指す。

 技を振るう“腕前”だけでは技の前で殺され、技の前の“技前”だけでは技の中で殺される。両方をバランスよく鍛え上げるのは難しい。左右の手に同じ重さの刀を握っても、存外どちらかへ傾いでしまうように。

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